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22 昇格試験に挑戦

 軽い気持ちで素材換金を頼みに来たのに……。


 気づけば昇格試験を受けることになっていた。


「マスター必勝です! マスターならば最上級になるのはたやすいこと! わたくしはマスターを信じています!」


 何故かメチャクチャ応援してくるコレーヌは、まだ野暮ったいマント姿で衆目に晒すのは気が引ける。


 せっかく選んだ服も、素材を換金しないと買うことができないからなあ。

 そして昇格試験を受けないと換金してくれないというし。


 これって半ば脅迫じゃね?


「イディールよ、あまり気が進まないって感じだな? まあお前は昔から目立つのが嫌いだったから仕方ないが……」


 オッサンも進み出てきた。

 そもそもアンタが上手いこと隠密裏に進めていればこんなことには……!?


「そこでお前のやる気が出るように、いいことを教えにきた。冒険者等級ってのは飾りじゃねえ。高い等級になれば、それに見合った優遇措置が受けられるんだぜ?」

「優遇措置!?」


 それは何ともステキな響きの言葉!?


「高難度クエストもソロで受けられるようになるとか。クランの主催になれる権利とかだけどな。お前さんが興味を持ちそうなのは、準備金の支給とかじゃないかな?」

「準備金!? 支給!?」

「高位冒険者が受けるクエストには、街や国の存亡がかかった大掛かりなクエストも多いんでな。絶対に失敗できないというんでギルド側も全力でバックアップするんだよ。準備に手抜かりがあっちゃいけないってことで、報酬の前借りって形でだが潤沢な資金を出してもらえるのさ」


 貰えるんですかお金が!?

 俄然やる気になってきた!


 お金があって困ることはナシ! ここは上手いこと昇格して準備金とやらをせしめようではないか。


「では早速試験を始めよう」


 というのは、さっきまで話していたギルド支部長さん。

 連れて来られた場所はギルドに併設された訓練場のような場所であった。


 何故か知らんが見物人がつめかけて鈴なりになっている。

 あれ全部同業者か?

 冒険者は基本享楽的で刹那的だからな。面白そうなことがあれば行ってたしかめずにはいられないのだろう。


「皆、キミの実力を確認したくてウズウズしているらしい。未踏領域から生還した者がいるという噂はもう広まっているようだからね」

「どこから漏れ出した!?」

「それでは試験内容を説明しよう」


 誰も話を取り合わずにグイグイ進めていく。


「とはいえ単純明快だよ。キミにはこれから一対一で模擬戦をしてほしい」

「殺してしまっていいのかな?」

「ダメだよ」


 やっぱり。


「キミはもう既に多分の実績を出しているのでね。あとはこの目でたしかめるだけなんだよ。キミが冒険者等級を上げるに相応しい実力を備えているのかどうか。それができれば私が証人となり、ギルド本部へキミの昇格を正式に申請できる」

「わかりました。で、俺は何と戦えばいいんです?」


 正直、ちゃんとした形での戦闘って苦手なんだがな。


「もちろん正規の冒険者だよ。キミは今E級ということになっているから、すぐ上のD級冒険者と戦ってもらう」

「ほう」

「こちらで選抜した実力たしかな冒険者だ。そのD級に勝ったら、次はC級と戦ってもらう。それに勝てたらB級、と段々上がっていく」


 それで勝てるところまで行って、勝ち星に準じて俺がどの等級まで上がれるか決めようってことか。


 C級に勝ってB級に負けたら、C級冒険者。

 B級に勝ってA級に負けたら、B級冒険者。


 D級に負けたらE級のままか。


 逆に言えば、勝ち数次第でたった一日のうちにいくらでも冒険者等級を上げられるという悪魔のシステムでもあった。


「私としては、キミがB級ぐらいまで上がってくれることを望むよ。A級の対戦相手はしっかり用意してあるからでね」

「呼ばれ損にならないように頑張りませんと」


 俺としては適当なところで負けて身を引きたいところだがな。


 金はほしいが、目だって平穏な暮らしを乱されたくもない。

 どちらも満足させるには、適切な落としどころを見極めてスルっと負けなくてはな。


 コレーヌの服だけでなく、家具も選んで買わないといけないし。


 サクッと戦ってサクッと終わらせよう。



「ではわたくしもマスターのために奮戦いたそうと思います」

「なんでコレーヌがやる気なの?」


 模擬戦は一対一だと言われていたはずだが?


「何を仰います。マスターの術にて開放されたわたくしは、マスターの使う戦力そのもの。駒を扱うがごとく使役して、マスターの万敵を排除いたします!」


 ……たしかに、召喚士が呼び出した召喚獣とか、魔物使いが使役するモンスターとかは当人の戦力とみなされ、こうした模擬戦でも使用が認められる。


 だから俺が絆召喚術で仲間にしたコレーヌを前線に立たせるのも認められる気がしたが……。


 改めて想像してみる。


 コレーヌが矢面に立つなら当然、強化外装を呼び出しゴーレム化することだろう。

 鋼鉄の巨人が街中に現れ、驚き混乱する人々。

 討伐せんと襲い掛かってくる冒険者たちに応戦せざるを得ず、無限に広がる地獄絵図……。


「……やめとこう」

「何故ですマスター? 戦闘においては全力を投入するのが勝利の鉄則です」

「たしかにそうだが、絆召喚術のことはまだまだ秘密にしておきたくてね」


 未知の術で、その上に得られる効果の絶大さは実証済み。

 そんなのが公に知られたらどうなることか。この有用な新術に興味を持ち、さらに利用しようと多くの人々が詰めかけるだろう。

 俺に。

 さらなる注目を受けて窮屈この上なくなる。


「ただでさえ冒険者等級を上げて注目を受けそうなところだからな、これ以上の話題は腹いっぱいだよ」

「なるほど、そういうことであれば沈黙を続けた方が得策ですね。マスターの深慮に感服します」


 そういうていで、コレーヌを大人しくさせることに成功した。

 目立ちたくないって願望も確かにあるがよ。


 で。

 とりあえず俺の独力で戦ってみるという方針で、第一回戦に当たる。


 最初の対戦相手はD級冒険者の人だ。


 棍棒使いの戦士。

 打撃武器は重くて持ち運びに適さないが、反面使用による劣化が少なく地味だが使える武器だ。


 実用性重視の冒険者においては広く使われ、その意味では目の前の対戦相手もオーソドックスな冒険者と言えよう。


「未踏領域から帰ってきたと聞いて、どんな屈強の大男かと思えば。……案外と小さいな」

「体質のせいか、たくさん食べてもあんまり大きくなれなくてね」


 対する棍棒使いは、それなりにガッシリした体躯でいかにも力自慢といった感じだ。


「悪いが簡単に勝たせてやるつもりはないぜ。これも立派なクエストなんだ。アンタに勝てば臨時報酬がギルドから支払われることになっている」

「えー? 俺は勝っても一銭も貰えないのに? ズルいなぁ?」

「お前は昇格って栄誉を貰えるだろうが!」


 雄叫びと共に俺へと突進してくる棍棒男。

 手の中でブンブンと弧を描いて振り回しているのは、遠心力を利用してより破壊力を高めんとするためだろう。


 あんなのが頭に当たったら頭蓋が砕けるし、腹部に当たったら内臓破裂する。

 どちらも致命傷なんだが、冒険者の昇格試験って命がけでやるの。


「死ねやぁあああああああッッ!?」


 掛け声自体が完全に殺意満々だった。


 我が脳天目掛けて振り下ろされる槌、それを最小の動きでかわすと、そのまま回り込んで背後をとる。


「動くな」


 喉元にナイフを突きつけた。

 それでチェックメイトだった。


「な、ナイフ? そんなものどこから……!?」

「タネ明かしするとでも思ったのか? 秘密も大きな武器だぜ?」


 ゴブリーナとの絆で召喚したコンバットナイフであった。

 召喚術で呼び出したため、カラクリを知らない人が見ればそれこそ何もないところからナイフが現れたようにしか見えまい。


 それに絆召喚術で出たコンバットナイフは、そんじょそこらの店売りナイフより遥かに鋭利で、顔を映すほど綺麗に磨き上げられている。

 そんなものを喉笛に押し当てられてはビビッて降参以外に打つ手はあるまい。


「……ま、参った」

「いい子だ」


 絆召喚術のことを衆目に晒したくないとは言ったが、それは『使わない』ということではない。


 取れる手段は何でも使って勝たねばいけないのが戦いなんだから、リスクをリターンを差し引きしてリターンが勝るようなら迷わず使う。


 今回も、『絆召喚術が知れ渡る』リスクを回避できる範囲ならバンバン使っていく所存。

 たかがナイフ一本、ただ鋭利で鏡のように澄んでいるだけなんだから物珍しがっても何か大変な魔術が関わっているなどと思うまい。


「勝者、イディール!」


 俺がナイフを引くと、周囲から嘆息にも似た歓声が聞こえてきた。


 これでとりあえずE級からD級への昇格は叶ったということか。

 しかし、これからさらなる昇格を巡ってさらなる強者と対戦しなければならないと思うと、気が滅入るな。

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