33 絆召喚大進撃
「こッ?……これはなんだ……ッ!?」
と声を漏らしたのは兄さん。
そこへ現れた鋼鉄の巨人を呆けた表情で見上げている。
「ゴーレムだよ」
まあ兄さんにとっては度肝を抜かれたであろう。
それまで影も形も見当たらなかった大質量が、ポッと降って湧いたように現れたのだから。
「二千年もこの場を守り続けた古代文明の申し子だ。俺が絆召喚術で仲間にしたんだ」
「きずな……召喚術……?」
「俺が大樹海にこもる理由だよ」
せっかくの機会だから実地で兄さんに解説できるといいなと思った。
それに際してあの吸血鬼は格好の実演対象だ。
いやもうコレーヌ(鋼巨人形態)の放った閃光に飲み込まれて欠片も残ってないけど。
「っていうかコレーヌあんなの出せたの!? 何アレ、ビーム!?」
『「ルベド・ブラスト」はギガント型強化外装に搭載された主要兵装です。かつて二千年間わたくしがまとい続けた方は経年劣化で機構が崩れ、失われた機能となってしまいましたが、マスターによって新たに召喚できるようになったこちらでは問題なく使用できます』
ああ、そうなの……!
よかったね……!
「しかし、凄いのドーンとはなっちゃったおかげで吸血鬼が塵となってしまったが……。頼もしいけどもう終わりなの……?」
せっかくこれから色々見せつけてエクサーガ兄さんに絆召喚術の神髄を見てもらおうと思ったのに。
張り合いないな吸血鬼。
『ご安心くださいマスター』
コレーヌがゴーレムに乗ったまま言う。
『そう言われると予測してちゃんと手加減はしておきました。ご覧くださいマスター。吸血鬼は消し炭にした程度で死ぬような輩ではありません』
「えええー?」
ゴーレムの巨大な指がさす先。
虚空に蟠った灰が少しずつ集まって塊となり、それが段々と大きくなり人の形を成していく。
『吸血鬼の再生力は魔族随一です。月と誓約を結ぶことで、月光の及ぶ範囲ではその加護を最大限に得られます。月の光ある限りヤツらは消滅からでも元の状態に復元可能なのです』
ヤツらが『夜の支配者』とあだ名される所以。
コレーヌが説明しているうちに塊は、完全に人間の五体を成して復元された。
あの吸血鬼が、破壊される前の顔をそのままに獰猛な笑顔を浮かべる。
「なんという僥倖! あのゴーレムを発見しただけでなく、そのような変化までしているとは! そのなめらかで艶めくかのごとき表面、まるでうら若き処女のようではないか!」
『気持ち悪い表現やめてください』
絆召喚で呼び出されたゴーレム強化外装は新品同然。
たしかにコレーヌが、俺と契約を結ぶまでまとっていた古い方と比べれば、幼児と老人ぐらいの肌艶の差だろう。
「まして言葉が通じるとは、そのようなゴーレムはいまだに報告例がない! 吾輩が第一発見者というわけか! これを献上すれば魔王様はさぞかし喜ばれるだろう! 吾輩の評価もうなぎ上りだ!」
やっぱりそうなるわけね。
しかし残念ながら、コイツのようなゲスにコレーヌをさらわれる予定は未来永劫ない。
「ここまでで、お前のゲスっぷりは充分に把握できた。あまりにゲスすぎて、お前とは絆を結べそうにないこともな」
俺としては絆召喚術の研究発展が目的なので、出会った相手とはできるだけ絆を結びたい。
しかし、どうしても仲よくなれないヤツってのは世の中たしかにいる。
生物としてあまりに未熟なために『絆を結ぶ』ということを理解できない相手もいるが、それ以外に品性下劣で、こちらの嫌悪感をどうしても抑えられないヤツもたまにではあるが必ずいる。
目の前のアイツなんかがそうだ。
だからあの吸血鬼と絆を結ぶという選択肢はナシだ。
「さらにどんだけボコボコにしても再生するんなら、解決方法はお前を殺す以外ないってことだ。恨むなよ。恨むんなら自分自身の腐った性根と、中途半端な能力を恨め」
「何を生意気な! 下等で、脆弱で、無知で、愚かで、汚らわしい人間風情が!!」
また罵倒語が増えたなあ。
「たった今見せてやった絶対的事実を理解できぬなら、無知で愚かというのは当然! 我ら吸血鬼は月の絶対的加護を受ける! 月光の及ぶ範囲で我らを殺すことは不可能だ!」
「その代わり日光を浴びるとすぐ死ぬけれどね」
月へ、すべてを捧げて誓約を誓った吸血鬼は、だからこそ月光の及ばない範囲で能力のほとんどが制限される。
さらに月光より遥かに強く鮮烈な日光の下では、耐えきれずに魂ごと消滅してしまう。
哀れな生き物だ。
何故そんなことを知っているかというと……。
「俺も冒険者の端くれで、かつては騎士志望だったからな。厄介そうな魔物のことは片っ端から調べて頭に叩き込んでいる。お前ら吸血鬼のことも……」
日光の他の、吸血鬼の弱点も……。
「……当然知っている。スラッピィ」
『キュピピ!!』
俺の頭上に載ってくるスラッピィ。
「任せたぞ」
『キュピ!』
【複合絆召喚術Lv57>絆:スラッピィ(スライム)>召喚可能物:水(渦)】
ズドドドドーッ、と発生する大量の水。
スラッピィとの絆で召喚されたものだが、術レベルを上げることであんな大量に召喚できるようになった。
洪水じゃん、もう。
「ぎゃあああああッ!? 飲まれる!? 飲まれウゴゴゴゴゴ……!?」
吸血鬼も空中に浮いているとはいえ、それすら飲み込んで押し流すほど水流は凄まじい。
そしてそれこそが吸血鬼の弱点なのだ。
「水は光を屈折させて、月の聖性を漉し取ってしまう。だから水中に落ちた吸血鬼は月の加護を失い弱体化する」
さらに流水は、それ自体が汚濁を洗い流す清浄の象徴。
邪に属する吸血鬼にとって尚更相性が悪い。
「というわけで流水は、日光を除けば吸血鬼最大の弱点であり対抗手段だ。どうだ、川で洗われる芋のようになった気分は?」
「うご……! 黙れええええええッッ!!」
うおッ?
力任せに魔力を暴発させて水を吹き飛ばしやがった?
月の加護は最小限になっている状態だから地力でそこまでやれたのか、やはり吸血鬼の底力は凄まじいな。
「小賢しい人間が! 多少物知りであるのは認めてやるが! それで絶対的存在たる吸血鬼を倒そうなど笑止千万!!」
「大量の水を召喚したスラッピィも褒めてほしいんだけど」
『キュピピピッ!』
それに、もちろんそれだけで勝つ気はないしな。
そうだろうゴブリーナ?
【複合絆召喚術Lv57>絆:ゴブリーナ(レディゴブリン)>召喚可能物:青龍偃月刀】
「イエスだぜダンナ」
いつの間にかゴブリーナがいた。
吸血鬼の背後に、奇襲をかけるかのように気配を断って。
その両手には、凶悪なまでに大きな湾刀。
その巨大な刃を、小枝のように振り回す。
「ぎゃだぱーッ!?」
一瞬のうちに吸血鬼の両手両足が胴体から切り離された。
さすがゴブリン、やることがエグい。
「吸血鬼の活け造り一丁上がり。不味くて食えたもんじゃねえだろうけどな」
吸血鬼なら手足ぐらい簡単に生え変わるだろうし切っても繋がるが、その暇も与えず蹴り出して、再びスラッピィの作り出した水流の中に落とす。
「んごぶぶぶぶぶぶッ!? ごぶぼうッ!?」
手足がなきゃ水を掻きまわすこともできないし、より水流から脱出も困難になるだろう。
一歩一歩確実に追い詰められる吸血鬼。
「どうだい『夜の支配者』さんよ? ゴブリンごときにきざまれた気分は? 上等だと思っているヤツのプライドを踏みにじってやるほど楽しいことはないぜ?」
「バカなゴブリンだと!? ゴブリンがここまで早く動けるとは、しかも見目麗しい、グゴゴゴゴゴゴッ!?」
ダルマにされて再び水中に放り込まれるという拷問。
盗賊だってここまで極悪非道なことはしないだろうというドン引き加減だが、相手があの吸血鬼だとアラ不思議、全然良心が痛みません。
「おのれ……! 高貴で、高潔で、理知に富み、そして最強の吸血鬼である吾輩を愚弄するか……! 許さぬ……! 許さぬぞおおおおおおッッ!!」
おお、吸血鬼が変身した?
斬り落とされた手足も一瞬のうちに再生し、しかも以前よりずっと太く長く、そして毛むくじゃらの手足になった。
それどころか全身まで毛むくじゃらとなり、総身の逞しさは前の数倍。
なんとおぞましい獣だろうか。
なんと言うか蝙蝠とオオカミの、醜く凶悪な部分だけを選りすぐってまとめたかのような怪物。
『ゲババババババ! 人間ごときに、この吾輩の殲滅形態を披露することになるとはな! この姿の吾輩に屠られる最期を至高の栄誉と心得よ人間!……あれ?』
殲滅形態か、凄いなあ……。
でもその殲滅形態とやら、なった傍からボロボロ崩れていますよ?
『ぐおああああああッ!? なんで? なんでだッ!? 吾輩の身体が崩れる!? 再生できない、なんでえええええッ!?』
「わたくしの『ルベド・ブラスト』を食らったのです。消滅するのは当然でしょう」
コレーヌが……もう強化外装を脱いで元の状態にお戻っておる?
もう必要ないと判断したのか?
「『ルベド・ブラスト』は、ただの収束光兵器ではありません。錬金術による『真法』の付加によって邪なる法則のすべてを消し去ることができます。吸血鬼などその作用範囲のド真ん中です」
ってことは……?
「最初に『ルベド・ブラスト』を浴びた時点で、彼がこの世にある理由は消し去られ、死滅するのは決定していたのです。ただ一瞬で消してしまっては悔い改める時間もありませんので、少しずつ蝕むよう威力を調節しておいたのです」
それが今になって効果を発揮してきたってことか。
何故このタイミングで?
「恐らく変身したことで全魔力を解放し、それがきっかけになってタガが外れたのでしょう浸食が一気に加速したのです」
『ごげえええええッ!? 嫌だ、嫌だ体が崩れるううううううッ!? 再生、再生しないいいいいいいッッ!?』
あれだけ強そうで偉そうだった怪物が、今は見る影もなくボロボロ崩れ去っていく。
消滅はもう時間の問題だった。
「自分で自分の死期を早めた、愚かな末路ですね。もっともわたくしの紅光を受けた時点でアナタの死は確定したのですが。これも我がマスターを愚弄した罪と知りなさい」
『んぎゃああああああッ!?』
いや俺を悪く言ったくらいでここまで悲惨な死に方するのは厳しいよ?
俺としては俺の仲間たちに危害を加えたことの方が罪深いので、そちらの落とし前をキッチリとつけたいな。




