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19 買い物をする前に

「……死ぬかと思った」


 官能的に。


 超密着して女の子の柔らかさと香りを直撃するのが、こんなに天国的であるとは……。

 天国的すぎて本物の天国に行くところだった。


 女の子の柔らかさは狂気だな。


「フライト終了です。空の旅をお楽しみできましたでしょうか?」

「はい、骨の髄まで」


 そのお楽しみは空とはあんまり関係なかったがな。


「しかしながらマスター。降りるのがいささか早すぎたように思えますが。着陸地点から人間の街まで、まだまだ距離があります。ここからだと多少歩くことになりますが」

「それでいいんだよ」


 たしかに飛行ゴーレムは速くて便利だが、それで直接街に乗りつけるわけにはいかない。


 なんにしろ、本来この世界の存在しないものなのだから。そんなものが多くの人の目に留まれば混乱になるのは請け合い。


「だから人目がないこの辺りで降りて、目立たず街に入るんだよ」

「合理的な理由です。マスターの深い配慮に感服いたします」

「いえいえ」


 目立ってしまう要素はさらにもう一つあるけどな。


「コレーヌはこれを着て」

「何でしょう?」


 俺は、自分の羽織っていたマントをコレーヌに被せる。

 彼女の格好もまたあまりに目立つからだった。


 オートマタの基本装束なのか、肌にピッタリ張り付くような薄い衣服で、しかも下着かと思うほどに体を覆う範囲が狭い。


 そんな服装の彼女。

 このまま街中を歩いたら痴女扱いで、街の者たちからあらぬ視線を受けることだろう。

 それは俺もムカムカしてなんか嫌だ。


「とりあえずはマントで隠して……、できるだけ早く古着屋にでも行ってキミ用の服を買おう」


 そういう体の作りなら、オートマタでも人間の服を着られるだろうしな。


「わたくしのために? ですがわたくしはあくまでマスターの付属品であって優先される扱いは……!?」

「俺がキミに身着せてやりたいんだ。いいだろう?」


 譲るつもりはないという意志をハッキリ込めて言うと、それが通じたのかコレーヌはモジモジとして……。


「……マスターのお心遣いに感謝します。わたくしなどのために……」

「よきかなよきかな」

「ならばマスターにお喜びいただくために、精一杯可愛いお服を選別いたします」

「ん?」


 いやそういう意図ではないんだが……?


 まあいいや。

 ここでグズグズしていては、せっかく猛スピードで飛行してきた意味がない。


 日帰りの予定なんだからサクサク進まなければな。



 徒歩にて数刻。

 城門をくぐって街に入る。


 ここは人間の王国と『イデオニール大樹海』の境界を引くための街だ。


 そのため要塞のような城壁が敷かれていて、行き交う人々も兵士や冒険者が多く物々しい。


 隣を歩くコレーヌが、物珍しげに見回した。


「原始的な街並みですね。わたくしが製造された時代より文明レベルが大きく後退しています」

「マジかよ」


 一体何があったのか、この世界?


 まあ、いいか。

 そんな面倒そうな謎は学者さんにでも解き明かしてもらおう。


「それよりもマスター、まずはブティックへ向かいますか? お服を選ぶのですよね? マスターが喜ぶ格好をしたいので、一緒に選んでいただきたいです」


 なんかもうコレーヌの頭の中が衣服一色になっておった。

 最初は難色を示していたわりに、オシャレで頭いっぱいな女の子か。


「服だけじゃなく家具も買うからね。それが第一の目的なんだし」

「もちろん心得ております。マスターに快適な生活を送っていただけるよう全力をもって統一感のある家具選びを遂行する所存です」


 ……。

 なんかとても面倒くさそうな予感がした。


「でもその前に寄るところがある」

「服屋ですね」

「その前にもう一つ」


 そう、重要なことだ。

 買い物するために必要不可欠なものがある。そうお金。

『先立つもの』なんて言われるくらいだから、資金が潤沢にあるかどうかは買い物の前にしっかり確認しておかねば。


 とはいえ、実を言うと今の俺は無一文。

 そりゃそうだ、俺はここに来る直前実家を勘当されたわけだし、それ以前は学生だったんだから蓄えなんてそんなにあるはずもない。


 手元にあった僅かなお金は『イデオニール大樹海』に入る装備を整えるので費やしてしまった。


 そうしなくてもお金なんて人里を離れたら何の役にも立たないし、しかも重くてかさばるから、荷物にならないようにと使い切るのは冒険者の作法だ。


「了解しましたマスター、我々がまず向かう目標は、金融業者ですね?」

「違うよ!?」


 案外、思考が危なっかしいコレーヌだった。


「ご安心くださいマスター。結局のところ世の中は借りた者勝ちです。返すのは自由意思。多く持つ者が有利だとすれば、借りた者の方が貸した者より優位にいるのは自明のこと」

「危険思想やめろ!」


 そんな借り逃げなんか企てなくても金策の当てはちゃんとある。


 ということで俺の向かう先は……。

 冒険者ギルドだ。



 この街にも冒険者ギルドの支部はある。

 むしろ世界有数の秘境『イデオニール大樹海』と接しているからには、王都以上に重要な位置関係かもしれぬ。


「失礼しまーす」


 そんなギルドの玄関をくぐり、コレーヌを伴って俺、来訪。


「素材の買取をお願いしたいんですけどー、……って、あれ?」

「イディールじゃねえかああああああああッッ!?」


 イディール? 誰?

 あ、俺か。


 ここしばらく名前で呼ばれてなかったからすっかり忘れかけていた。


 それよりも……。


「オッサンじゃないか? 何故ここに? ギルドはギルドでも王都支部にいたはずでは?」


 大樹海前支部で俺を出迎えたのは、顔馴染みのギルド職員のオッサンだった。

 王都で、勘当された直後にも一度会った。


「こっちに移ってきたんだよ! お前のことが心配でええええええッ!!」

「え? 俺?」

「心配するだろ? お前、どんだけの期間音信不通だったと思ってるんだよおおおぉッ!?」

「えッ!?」


 そんな。

 そりゃたしかに長いこと大樹海にこもっていたが、その目的は前もって言っていたはずだ。

『フィールドワークのために大樹海を探索します』と申告してあるんだから、数週間は帰還せずとも心配せずにいるのが冒険者の流儀というものだろう。


「お前が大樹海にこもってから四ヶ月経ってるんだぞぉおおおッ!?」

「ウソ、マジで!?」


 俺としては本当に数週間程度の感覚だったんだが!?

 カレンダーとか樹海にはないから、すっかり時間感覚が狂っていたようだ。


「大樹海に向かうお前を最後に見たギルド職員の証言でも一ヶ月以上滞在できる装備じゃなかったって確認とれてるし、遭難しているという判断で対応されてたんだぞ! あっちのボード見ろよ! お前の捜索クエストが貼ってあるだろ!」


 あ、ホントだ。


-----------------------------------------------------

【遭難者を救助せよ】

 クエスト種類:捜索

 難易度ランク:C

 内容:冒険者イディール=ジラハーが『イデオニール大樹海』にて消息を絶った。樹海内にて彼の身柄、もしくは遺体を見つけギルドへと連れ帰ること。

 報酬額:四〇〇〇G

 補足:所持品等、手掛かりと思えるものの提出でも報酬を提供する。額は要交渉。

-----------------------------------------------------


「オッサン、俺の名前フルで載せちゃダメだよ。俺もう勘当になってるから家名つかない」

「ツッコむところはそこじゃねえよ!?……あの依頼だって出されたのは三ヶ月も前で……! まったく手掛かりもないからもう死んでるものかと……! おぉおお……!?」


 おお、オッサン泣き出した。


「ご、ゴメンよ。ついつい楽しくて帰るのも億劫になって……時間も忘れてしまってたみたい……!」

「時間も忘れたからって月単位でこもれるものか!? ベテラン冒険者も尻込みする大魔境『イデオニール大樹海』だぞ!?」


 だからこそ楽しめたというかね……!?


 しかし、元々王都勤めだったはずのオッサンがこっちに移ったってことは、俺探しのために?

 もう俺の心配をする人などいないと思っていたんだが……。その思いやりに胸を打たれた。


「マスター、マスター」

「何かな?」


 じんわり感動しているところへコレーヌが呼びかけてくる。


「この捜索クエスト、マスターが受けたらそのまま報酬を貰えるんではないでしょうか?」

「それは不正なんだなあ」


 それに捜索クエストって、基本報酬は救助された人の懐から出ることになっている。

 そうしないと不注意で世間様を騒がせた要救助者が訓戒されないからな。


 ……。

 オッサン! そのクエスト早く取り下げて!

 俺はここにいますから!

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[気になる点] ご都合主義ならマジックバッグ等出るのかな?
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