29 仲間たちの料理対決
「卵がたくさん獲れました」
「お、おう……!?」
コレーヌが唐突に言い出したために困惑した。
「先日、街へ行った時、家具や服と一緒に料理道具も大量に購入したのです。基地のキッチン回りも充分に整えておきました」
「基地?」
キッチンだけに?
「前々から考えていたのです。マスターには日頃からもっと温かい手料理を召し上がっていただきたいと。その機会がやっと巡ってきたのです」
そういえば……。
丘の上に建てたログハウスの一角で、なんかガヤガヤやってたよなコレーヌ。
スラッピィやゴブリーナまで駆り出して。
それで出来上がったのが、キッチン。
見てみれば水場に釜土と完全完備しているではないか!
「本日はマスターのため、わたくしみずから手料理を供したく存じます! ダイニングでお待ちください!」
「あ、ハイ……!?」
っていうかコレーヌって料理できるの?
ゴーレムから出てきた女の子だから戦闘用というイメージ強いんだが。
「わたくしは全状況対応型オートマタです。マスターへの奉仕も用途に含まれるからには料理機能にも対応しています。わたくしの内蔵データには、約四千種類のメニューがインプットされております」
「すげえ」
こないだのお出かけでメイド服を着るようになったコレーヌ。
たしかにメイドといえばお料理だしな。
これはちょっと楽しみになってきたので、素直に言われた通り待つことにした。
たしかに、ちゃんとした人の手で作られた料理って何日ぶり……いや何ヶ月ぶりだろう?
大樹海では大体、街から持ち込んだ保存食とか、現地調達の野草キノコとかを軽く焼いて食うぐらいしかしてこなかった。
それでも充分に満足できたから何ヶ月もサバイバルできたわけだが、それでも手料理はやっぱり楽しみ。
図らずも心躍ってきたぜ!
コレーヌ早く作ってきてくれないかなあ!?
◆
『キュピキュピ! キュピィ!』
「そうかー、この絵はスラッピィが飾ったのかー」
待ち時間中、スライムのスラッピィによるダイニングのインテリア解説が行われていた。
たしかに色々飾られていてこじゃれた空間になっているけれど、スラッピィのセンスなの?
……。
遅いなあ。
そろそろ太陽が高く昇って、朝食というか昼食の気配なんだが?
「お待たせいたしましたマスター!」
そこへついにコレーヌが、皿を携えやってきた。
その皿に盛ってあるのは……?
「卵焼き!?」
そういやたくさん卵持ってきてたからな。
「いえ、オムレツです。本当はオムライスにしたかったのですが、お米の調達に失敗したので本日はオムレツで妥協しました」
なんにしろ長いこと待たされていい加減腹が減って仕方のないところだ。
ここは躊躇せず、いただきます!
「お待ちください」
「何ッ!?」
「このオムレツは真の完成を見ていません。最後の仕上げは、マスターの目の前で行うべしとわたくしにインプットされたデータは語っています」
何なの。
そうしてコレーヌが取り出したのは、とっても赤い……水にトマトを潰して、ペースト状にしたものか。
「ケチャップをかけまして……」
コレーヌは黄色いオムレツの上に細い筋状に真っ赤なトマトペーストを流し落とし……?
いや、それだけじゃない?
トマトペーストで、絵を描いている?
「完成です」
オムレツの黄色いキャンパスに、赤い線で『♡』のマークが描かれた!?
「さらに仕上げとしてー」
「まだ何かあるの!?」
「次がもっとも重要です。マスターに美味しく召し上がっていただくため。古代文明に伝わる最高究極の『美味しくなる呪文』をかけます」
「『美味しくなる呪文』!?」
古代文明というとコレーヌを生み出した、今は失われし最先端技術のことか?
思わぬタイミングで大変なものが見られそうだ!
俺の探求心が大変疼くので、やってみて!
「では失礼しまして……」
コレーヌ、なんか両手でもって特殊な印を組み。
「『美味しくなーれ、萌え萌えキュン』ッ♥♥」
……。
古代の文明よくわかんねえ。
あと、コレーヌが両手で組んだ印の形が、何となくハート型に見えてきた。
「さあこれで、このオムレツはわたくしの愛を受けて最強の状態となりました。今こそお召し上がりくださいマスター!」
「あー、ごはんがあるにゃーッ!?」
そこへ美味しい匂いを嗅ぎ付けてやってきたニャンフー。
それにウルシーヴァも来た。
「待てそれは私が最初に見つけたものだ! 私に食べる権利がある!」
「それこそ早いもん勝ちにゃー! いただきまーす!」
食欲に歯止めがない元獣の二人は、誰にも断りなくテーブルの上のオムレツを奪い合うように貪るのだった。
躊躇する者は自然界では生き残れない。
「はふー、なんか薄味だったにゃー」
「歯ごたえが硬すぎる気がしたな。火を通しすぎじゃないのか?」
勝手に食っておいて品評まで入れてくる二匹もとい二人。
当然ながらコレーヌが激怒するのも当然のわけで……!
「落ち着いてコレーヌ! ゴーレムに乗り込まないで!」
強化外装をまとったコレーヌに追いかけ回される二人だが、反省するにはちょうどよかろう。
ヤツらも人間の姿になったからには最低限の躾はせねばな。
「しかしどうしよう……、腹減った……!?」
コレーヌの料理が出来上がるのをずっと待ってたのでなあ。
いい加減腹が減って仕方がないぜ。
「そこへオレが登場するぜ」
現れたのはゴブリーナ。
こっちも最近、グラマラスな女性化をしたばかりのゴブリンだ。
「なんかキッチンがゴチャゴチャなことになってたから片付けておいたぜ。調理道具は使い終わった傍から洗っとけっつーの」
「コレーヌは料理しながら片付けられない人だったか」
「片付けのついでにオレも興が乗ったから作ってみたぜ」
とゴブリーナが差し出す卵料理。
おお、これは!?
美味しそう!?
見た目はただの卵焼きに見えるが……実際に食してみると……!?
卵焼きの中に何か入っとる!?
これは……カニの身!?
「キルクラブを処理するのに殻の中の肉が余ったからな。再利用ってヤツよ」
「いやこれは美味しい! 凄く美味しいよ!」
待ちに待たされて飢えていたということもあるが。
『空腹は最高のスパイス』というのを差し引いても美味しい!
卵に混ざったカニ肉の食感が!
「これはまさにカニ玉……!? 餡がないとはいえやりますね……!?」
二匹をとっちめて戻ってきたコレーヌが悔しげに言った。
「『あるものでチャチャっと作るよ』でそれなり以上のものができる……!? ゴブリーナさんの実力は計り知れませんね……!?」
たしかに。
ゴブリーナは乙女化してさらに器用さの幅が広がってきた気がする。
スキルは上がったが、ゴブリンらしさは薄まったな。
「ばッ、バカヤロー! オレ様は今でも最凶最悪のゴブリンよ! 創造よりも破壊が得意分野だぜ」
「ゴブリーナさん、スープとかない?」
「今オニオンスープを仕込んでるところだから待ちやがれ!」
我々の料理長はゴブリーナで内定しそうだった。
「『美味しくなーれ萌え萌えキュン』も頼むね」
「オレにもアレをやれと!?」
料理がかりなら必修でしょう?
『キュピピピピピピピピッ!!』
最後にスラッピィが何やら進み出た。
スライムのゼリー状の体の中に……卵を殻ごと取り込んで?
……吐き出した?
一体何がしたいんだスラッピィ?
その卵をカカカンッ、パリッ。
「ゆで卵になっとる!?」
どういうこと!?
しかも黄身がちょうどいい感じの半熟!?
スラッピィの体内で何が起こったの、ねえ教えて!?
◆
そんな風に仲間たちと楽しく愉快に過ごしていた最中のことだった。
思わぬ来訪者が現れたのは。
しかも二件。




