21 換金不能
「なんで?」
お金が用意されていると思ってギルドへ戻ってきたら、用意されていなかった。
代わりにオッサンが申し訳なさそうに話す。
「査定の途中で見咎められちまってよ、『待った』が入った」
「だからなんで?」
「そりゃあ異常だからだろう。大樹海で採取されないはずの優良素材が山のように持ち込まれたんだ。不審がられるのはしょうがない」
言われてみれば、たしかに?
俺が持ち込んだ素材は『イデオニール大樹海』の奥まった場所でしか取れないであろう希少素材ばかり。
しかも次元貯蔵庫が使えるってんでできる限り詰め込んできた。
質も量もけた違い。
それを目の当たりにした真っ当なギルド職人は、怪しむのが普通ってことか。
……。
怪しまれないわけないわなぁ!?
軽率だった。
怪しまれないように小分けにして持ってくるべきだったのが、金に目が眩んでしまった!!
「話がしっかりギルド支部長まで上がってしまって、興味を持たれてしまった。こうなるとオレの一存じゃどうにもできねえ、すまん」
「いや、俺も軽率だったんだよ。オッサン一人のせいじゃないし……!」
「オレも迂闊だった。常日頃からお前さんの凄さに当てられて、これぐらいギリ常識で許される範囲内だと思っちまった」
「いやいや?」
俺が昔から凄かったみたいな語り方しないで?
そんなことないから。
「とにかくギルド支部長が、素材を持ち込んだ当人と直接会いたいと言っている。お前のことだ」
「そうですね」
「それが叶わない限り換金はできないとも言っている。……どうする?」
「…………」
このまま回れ右して帰ってやろうかと思ったが、背後に控えるコレーヌの気配に気づく。
さっきまでウキウキに服を選んでいた彼女だが、今はまだ不格好なマントを羽織ったまま。
取り置きしてもらっている服は、お金がなくては買い取れず、真に自分のものとできないからだ。
素材を換金してもらう以外に金策の当てはないし……。
「わかった、会おう」
なかばヤケクソ気味であった。
「その代わり会ったら必ず換金してもらうからな。俺は強盗してるんじゃない、正当な対価を得ようとしてるんだ。それを邪魔するんなら仕舞いにゃ暴れ回るぞ」
「す、すまねえ……!?」
オッサンに謝られても心苦しいよ。
◆
そうしてギルド建物の奥へ通され、応接室らしきものへと入ったら、既にそこには待ち受けている人がいた。
鍛え抜かれてギッシリ引き締まった肉体の持ち主だった。
ただならぬ気配を醸し出す、この人がギルド支部長?
「ボトリヌス辺境街の冒険者ギルド支部長、オギアングスだ」
「イディールと申します」
まずは礼儀正しく挨拶する。
「この街は『イデオニール大樹海』と接している。世界有数の大秘境を間近に置くからには、そこに配置されたギルド支部にも自然重要な役割が担わされる。わかるかね?」
ギルド支部長に促され、俺は対面のソファに腰を沈める。
ついてきたコレーヌも同様だった。
さすがに彼女一人を置いていくわけにもいかないので会談に同席させた。
「『イデオニール大樹海』はいまだに全領域を解明されていない……いや、いまだ九割以上が未開のまま。これから冒険者たちの勇気と探求によって、少しずつ明らかとなっていくべき土地だ」
「はい」
「しかるに、キミが持ち込んだという素材は、我々の知る大樹海とはまったく違う様相を呈している。キミはキルクラブを持ち込んできたが、それはまだ大樹海では発見されたことのないモンスターだ。全身の甲殻が鋼鉄のように固く、ああ見えてBランククエストに属する相手だぞ」
「えッ、マジで?」
それは知らんかった。
しかし関節を狙えばけっこう簡単に仕留められてオイシイ獲物だったぞ?
「あれは本当に大樹海で仕留めたモンスターなのか? 本当ならば我々は大樹海に関するデータを書き換えなければならんのだ。それだけじゃなくキミが持ち込んだ他の素材……アダマンタイト鉱石もエリ草も、まだ大樹海で発見されてなかった上に、最高ランクの素材だ」
そんなギルド支部長がこちらへ向けてくる視線は、疑わしい感じだった。
「私はまだ……、事実を受け入れられないでいる。キミがウソをついている……と考えた方がまだ現実的だと」
「マスターはウソなどついていません」
そこへ鋭く切り返してきたのがコレーヌだった。
何故?
「自身の認識能力の不足を、マスターの落ち度にしないでください。マスターはたしかに樹海にてあのモンスターたちを仕留めてきたのです」
「これコレーヌ……!? すみませんウチの子が失礼なマネを……!?」
揉め事にしないためにも、ここは平謝りする。
「失礼なのは承知の上だ。しかし、ここまで常識外れの成果を挙げられたら、疑ってかかるのは仕方ないことと理解してほしい。まず一つとしては……」
ギルド支部長、探るようにして言う。
「キミたちが大樹海の奥にまで進んだのは間違いないね?」
「……ハイ」
人にとって、今だ未開領域がほとんどの『イデオニール大樹海』で、人が今まで見たこともない素材を持ち帰った。
それは即ち、人が今まで踏み込んだことのない領域まで踏み込んだことの証拠。
「怒られますかね? ギルドが規定した安全域から勝手に出て……!?」
「いや、それは各冒険者の自己責任でギルドが咎めだてすることじゃない。冒険者たちの生還率を上げるためにギルドは呼びかけを行うが、それで引っ込むようなら終わりだよ。冒険者は『危険を冒す者』だからね」
そうですか……。
「だが、人間という種族が活動域を広げるという観点で、未踏領域からの生還例は見過ごせない。今まで人間が踏み込めなかった領域に実際に踏み込んだ者がいて、そこで何を見て、どんな経験をしてきたか、詳しく聞いて記録する必要がある」
「そのために呼び出しを?」
俺を罰するために呼び出したわけではないってことで、ひとまずは安心かな?
「それにもう一つ、確認したいことがあるのでね」
「なんでせう?」
「キミが大樹海未踏領域から生還したということは、それに相応しい実力を備えているということだ。少なくとも冒険者等級AあるいはSぐらいのね。それなのに、ギルドの登録情報ではキミの等級はEということになっている」
「…………」
ぐうの音も出なかった。
「一体これはどういうことかね? E級ごときが生還できるほど大樹海の未踏領域は甘くないはずだ」
「支部長、そこはオレから説明させてください!」
実は同席していたオッサン、俺をかばうように言う。
「コイツの等級が低いのには事情がありまして……! 実はコイツ、騎士学校の生徒だったんですよ」
「ほう?」
「生徒が冒険者のアルバイトをしているなんて外聞が悪いでしょう? だから等級を上げないように普段から意識してたんですよ。B級以上になると途端に目立ちますからね」
「では、何故今になってこんな目立つような。それに数ヶ月も大樹海にこもっていたとのことだが、それだと学業が疎かになりすぎるだろう?」
「それは……!?」
オッサンが言ったものかという迷いのこもった表情をしたので、俺が代わりに告げた。
元々自分自身のことだし、自分で言う方が筋が通っている。
「騎士学校は、退学になりました」
「ふむ……?」
「俺の能力もやる気も、あそこにはふさわしくなかったようで……」
我が身の恥を晒すことなので、多少は言いづらかったが。
しかしそれを聞いたギルド支部長は、すぐさまフンと鼻を鳴らし……。
「大樹海から生還できる人材を無能とはね……。やはり騎士なんて連中は現実が見えないらしい……」
そう言って浮かべる笑顔には暗いものがあった。
何か確執めいたものを感じる。
「ということで晴れて退学になったからには、やりたいことをやろうと思いまして。それで大樹海に来ました」
「よくわかった。そこで私の考えを言わせてもらおう」
ギルド支部長、言う。
「キミのように有用の人材を、E級のまま遊ばせておくことはできない。キミには早急に昇格試験を受け、実力に見合った真の等級を得てほしい」
「何すかいきなり?」
俺は素材を換金しに来ただけなんだけど?
樹海の奥で、絆を結んだ仲間たちが待っているから早いとこ用事を済ませて帰りたい。
「安心したまえ。試験と言ってもそこまで大仰ではない、キミには既に数多くの実績があるようだからそれらを加味して、ごく簡易的な試験で済むだろう。今日のうちに実施して今日のうちに終われるような、ね」
「俺にも、そもそも今日の予定があるんですが!?」
「よっぽど緊急でないなら後回しにしてほしい。埋め合わせは必ずする」
グイグイこられて困惑するしかない俺。
しかし気が進まない。たしかに騎士学校は退学になったが、だからって目立ちたくないという気持ちは以前と同じなんだが!?
冒険者等級を上げたからって、何かいいことがあるとも思えない!?
「やりましょうマスター」
「コレーヌまでなんでやる気に!?」
「マスターの能力が知れ渡るのはいいことです。我がマスターなれば、多くの人々に尊敬されるのは当然のことなのですから」
「何言ってんのコイツ!?」
さらに同席のオッサンまでオイオイ泣き出す。
「ずっと日陰者だったイディールがついに日の当たる場所に出られるんだなあ! そう思うとオレぁ感動して涙を堪えられねえよ!」
「そこまで感動するの!?」
気づけば、俺以外の全員から押し込まれて逃げ場がない!?
さらにギルド支部長から言われた言葉がとどめになった。
「もし昇格試験を受けてくれないなら、キミは冒険者としてまともな活動をする意志がないとみなし素材の換金もお断りさせてもらう。当然今日の持ち込みもそのままお返しするが、いいかね」
「受けます」
試験受けるよ。
やりゃあいいんだろう!?




