24 A級昇格
いえーい、勝ったぜ。
B級の剣士さんに勝ったからには、俺もB級への昇格は確実ということで……。
もうこれくらいにしておきませんかね?
B級にまでなったらもう充分上級冒険者でしょう?
「いいえ、まだ戦いは残っているわ」
と言って現れたのは、お色気ムンムンのお姉さん。
出で立ちからして魔法職と推測される。
「私がスタンバイしていた甲斐はあったわね。A級冒険者のシャルロットよ」
と言いつつ魔法杖を取り出しかまえる。
やはり魔術師か。
「私を倒せばA級への昇格は確実よ。せっかくライズトを倒してB級になれるんだから、そのままさらに上を目指しなさいよ」
「過ぎたことを望むとろくなことがない……てのは冒険者の常識でしょう?」
「それでも踏み出さなきゃ望んだものは掴めないのも冒険者の常識よ!」
えッ? もう試合開始ですか?
気づけば相手の魔術師は、空中に浮かびながら、その周囲にいくつもの火球を発生させていた。
「浮遊魔法に火炎魔法の同時展開、しかも大規模……!?」
さらにこれは戦士殺しの必勝布陣だった。
基本、戦士や拳闘士といった直接戦闘を得意とするクラスは、一定の距離を空けられたら何もできなくなる。
鍛え抜かれた拳や武器が届かなければ、ダメージを与えることは不可能なのだから。
そして弓矢や魔法といった遠距離攻撃の手段を持つ者なら、戦士相手には距離をおいて、いかに接近戦に持ちこませないようにするかが勝敗の分かれ目になる。
そんな時、反則級の猛威を振るうのが浮遊魔法だ。
人間は空を飛べない。
だからこそ魔法で重さを消し、上空へと逃れた魔術師に戦士剣士の類は打つ手なしになってしまう。
さらにそこから遠くへ飛ばせる攻撃魔法でも使われたらワンサイドゲーム。
今目の前に対する魔術師は、戦士にとって悪夢の条件を揃えてしまっているのだった。
「ここまでの戦いで、アンタが戦士系統のクラスであることはわかっているからね! 私も必勝法を取らせてもらうよ!」
既に雨霰のごとく乱射してくる火球を交わし続ける俺。
闘技場は今までにない火炎地獄と化している。
……必勝法とはいうが、それを完全な形で実行しうる魔術師はそういない。
単純に魔力が足りないからだ。
浮遊魔法と攻撃魔法を同時に使う。
それだけでも魔法力がアッという間に尽き、地上で手ぐすね引いて待っている戦士へ向かって真っ逆さまに落ちるのが関の山だろう。
しかし今日の魔術師は既に長時間浮遊状態を継続し、かつ必殺威力の火球を何十発と乱出している。
あの膨大な魔力量だけ見てもA級に相応しい能力だった。
「さあ、どうするのかしら? 弱点を突く戦い方をされても、キッチリ乗り越えてくれるぐらいじゃなきゃA級には相応しくないわよ?」
回避を続けて無理のかかった体勢に、さらに直撃コースでの火球が飛んでくる。
もはや避けるのは不可能と思ったので、苦し紛れに剣を振って火球を叩き落とした、が……。
「うわちゃちゃちゃちゃちゃちゃ……ッ!?」
すぐさま火球の超高熱が剣にも移り、持っていられない温度になった。
堪らず投げ離さずにはいられなかったが、お陰で丸腰になってしまった。
「あらあら、剣士が剣を失ったらどうしようもないわね。どうする? 降参する?」
上空の美人魔術師は、勝ち誇ったように言う。
「どうやらA級に上がるにはまだ経験が足りなかったようね。敗北を糧に自分を一から鍛え直すことね」
「そいつはどうかな?」
あいにくと挫折はもう充分に経験してるんでね。
ついさっきもいい経験をさせてもらった。
コレーヌがしたように、自分が今もっとも望むものを集中して念じたら、絆召喚術は応えてくれる。
結んだ絆の範囲内ではあるが、この状況に最もふさわしい召喚物があるならば、絆召喚術は必ず教えてくれる……。
【複合絆召喚術Lv38>絆1:ゴブリーナ(ゴブリン)>絆2:ウルシーヴァ(ヘルヘイムウルフ)>召喚可能物:村雨丸】
我が手の中に召喚されたのは剣だった。
しかし俺の知る剣とは多少様相が異なって、奇異な拵えであった。
片刃で、刀身がほんの少しだけカーブを描いている。
刀身に浮かんだ波のような模様が、ゾクリとした凄みを感じさせる。
「剣ッ!? どこに隠し持っていたのよッ!?」
上空から見守る魔術師さんは困惑気味。
「でも新しい剣を用意したって状況は変わらないわ! 私が剣の届かない距離にいる限り!」
と言って火球を放ってくる。
その火球が懐へと入る絶好のタイミングで、剣を振り下ろした。
「バカめ! 同じ失敗を繰り返したわ! また剣の温度が上がって持てなくなるわよ!」
しかし。
絆召喚術にて呼び出された剣は、見事火球を一刀両断し、その上で断片となった炎は水飛沫に吹き飛ばされるように霧散して消え去った。
……手元には、熱さの欠片も伝わってこない。
「どういうこと!? あの剣には魔法が通じないの?」
どうやら、これが絆召喚された剣の効果であるらしい。
村雨丸は、刀身から発する清廉の気であらゆる魔を打ち払う。それで大抵の魔法も無効化できるようだ。
さすが絆召喚術で呼び出せるものは何であっても特別なものがあって侮れぬ。
「んでもって……、そろそろお空に陣取る魔術師様の攻略と行くか」
右手に霊刀を持ち、左手には新たに召喚したコンバットナイフの数本を握る。
それをお空に向かってヒョーイと投げつけた。
「ぎゃあああッ!? あぶねえッ!? 何投げつけてくるのよ!?」
「ナイフですが?」
投げナイフです。
しかも、絆召喚した特別製のコンバットナイフなので、当たればきっと革程度なら貫通してぶっ刺さりますよ。
「離れた敵に対してまったく何の攻撃手段も持ってないと、マジで思っていたんですか? だったらA級冒険者にあるまじき迂闊さですな」
「でもでもッ!? ライズトと戦った時の動きは正統派の剣士のそれだったじゃないッ! そんな子が、こんな邪法まがいの戦い方……!」
ライズト?
さっき戦ったB級の剣士のことか。
残念だったな、騎士学校を退学になった俺は、それ以前から色んなことに手を出してつまみ食い学習してきたのだ。
絆召喚術すら、その一つということ。
投げナイフも、冒険者としての修行中に覚えた特技の一つだ。
絆召喚術でナイフをいくらでも召喚できることもあいまって、残弾無制限という恐ろしい感じになってはいるが。
「ぎゃあああああッ!? 無理いいいいいッ!?」
女性魔術師は、中級魔法程度に対応する耐魔障壁は張っていたが物理攻撃への対処はできていなかったようだ。
最初こそ空中を飛び回ってナイフを避けていたが、彼女の浮遊魔法は激しい推進運動は苦手のようだ。
すぐさま制御を乱し、浮遊を維持できなくなって落ちてきた。
「ぎゃああああッ!?」
無事転落。
地面に思い切り尻を打ち付けて、痛みに七転八倒しているところへ俺は最後の仕上げと歩み寄る。
「ようこそ俺の間合いへ」
彼女の鼻先へ、刀の切っ先をギラリと突きつける。
その一事でもってすべてを察したのか、色気たっぷりな美人魔術師は手から杖を離し『私の負けよ』と呟いた。
◆
A級冒険者に勝っちゃった。
まさかここまでの大健闘をするとは思われてなかったのだろう。野次馬に集まったギャラリーからやんやの喝采が巻き起こり、俺も応えないわけにはいかないので軽く手を振ったらさらに熱狂的に喝采された。
「うおおおおおッッ! すげえよイディール! やっぱお前さんはできるヤツだったんだよおおおおッ!!」
まず駆け寄ってきたのはオッサンだった。しかも号泣しながら。
何故そこまで俺に思い入れしてくれるのか、嬉しいが困惑もする。
さらに検分役を務めていたギルド支部長も……。
「見事だイディールくん。さすがにまさかA級冒険者まで倒してしまうとは思わなかったが。しかし、これでキミがA級相当の実力があることが確認された。あとはもうS級のみだな」
「まさか、まだ戦うんですか!?」
「残念だが無理だ。我が支部には現在、即座に動かせる現役S級冒険者がいない」
そう言われて心からホッとした。
もう四回も連戦してるんだからいい加減打ち止めにしてほしいんです。
「S級冒険者なんて国内でも数人程度だからな。そう簡単に捕まる相手じゃねえよ」
「目の前にいるイディールくんがS級になってくれれば、一人分捕まりやすくなっていいのだがね」
とんでもない。
俺は誰にも捕まえられない自由な男でいたいのです。
「これから、私自身がキミの能力を確認した証人として、A級への昇格をギルド本部に申請する。それと同時にS級昇格への動議を行うつもりだ。返答があり次第A級になる覚悟と、S級に挑戦する心づもりを固めてほしい」
「嫌ですが?」
そもそもA級になるだけでも目立って嫌なのに、S級になんてなったらさらに目立つだろうが!
国内最高の数人の一人になんてなれるか!
それよか早く素材の換金を進めてくれよ!
最初からそういう話だったじゃないか!
ただ街に買い物に来ただけなのに、話がドンドン大仰な方向へと向かっていく!!




