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34 兄帰る

 吸血鬼さんはもう哀れなものだった。


 ボロボロに崩壊していく自分の身体を止められず、もはや朽ちるに任せるのみ。

 コレーヌが放った『ルベド・ブラスト』の効果らしいが、あれはどうやら物理法則を越えた『魔の理』で動く存在には天敵らしい。


 その紅光を浴びた体は、それこそ魔法が解けたかのように潤いを失い、渇いて崩れ去るのみ。


『月光よ! 月の加護よ、我を照らし癒したまえ! ……ダメだ全然効かないいいいッ!?』

「太陽の下で過ごすことと引き換えに得た、月の加護。それは根本的には邪法です。その邪法によって存在を保障されていたアナタの身体ですから、『ルベド・ブラスト』によって邪法そのものが打ち消されれば崩壊するしかないですよ」


 コレーヌの無慈悲な説明。

 死刑宣告を読み上げるかのようだ。


 進行はゆっくりだったようなので、何もしなければまだ命は伸びただろうが、変身して全力全開モードになったことで崩壊進行も一気に加速したとのこと。


 それでも全部が崩れ去るにはまだ時間もかかるようだ。あの質量だから、一気に崩壊するということも難しいらしい。


 それまで無用の苦しみに喘ぎ回ることになるが、いくらゲスでもあまりに可哀想だ。

 ここは一思いに苦しみを断ってあげるとしよう。


【絆召喚術Lv57>絆:コレーヌ(オートマタ)>召喚可能物:補助駆動付きガントレット】

【複合絆召喚術Lv57>絆1:ゴブリーナ(ゴブリン)>絆2:ウルシーヴァ(ヘルウルフ)>召喚可能物:村雨丸】


「イディール!? その手は……!?」


 俺が右手に剣を携えているのを見て、エクサーガ兄さんが困惑している。

 まあ、俺の過去を知っているなら当然か。


「……色々あってね、この手甲が俺の右手を使い物にしてくれるんだ」


 説明が難しいので、簡潔に省いた。

 ゆっくり説明してたら、コイツが塵になってしまうしな。


「…………吸血鬼ネクドリオン」


 最期にその名を呼ぶ。


「お前は、俺の仲間に危害を加え、あまつさえ侮りの目を向けた。それでお前との友好を断つ理由には充分だし、生かしておく理由もない」

『助けて……! 降参する、助けて……!』

「無論助けてやるつもりだ。コレーヌの力でお前はもう崩れ去るしかないからな。要するに死はもう避けられない」


 だから……。


「俺がお前に施してやれる救いとは、これ以上苦しみが長引かないようにしてやることだけだ」


 せっかくガントレットで右手が使えるようにしたんだ。

 それによってはなつ剣技はただ一つ……。


「正統イグゼスター流『滝割り』」


 この国の騎士に伝わる正統剣術で、吸血鬼の身体をすっぱり縦に割って両断した。


 絆召喚した村雨丸は魔を祓う霊刀。

 だから吸血鬼にだって普通に効く。


 一刀両断された吸血鬼は、それによって完全に絶命し、一瞬のうちに崩壊して塵になった。


 デッデデーン。

 勝利。


 初めての魔族との戦いだったが、思いのほか捗ったな。

 これも絆召喚して戦ってくれた仲間たちのお陰だがコレーヌ、スラッピィ、ゴブリーナ。

 ありがとう。


「私ら何もしてない……」

「ただビビってるだけだったにゃー……」


 向こうでウルシーヴァとニャンフーが黄昏ていた。

 何、そのうちキミらにも出番はあるって。


「イディール、お前は一体……!?」


 さらにその向こうでエクサーガ兄さんがワナワナしていた。


「吸血鬼をアッサリと倒してしまうなんて……!? 本来であれば騎士団総出で当たらなければならない相手だぞ吸血鬼は? 通常攻撃では致命傷を加えられず、特別な聖属性攻撃でとどめを刺すか、夜明けまで釘付けにするか……。どちらにしてもかかる犠牲は甚大だ……!?」

「そうらしいね」


 しかし少人数で倒せてしまった。

 そんな俺の仲間たち超優秀。


「吸血鬼を滅せられたのは、その剣の力か? 尋常ではない清浄さを感じる……?」


 と兄さんが視線を送る先は、召喚されし霊刀・村雨丸。

 さすが兄上、お気づきになりましたか。


「騎士団にも、魔のモノへ対抗するため聖別武器が支給されるが、団長クラスの限られた人員にしか配られない上に、その剣ほど強大な滅魔力は含んでいなかったように思える。つまりはその剣は……、国内に何振りもあり得ぬ、神器?」


 うーん、そこまで凄いものなのかなあ?

 俺としてはただ単に召喚した剣なのでそこまで有り難いものだという実感がない。


「それにあの吸血鬼は、最初のコレーヌの攻撃で致命傷を負ってたからなあ。とどめを刺したのは俺だけど、それがあったから死んだというわけでは断じてない」


 あれ以降の攻撃は、ただ徒に痛めつけただけというか。思えば悪いことをしてしまったな。

 相手が死んだあとで思う。


「そ、そうだ、ここにいる人々は何者なのだ!? まさかこんな秘境の奥にイディール以外にも人がいようとは……!?」


 エクサーガ兄さんが見回すコレーヌ、ゴブリーナ、そしてスラッピィ。

 兄さんにとっては、その存在自体が謎だろう。


「彼女らは俺の仲間だ。俺の研究する秘術によって迎えることができた」

「秘術?」

「絆召喚術だ」


 俺が騎士学校をサボって冒険者稼業を続けるうちに出会った希少魔術。


 その奥深さに魅せられて、術を極めんと研究を進めている。

『イデオニール大樹海』にこもるのもそのためだし、実際に絆召喚術の研究発展のために最高の環境だと思っている。


 強くてヤバい絆召喚獣候補がわんさと出てくるし。


「というわけで兄さん……さっきの話の返事なんだが……」


 吸血鬼襲来で中断されていた案件を進める。


「俺はここで自分の思うことを突き進めたい。それは絆召喚術を極めることだ。それにはまだまだかかりそうなので。俺は大樹海に腰を据えていきたい」


 だから兄さんと一緒に街に帰ることはできない。


「申し出はお受けできません。すみません」


 こんなところまで命がけで来てくれたエクサーガ兄さんへあまりに薄情な対応だとも思う。

 しかし俺の欲求のためにはこう答えるしかなかった。


 益々兄さんへの申し訳なさが湧き起る。


「…………」


 兄さんは、しばし沈黙を続けていたが……。


「……やはりイディールは立派だな」

「えー?」

「我々には思いもしない自分だけの道を切り拓くとは。やはり我ら兄弟の中でもっとも才能に恵まれているのはイディールお前なのかもしれんな」

「いえいえいえいえいえいえいえッ!?」


 そんなまさか!

 俺なんぞよりもエクサーガ兄さんの方が才能あるし、さらに言えばゼクトウォリス兄さんこそ真の天才だろう!


「偉大過ぎる才能こそ凡人には理解の及ばないものだ。だから天才などと誉めそやされている兄などはヒトに理解される程度の才ということなのかもしれん。イディール、お前が何をしでかそうとしているか正直私にはわからない。だからこそお前が大きく優秀に見える」

「兄さん……!」

「凡人は謙虚になることで、自分には理解もできない何かがある、ということぐらいは理解できるのだろうな。今日私は、それを実感した」


 エクサーガ兄さんは、黙って俺の手を握る。


「私にできることは、お前の邪魔をしないよう、去ることだけのようだ」

「兄さん、そんなことは……」

「私は辺境守護騎士団の務めがあるから街に留まる。会おうと思えばいつでも会える。あの家で暮らしていた時よりも距離は近いさ」


 兄さんが、兄弟としてこんなに温かい言葉をかけてくれるなんて……。

 ヤバい泣きそう。


「というか兄さん、騎士団の仕事はいいの? ここまで来るのに何日かかかったろうけど、その間もしや無断欠勤?」

「ちゃんと届け出は出して受理されてる。新人だが勤務態度がいいので、無茶だが通してもらえた」


 そんなこと言って、きっと入団早々目覚ましい成果を上げて高評価を受けてるんだろうな。

 それで無理を通したんだろう。

 だってエクサーガ兄さんだもの。


「しかしそろそろ戻らぬと有給分からはみ出るな、できるだけ急いで帰らねば」

「待って兄さん、そういうことなら……!」


 大樹海は難所、帰路だって安全とはまったく言えない。

 来る時ですら遭難者同然だった兄さんを、まったく同じ道筋に一人送り出すわけにはいかぬ。


「そうだ、コレーヌに送ってもらいなよ! 彼女の能力なら街まで一っ飛び……!」

「お断りいたします」

「あるぇーーッ!?」


 何故かコレーヌの方から断られた!?

 なんで!?


「お忘れですかマスター? 強化外装タイプ:イーグルは輸送用の機体ではありませんので貨物スペースがありません。それでも無理矢理搭乗するには精々わたくしに抱き着くぐらいしか方法がありません」

「うむうむ?」

「マスター以外の者が私に触れるなどあってはならないことです」


 そういうこと!?


「なので断固として拒否いたします。彼を街まで運ぶなら、他の手段もあるのでは? 新たにこんな召喚物がリストに出てきましたが……」


【絆召喚術Lv57>絆:コレーヌ(オートマタ)>召喚可能物:弾道ミサイル】


「なんかダメッ!?」


 よくわからないがとんでもなく嫌な予感がしたので却下した。


 仕方ないのでエクサーガ兄さんのことは、ウルシーヴァの部下のオオカミに乗せて街まで運んでもらった。


 それでも片道一日とかからなかったらしいのでオオカミくんも優秀だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 弾道ミサイル・・・それこそ某真祖の吸血鬼かマケレン〇ジャーにでもならないと。
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