30 次兄来訪
その日もスラッピィと戯れていた。
「スラッピィ! 水鉄砲だ!」
『キュピピピピピピピピッ!!』
スラッピィが召喚した水が、それなりの水圧で飛んで標的の気を粉々にする。
破壊力、怖い。
「スラッピィも絆召喚術の色んな応用ができるようになったなあ。そのうち水圧で切断しそう」
『キュピピピピピピピピッ!』
褒められているのがわかったのか、嬉しげに跳ねるスラッピィ。
はぁ、可愛くて癒される。
そんなまったりした昼下がりのことだった。
「主様、報告いたします」
「何かな?」
我が絆召喚獣の一人、ヘルウルフのウルシーヴァが駆け寄ってきた。
絆召喚術の不思議パワーで乙女化したらしいウルシーヴァだが、群れの部下を多数率いて、その子らは今も普通にオオカミだ。
オオカミたちは俺からドックフードを供されることと引き換えに丘の周囲を駆け回り、異状がないかの見張りをしてくれている。
もし危険な何かが現れたら、すぐさま知らせるシステムになっている。
その一方で、我がチームもう一方の獣であるニャンフーとトラどもはあっちでゴロゴロしている。
「にゃむにゃむ……。日向ぼっこ気持ちいいにゃあ……」
ヤツらも、俺の見てないところでネズミを獲ったりして役立っていると思いたい。
……で、何だっけ?
そう、ウルシーヴァからの報告だ。
「我らのナワバリに侵入者です」
「侵入者?」
それこそ、いつぞやのウルシーヴァやニャンフーのように?
また大樹海に住む上位のモンスターが、俺たちの住む丘を狙ってやってきたか。
なんか好立地らしいからな、ここ。
野心的な国家が領土を狙うような感覚で攻めてくるらしい。
「で、ソイツはどんなヤツ? 相手によってはコレーヌにも出動してもらわないと」
あんまり強くなさそうな侵入者がいいな。
ヘビーなバトルは胸焼けする。
「もうすぐ運ばれてきます」
「運ぶ?」
疑問に思っていたところへ、実際にオオカミたちが侵入者を運んでここまでやってきた。
正確には、意識のないどちら様かの襟を加えて引きずってきた。
「うええええええええッッ!?」
これッ、侵入者じゃない!?
ただの行き倒れだよ!?
どこからどう見てもなんの変哲もない人間!
男性か!?
恐らくは大樹海に進入し迷った挙句、奥まで入り込んでしまったのだろう。
俺たちのいる丘は『イデオニール大樹海』のかなり奥まったところにあるようだから、普通に考えて人間が辿りつくことはなさそうなんだがな。
「とにかく見つけてしまったからにはレスキューしなければ……!」
さすがに放置するわけにもいかぬ良心の呵責的に。
引きずってきたオオカミたちは一仕事成し遂げたような表情で『偉い? 偉い?』『褒めて? 褒めて?』と言わんばかりだったので、絆召喚した犬用おやつを与えておいた。
とりあえずうつ伏せに倒れていたので仰向けにしてみると、ここまで引きずられてきたせいか顔が土塗れだった。
何日も彷徨っていたのか髭も濃く、完全な遭難者の様相。
「まずは体を洗ってやることからするか……! スラッピィ、水掛けてあげて!」『キュピ!』
「水圧弱めにね!」
これ言っとかないと、本気の強さで水掛けたら要救助者が肉塊になってしまう。
ジョロジョロジョロジョロジョロジョロ……。
その程度で綺麗な水で洗うと、とりあえず表面についてる土とか泥は流せた。
それでも顔は髭もじゃで人相はまったくわからん。
よほど疲弊しているのか、水ぶっかけてもまだ意識が戻らないし……。
「とりあえずベッドに寝かせとくか?」
しかしコレーヌから『そんな汚れた人をベッドに寝かせるんですか?』という無言の視線が送られてきたので、まずは本格的に体を清めるか。
顔は洗い終えたが、着ているものは汗と泥を染み込んでどうしようもない。
仕方ないから脱がすか……!
相手は男性のようなので、ウチの女性陣に任すことはできない。
俺みずからやる。
「っていうか全身鎧じゃないか……!? こんな重苦しい格好で樹海を歩き回るって正気なのか?」
しかも、このカッチリした意匠。
冒険者のものではなく騎士の正規鎧だな。
じゃあ、この人は騎士?
騎士がなんで大樹海をさまよっているのか? 演習でもあった?
とにかく推測しても答えは得られなそうなので作業に没頭しよう。
暑苦しい鎧を脱がせて……。
で、まあ遭難者らしく体も垢と埃塗れなんで擦って洗い流し、拭いて、やっと綺麗になった。
ついでだから髭もそっとくか。
【複合絆召喚術Lv57>絆1:ゴブリーナ(ゴブリン)>絆2:ウルシーヴァ(ヘルウルフ)>召喚可能物:村雨丸】
この剣、髭も綺麗に剃れるほど切れ味鋭いんだよね。
ジョリジョリジョリ……。
よし、これでオッケー。
髭を剃ったら途端に男前になったな。こんなハンサムフェイスなら近衛兵になって舞踏会でレディにモテモテになれたであろうに。
こんな辺境で行き倒れて、一体何をやらかしたのやら?
「…………ん?」
ちょっと待て?
この顔、どこかで見た覚えがあるような……?
どこでだっけ?
ヤバい、すんなり思い出せない。
大樹海での生活に慣れすぎて、昔の記憶が曖昧になっている。
もう少し、喉元まで出かかってるんだが、もどかしい!
「そう……、『え』、『え』から始まって……エキスパンション! 違う!?」
え、え……!? えき……、えく……!?
「そう、エクサーガだ! 誰だっけ!?」
俺の兄さんじゃないか!?
そこまで忘れてるなんて俺ヤバいな!?
でも思い出した!
エクサーガ兄さん!?
兄さんが何故こんなところで!?
今年か昨年か、めでたく騎士学校を首席で卒業したエクサーガ兄さんは、鳴り物入りで正規の騎士として叙任されたはず。
成績が成績だけに、それこそ近衛兵や王都騎士団にも着任でき、出世街道のド真ん中を驀進できる人であったはずだ。
間違ってもこんな僻地で行き倒れる人ではない。
エクサーガ兄さんに一体何があったの!?
「……うぬ……?」
困惑しているうちに兄さんに異変が!?
目覚めた!?
「ここは一体……!? そうだ私は森の中を彷徨って……!?」
「兄さん大丈夫? とりあえず水飲も?」
スラッピィとの絆で召喚されたペットボトルの水を、兄さんの口に運ぶ。
よっぽど渇いていたのだろうか、咥えたペットボトルを仰ぐようごくごくと飲み干し、あっという間に空にしてしまった。
「……い、生き返った。どなたか存ぜぬが助かりました。私は道に迷い……」
「自殺行為だよー。騎士学校じゃ未開領域の進み方なんて教えてないんだから。素人が迷い込んだら生きては返れぬのが大樹海だよ」
「大樹海……そうだ私は、大樹海にいるという弟を探しているのです。ご存じありませんか私の弟を? 名をイディールというんですが……あれイディール!?」
「はい、イディールです」
こんなに話し込むまで気づけないとは。
兄さんもまだ遭難した影響で意識が朦朧としているのかな?
「どうしてお前がここに!? いやイディールすまなかった! 私が守ってやれなかったばっかりに! あのクソ親父は縁切りしてやったから一緒に帰ろう!」
「兄さん落ち着いて、混乱して言うことがまとまってないよ」
一体どうしてエクサーガ兄さんがここにいるのか?
いや、ここに来たのか?
勘当された俺にとっては、もはや他人というべきだが、こんな奥地で行き倒れた兄弟を放っておくほど非情にはなれない。
一体何があったのか詳しく問い詰めなければ。
進みましたので、ここからは少しペースを落として隔日更新となります。
次の更新は7/5(月)になります。お待ちください。




