20 換金
思わぬ再会で困惑し、何しにギルドに来たのか忘れるところであった。
「そうだ、換金!?」
ただ今の俺は純然たる一文無し。
服でも家具でも買い物することはお金がなければ不可能だ。
ということでお金を得るためにギルドへ来た。
「オッサンは、ここでも職員してるの? 換金受け付けてくれる?」
「ああ……!? まあ一応そういう身分でここにいるからな? お前が心配だからという動機では来たが、オレにも生活があるんだし……!」
なんかホントすみません……!
「じゃあせめてオッサンに儲けてもらうよ。俺が大樹海で採取してきた素材換金してくれない?」
そう、それこそが俺の目的。
ギルドには、冒険者が狩ってきたモンスターの死骸、採取してきた薬草や鉱物を買い取ってくれるシステムがあったのだ!
俺も四ヶ月も大樹海にこもっていたからには集めてきた素材も大分溜まってきたのでパァーッと換金してあぶく銭をせしめようという魂胆よ。
「お前さんが本当に四ヶ月も大樹海にいたなら期待したいところだけれど、肝心の素材はどこにあるんだい? 見たとこ手ぶらじゃねえか?」
「ああ」
オッサンからはそう見えるかい?
ではご披露と行こう。
【絆召喚術Lv37>絆:コレーヌ(オートマタ)>召喚可能物:次元貯蔵庫】
「な、なんだ?」
虚空から現れ、ドンとギルドの床をきしませたのは鋼鉄と思しき金属製の大きな箱。
術レベルを上げることで、コレーヌとの絆から新たに召喚できるようになったシロモノだ。
「何だこの大きな……箱? さっきまで何もなかったよな?」
オッサンはまず、この箱がどこから出てきたかに困惑しているようだった。
「驚くのはここからだよー」
俺は箱を開け、中をモゾモゾ物色し。
「はい、まずはこれ。キルクラブです」
「キルクラブッ!?」
……とは、蟹型のモンスター。
硬い甲殻を持ち、駆け出し冒険者程度の攻撃ではヒビ一つ入れられない強度を誇る。
お陰で武器防具の素材として珍重され、高値で買い取ってくれる。
「大樹海のキルクラブは余所より硬いって言われてるからなあ。いいんじゃねえの?」
「……が、五十七体」
「ごじゅうななッ!?」
次々と箱の中から蟹を出す。
「ちょっとちょっと待て、どういうことなの!? 五十七って尋常な数では……!?」
「さらにアーマーフィッシュを百七匹」
「ひゃ……ッ!?」
「それから採掘してきたアダマンタイト鉱石に……万病に効くエリ草。全部下処理済ませてあるからおまけしてくれよ」
「だから待て……!? 言うべきことが多すぎて思考が追い付かない……!?」
いいよ待つから。
落ち着いて話しな。
「素材のランクも一級だし、こんなものを『イデオニール大樹海』で採取できるとは聞いてねえ。……もしやイディール、ギルド規定より奥に入ったってことか?」
「そうかもしんない」
オッサンが言いたいのは、おそらくこうだ。
『イデオニール大樹海』は世界有数の秘境で、あまりにも広すぎる森林地帯の果てを見た者は誰もいない。
踏破を目指した者も帰ってこなかったため、冒険者を統率するギルドでは『安全地帯』とされる線を規定し、そこより奥に入ることを推奨していない。
俺がその線を越えて奥に踏み入ったのか? ということだ。
「規定を越えるとなんか罰則あったっけ?」
「いや、基本的に自己責任で死んでも知らんぞ、ってだけだ。でもお前が未踏領域から生還したって知れたら、ギルドからは根掘り葉掘り聞かれるだろうな」
「面倒くさそうだな、黙っとかない?」
「お前ならそう言うと思った……!? そしてツッコみたいのはそこだけじゃねえんだよ……!」
まさにツッコミどころ満載ですな。
「質もアレだが量も大変なんだよ! 五十? 百? とてもじゃないけど、そんな箱の中に納まりきれる量じゃなかろう!?」
「それが入っちゃうんですのよ」
もちろんタネも仕掛けもあるけどな。
絆召喚術で呼び出した次元貯蔵庫は、空間を歪めて外見よりも遥かに大きな体積を収めておける。
コレーヌとの絆で召喚可能になったシロモノだ。
最初は項目に入っていなかったが、術レベルがアップすることで召喚できるようになった。
絆召喚した物品は用がなくなれば消すこともできるが、この次元貯蔵庫に何かしら仕舞い込んでから消しても、再び召喚した時には空になっているということもなく、中身もそのまま。
だから事実上、手ぶらで歩き回れる。便利なことこの上ない。
「そ……、そんなもの聞いたことねえぞ? 王都の魔法研究室だって、そんなものを作ってるなんて小耳にも……!?」
「だからこの世にないものを呼び出せるんだよ。前にも説明しただろう」
俺の言葉に、オッサンはゴクリと息を飲んだ。
「……あれ、本当だったのか? この世界にないものを召喚するっていう……?」
「本気で受け止めていなかったんだ」
まあ、それも致し方なし。
誰にも知られていない超マイナーな魔法だからな。俺のような変わり者でもなければ研究しないだろうし。
このまま惚けてもよかったが、オッサンは行方不明の俺を心配して、花の王都からこんな辺境くんだりまで来てくれた。
その親切さに、信頼で応えないわけにはいくまい。
「アレの研究は大分進んでいるよ。大樹海は、そのためには最良の環境だった。もうしばらくは樹海の奥にこもって研究を続けようと思う」
「そうか……お前さんもやりたいことを見つけたんだな。そういうことなら好きなだけするがいいや。もうお前さんを縛るものは何もないんだからよ」
有り難いお言葉だ。
そして好きなことをするためにもお金がいる。
この素材を速やかに買い取ってもらいたいのだが。
「そうだったなあ! お前さんとの無事な再会を祝して、できる限りの高値で買い取らせてもらうぜ! 査定を始めるからちょっと待っててくんなあ!」
と言って素材を運んでいくオッサン。
量があるから簡単には終わらなそうだ。
「長くかかりそうだから、その間に他の用を済まそうか。時間は有効に活用しないと。……コレーヌよ」
「はい、マスター」
ずっと後ろで静かに控えていたコレーヌが呼びかけられて初めて発声する。
主の邪魔をしてはならないと、気配を消す徹底さは従者の鑑といわんばかり。
「さっき言ったようにキミの服を買いに行こう。いつまでもマント姿じゃ怪しまれるからな」
「ですがマスター、わたくしごときのために予算を割くのはやはり……!?」
「いいからいいから」
ギルドから書類を貰っておけば、一旦空けても次来た時報酬を渡してもらえる。
査定が終わるまでの空き時間。楽しいお買い物タイムと行こうではないか。
◆
そんで最寄りの服屋に移動して、コレーヌの服を買う。
二千年間ゴーレムの中にいた彼女は、この時代の一般社会に通じるような衣服を着ていなかったので必須だ。
彼女がゴーレムから出てきた時そのままの服は、あまりにも肌の露出が高くてとても人前には出せない。
オートマタである彼女だが、外見はまったく変哲のない女性なのだ。年頃の。
「コネクトスーツは強化外装との接続を効率化するために、極限まで生地を薄く、接続の邪魔にならぬよう覆う範囲を狭めています。それでいて強度はできる限りに高めており、最新技術の粋が込められていて……」
「そうだとしても、普段からのその格好は目のやり場に困るんすよ」
ほとんど裸なんだよ改めて言うけど。
それでせっかくなので街を出歩くためだけじゃなく、普段使いするように何着かの服を用意しておきたい。
さっきギルドに預けた素材はきっと値千金になるだろうから値段に糸目をつけなくてもかまうまい。
気に入ったものを片っ端から買っていくのだ!
「ではマスター、こちらの衣服などどうでしょう?」
「スケスケですな!?」
普段使いできる服って言ったじゃないか!?
どうして、そう寝室でしか着られなそうなチョイスをする!?
「マスターに喜んでいただきたい一心で……。ではこちらの衣服はどうでしょう?」
「それは下着!?」
どうしても扇情的な方向に行こうとするコレーヌと何とか押し問答の末、何とか彼女にまともな服を着せることに成功。
できるかぎり肌を覆う、れっきとした衣服だが……。
「……何故メイド服?」
「主に仕える従者の装束と言えばこれが定番ですので。マスターに服従する意味を示せるように、形を整えようという意図です」
「そうすか」
よくメイド服なんか置いてたな、この服屋……とも思った。
買うものが大体決まったところで、それらをまとめて取り置きしてもらうよう店主に頼む。
肝心の先立つものがないから。
ギルドでの素材査定は終わっていることだろうし、その引き換えとなるお金も用意されているはず。
現ナマさえ手に入れば何でも買える。
というわけでワクワクしながら再びギルドを訪ねると……。
既に査定を終えていたであろうオッサンから……。
「スマン、素材の買取ができなくなった」
……と言われた。
なんで?




