37 お薬を探そう
なんか知らんがこちらへやってくるというマシュハーダ王子。
かつての同級生である俺としてはあんまりお近づきになりたくない相手だ。
なので着いた早々お帰りになっていただければ一番いいと思った。
彼の来訪目的は、薬探し、ということらしい。
病気の妹さんに飲ませるんだそうな。
では、その薬がもう既に用意されていたら?
到着したその瞬間に献上して『用は済んだぜ』となったら、あとはその薬を届けに行くだけ。
何よりも先に王都へと帰っていくことだろう。
「どう? この考え?」
「非常にいいな!」
エクサーガ兄さんも賛同してくれた。
兄弟の意気投合楽しい。
「まあ正直? 俺もこの『イデオニール大樹海』について大分詳しくなってきたから、探し物も速やかに行くと思うわ。マシュハーダ王子は多分、こっちに向かってきている最中でしょう?」
王都から『イデオニール大樹海』のある辺境まで、それなりに距離もある。
「王子到着までにお薬を発見し、兄さんに献上してもらう! それで王子はとんぼ返り! 俺は平穏を保てて、王子は無事目的を果たせる、誰も不幸にならない! winwin! いいね!」
「いいな!!」
ということで方針が決定した。
早速行こうぜ薬探し。
「で、そのお薬というのは具体的にどんなの?」
さっきから繰り返し言われているが、ただの『お薬』だけでは具体性に欠けるもんな。
なんかの薬草かな?
それなら、またそのうちギルドで換金するようにコツコツ溜めてるものがあるから、その中から渡せるものがあればいいんですが。
……ということをエクサーガ兄さんに確認したら……。
「いや、薬草じゃない……!」
と返答された。
「じゃあ何?」
「そうだなあ、こちらで先に見つけるには、ちゃんと話さないといけないよなあ」
なんでそんなもったいぶるの?
怖くなってくるんですよ?
「王子がご到着するまでに事前情報を集めておくよう辺境騎士団にお達しがあってな。そのお陰で私も知る機会があったんだが……、霊薬の素材というのが……」
「うんうん」
「妖精だ」
……。
Yo Say?
「あるいはフェアリーとも言う。イディールも知っているだろう。人類とも魔物ともつかない小さな人。人の寄り付かぬ秘境に住み、滅多に人前に現れない。不思議な術を使い、人を惑わす。同時に悪戯好きで、人里で起こる不思議なトラブルのほとんどは妖精の仕業であるという」
「まあ、知識程度には心得ておりますが……」
「世界有数の秘境『イデオニール大樹海』にも妖精は住んでいて、しかも他の地域には見られぬ固有種がいるという」
妖精って一口に言っても色々いるからね。
ただ大樹海に妖精がいるって言うのは俺も初めて聞くんですが。
「で、その妖精が薬の材料になると?」
「うむ、正確には妖精の背中から生えている翅なんだそうだが」
ハネ?
「妖精から翅を引きちぎり、細かく砕いて粉状にする。それが万病に効く秘薬となるのだそうだ。その名もズバリ『フェアリードラッグ』」
それは……。
……何か聞くからにエグイ製法ですな?
「翅をちぎり取られた妖精さんってどうなるの?」
「妖精の生態はよくわからんから推測になるが、メチャクチャ痛いのはたしかだろう。その上死んでしまう可能性も高い。蝶やトンボだって翅を失ったら動きのほとんどを制限されてエサも取れなくなってしまう……!?」
聞いたら一気に気が進まなくなってきたんですが?
そりゃ俺だって生きるため狩りもするが、食べる目的外で生き物を徒に殺すのはいい気分ではない。
しかも妖精って、見た目は人とほぼ変わりないんでしょう?
人に近いものを殺したりいたぶったりしたら絶対後味悪いって! ただしゴブリンは別だ。
「なんか悪意ある思念を感じ取ったんだけど!?」
騒ぐゴブリーナは置いておいて、話を進めた。
「自分で提案しといてなんだけど、やっぱりやめない? 明日食うメシが不味くなる行為はしたくない」
「私だってそうさ。しかし、我々がやらなくても、いずれやってくるマシュハーダ王子が同じことをするのだぞ。この大樹海に入り込んでな」
あの王子、そういったグロめのことも躊躇いなくしそうだよな。と言うか、する。
そして大樹海に入ってきたら俺と遭遇してしまう確率も高まるわけで……。
ロクなことねーな。
「あの、発言よろしいでしょうか?」
と言って手を上げるのはメイド服のコレーヌだった。
何かね?
「マスターの優しい心遣いに、わたくし感銘を受けました。なのでマスター、惨たらしいことをせずに目的を達する手段を模索なさればよろしいかと存じます」
「そりゃあ痛いことなく薬がゲットできればそれが一番いいんだが、そんな都合のいい方法あるの?」
「あります」
マジで?
「お忘れですか? マスターには他の者にはありえない唯一無二の手段があるではないですか。絆召喚術という手段が」
あー。
そうか!
俺には絆召喚術があった! すっかり忘れてた!?
「絆召喚術は、契約相手にゆかりのある事物を召喚できるルールです。体の一部を薬品に加工できる妖精なれば、その絆でやはり薬品を召喚できる可能性は高いのでは?」
「それだッ!?」
絆召喚で薬を呼び出せば、妖精への負担はゼロ。
翅をもぎ取るより断然いい。
「いいじゃないか、その案採用! コレーヌは冴えてるなあ!」
「従者として当然の助言です」
と控えめな態度であるが、表情はどこか嬉しげであった。
ウルシーヴァやニャンフーみたいに尻尾があればブンブン振ってそう。
「よし、ならばやることは決まったな。薬の材料になる妖精を見つけ出して、絆契約を結ぶ! それでもって薬を召喚する!」
それで誰も傷つかないで目的達成だ!
そろそろ新しい絆召喚獣を迎えたいと思っていたところなので、それもちょうどいいかもな!
◆
で、妖精探しに乗り出したんだが……。
「妖精ってどこにいるの?」
『イデオニール大樹海』にこもり出して早数ヶ月。
その間、スライムから吸血鬼まで様々な異種超越種と出会ってきたが……、妖精なんてものに出会った覚えは、ついぞない。
いるの、ホントに?
「滅多に見つからないから妖精なのだろう? ヤツらは体が小さい上に、身を隠すのが上手いらしい……と本に書いてあった」
同行するエクサーガ兄さんが言う。
この人ホント付き合いいいな。
「弟を助けるのは兄の使命……。それを怠ることは金輪際しないと決めたのだ。それに上手く薬を手に入れられたとして、王子に献上する役目は私以外に務まらないだろう?」
再会してから、ずっと使命感に燃える兄さんだった。
「話を戻すが、妖精がもっとも得意とすることこそ身を隠すことらしい。弱者が生き抜くための戦法でもあるが、元来の性格で妖精は悪戯好き。悪戯を遂行するために人の目を盗むことは不可欠だとか」
「なんか迷惑な話だね」
「だからこそ妖精の発見例は非常に少なく、その翅が霊薬と珍重される原因にもなったのだろう。妖精の種類によっては、姿を見た相手を殺そうとする者までいるそうだ。大樹海に住み着く精霊が、そんな習性でなければいいのだが」
それは……、本当に……!?
「そういえば妖精ってどんな姿してるの? 見たことないんじゃ見つけてもちゃんと気づける?」
「妖精にも色々な種がいるそうだが、ここ大樹海に住むヤツは可愛げな少女の姿で、ただし掌に収まるほど体格が小さいらしい。そしてその背中からは昆虫を思わせる透明な翅が生えているとか……」
それが霊薬の材料になるんだね。
名前や外見がわかっても、それが視界に入ってこなけりゃどうしようもないのだが。
しかも身を隠すエキスパートなんでしょう? 事実俺だって大樹海に入って数ヶ月、偶然に目撃したことすらないというのに。
そんな相手を簡単に見つけ出せるというのか?
マシュハーダ王子が到着するまでと時間制限もあるのに?
途端に難しく思えてきたぞ!




