18 街へ
「やだぁーーーーッッ!? 主様帰らないでくださいいいいぃーーッ!?」
「皆でずっと一緒に暮らすにゃあああああッ!!」
街へ戻ることを告げると、泣いて縋りつかれた。
主にウルシーヴァとニャンフーから。
どうやら俺がここから去ると受け取ったようだ。
「帰らないッ! ちょっと用を済ませに街に行くってことだ! 終わったらちゃんと戻ってくるので!!」
「でしたら私をどうかお連れください! お供として! いかなる危険からも主様を守ってみせます!」
……いや。
キミらを街に連れて行ったら、どんな騒ぎになるか俺も予想できんし。
姿が変わったとはいえモンスターなのは間違いないからな。
モンスターが街に入り込んだらどうなるか?
修羅場にしかなりようがない。
「俺一人で行ってくるので留守番よろしく頼むよ」
「そんなぁー!?」
俺としても契約した仲間たちと一時でも離れ離れになることは不安で、だから今日まで必要を感じながらも街行きは先送りにしてきた。
しかしそろそろそうも言ってられなくなってきた。
ここは絆を結びあった仲間たちを信じて、レッツ初めてのお使い、俺。
「わ、わかりました……! 主様からの信頼に応え、我ら一丸となってお留守を預からせていただきます……!」
神妙に言うウルシーヴァ。
「それに伴って一つ、進言があります」
「なんだい?」
「主様の不在中、この本拠を何があっても守り通すためには、残る者たちの統率がしっかりしていることが肝要かと!」
「そう言われればそうかも」
でもちょっとかしこまりすぎじゃありません?
「そのために必要なのは主様がおられぬ間、その代理として群れをまとめる者……つまりリーダー。その役を何卒私にお任せください!」
「ちょっと待ったにゃー!」
ウルシーヴァからの突拍子もないお願に、俺が何か言うより早くニャンフーが横やりを入れた。
「そう言うことならウチも立候補するにゃー! 群れをまとめる役割なら、王虎族のリーダーを務めるウチこそが適任にゃー!」
「バカを言うな。ネコ科動物は群れより自分本位だろう」
したり顔で言い返すウルシーヴァ。
「我々オオカミは違う! 効率よく獲物を狩り、厳しい自然を生き抜くために団結する! 厳しい掟、明確な上下関係で群れを統率するのだ!」
「そんなヤツが頭を張ったら堪らないっていってるにゃー! 主様なきあとの群は、ウチ主導でのんびりムニャムニャに統率するにゃー!」
睨み合うウルシーヴァとニャンフー。
さすが双方群れのリーダーだけあって、競ってマウントを取りたがる。
たしかに俺が街に行っている間、残った人員をまとめる存在は置いておいた方がよかろう。
しかし、立候補した二人のどちらを指名しても角が立ちそうだし、そうでなくとも俺にはわかる。
ウルシーヴァもニャンフーも権力持たせちゃいけないタイプの人材だと。
むしろコイツらの手綱を取るためにも俺代理のリーダーが必要だ。
その役割を誰に担わせるか。
「スラッピィ、キミに決めた!」
『キュピピピピピピピッッ!!』
我が絆召喚獣の中で一番古株であるからこその安心感。
お前らはスラッピィに従え! 彼(?)の言葉を俺の言葉と思って!
「「ええええぇ~ッ!?」」
主導権争いしていた者どもは一様に衝撃を受けつつ……。
「まあ、スラッピィ殿なら致し方ない」
「適任にゃー」
何故かあっさり受け入れた。
『キュピピピピピッ!!』
「よろしくお願いします!」「ご指導ご鞭撻くださいにゃー」
スラッピィに寄せられる謎の安心感。
これで俺が不在中の心配はナッシング。
「よかったですねマスター。スラッピィさんがいてくれれば何の心配もありません」
「だからなんでそんなにスラッピィへの信頼が底なしに厚いの?」
コレーヌが俺に寄り添って言う。
「フフフフフ、巨人殿は随分と大人しかったな?」
「リーダー代理にも立候補しなかったし、気概が足りないんじゃないかにゃー?」
そんなコレーヌに絡んでくる獣組。
まだチームの中で順位付けに勤しもうというのか。
「仕方ありません。私にリーダー代理は務まりませんので」
「謙遜かな? そんな主張の弱さでは、とても主様の隣を占めることはできないぞ」
「私もマスターと共に街に行きますから」
「は?」
そうなんだよねえ。
【絆召喚術Lv37>絆:コレーヌ(オートマタ)>召喚可能物:強化外装タイプ:イーグル】
いつものごとき絆召喚で、コレーヌの強化外装を呼び出す。
しかし今回はいつもの鋼鉄巨人風の外装ではなかった。
鋼鉄風味であることは変わらないが、シルエットが大きく異なって鉄の巨人というより、鉄の巨鳥。
大きく広がった鋼の翼は、大空を切り裂くかのようだった。
「私が接続できる強化外装はタイプ:ギガントのみではありません。地上戦をメインとした設計思想のギガントに対し、空中戦特化したモデルがこちら、強化外装タイプ:イーグルです」
状況に応じて使い分けられるらしい。
鉄の大鷲の腹部には、やはり人が乗り込める程度の窪みがあり、案の定コレーヌはそこに入って、何や紐やら管みたいなのを体に繋げる。
「マスターが入り組んだ樹海の中を進み、外部に出て人間の街へたどり着くには数日を要します。しかし、このタイプ:イーグルで空を駆ければその日のうちに辿りつくことが可能でしょう」
凄い便利。
ということでコレーヌには、俺を街まで送ってもらう重要な任務があるのだった。
できることなら俺も早く戻りたいので、使えるものは使わせてもらおう。
「だ、だったら私が主様のお供をする! その鉄の鳥を私が操って……!」
「わたくしの強化外装はわたくしにしか操作できません。制御系も動力源もわたくしの中にあるのですから。わたくしという中枢パーツを取り込まなければ、これらはただの鉄くずなのです」
というわけでコレーヌの同行は不可避ということだった。
元からモンスターの彼女らを街に連れていって騒ぎになる懸念があったが、コレーヌ一人だけならそこまで目立たないし、彼女は仲間の中でもとりわけ外見が人間に近い。
何ぞオートマタっぽいことをあえてやらない限りは誰だって人間だと疑わないだろう。
「というわけで熟考の結果、コレーヌには俺と一緒に来てもらうことになりました。残りの者はスラッピィの指示に従って、留守をよろしく」
『キュピピピッ!』
任せろとばかりにゼリー状の身体を震わせるスラッピィくん。
「ぬおおおおッ!? 同行も許されないし、留守役のリーダーもできない!?」
「新顔ならば致し方ないにゃー。実績を積んで、信頼を獲得していくフェイズにゃすよ今は」
皆も納得してくれているようで助かる。
「んじゃまー行ってくるよ。夜には帰ってくるから留守番頼むね」
俺たちが拠点とした丘は、大樹海に入ってアチコチ寄り道しながらだったけれど到達するのに何日もかかった。
正確な日数は計ってないのでわからんが……。
それを一日足らずで往復できるとは、コレーヌの能力は本当に計り知れないものだ。
さすが古代文明の申し子!
「ではマスター、出発しますので私におつかまりください」
「ええッ!?」
鳥型ゴーレムと接続しながら、両手を広げてくるコレーヌ。
それってもしや……?
コレーヌの、その豊満な体に抱き着けと!?
「そうでなければマスターを運んで飛べませんので。さ、お早く」
「他に掴まるところないのかな!? 鳥ゴーレムの背中に乗るとか、足にぶら下がるとかは……!?」
「どちらも振り落とされる危険性があり推奨できません。一刻も早い往復をご希望のことで、最高スピードでの飛行を予定しております。その間の安全を確保するにはマスターもわたくしと共にコックピット部位に配置されるのがもっとも確実です」
「でも、コックピット?……っていう部分めっちゃ狭いですよ!? 一人入ればギュウギュウじゃないですか!?」
「そういう想定構想なので致し方ありません。もっとギュウギュウにずれば二人ぐらい何とか入るでしょう」
そうしたらギュウギュウどころじゃないくらいにこの上なくギュウギュウになるんでは!?
オートマタといえども本当に人間の女の子と変わりない柔らかさを持っているコレーヌと!?
しかし他に選択肢もないのでやむなく言う通りにする俺。
……ぎゃあああああ、本当に密着する!?
柔らかい柔らかい!? これこそまさにどんな類の柔らかさとも似て非なる女の子の柔らかさ!?
しかもいい匂いまでする!?
厳密には人間じゃないオートマタのコレーヌから、どうしてここまで女の子独特のいい香りがするの!?
こんな生殺しの状態で街まで飛んでいかねばならんのか!?
ああああああッッ!? 待って待って!?
スピードを出して飛んだら、その分だけ凄まじい重圧がかかって……!?
「加速をつけますとGがかかるのでご注意ください」
Gとやらがかかることで益々俺の身体がコレーヌに密着するううううッ!?
このッ、この顔前面に押し込まれる柔らかさは、おっぱ……!?
街への高速移動は、俺の想像する以上の大変さを伴うのであった。




