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14 群狼従属

 始まったのは一方的な蹂躙だった。


 強化外装を絆召喚し、巨大なるゴーレムの姿になったコレーヌは鎧袖一触。

 オオカミたちが束になろうと勝てる相手ではなかった。


 振り払う巨腕によって数頭が一緒くたに吹き飛ばされる。


 そもそも丘の上にいた巨人=ゴーレムを恐れて遠巻きにし、ゴーレムが不在になったと勇んで攻め寄せてきたんだから、そんなオオカミたちに勝ち目などあるわけがない。


 しかも、今オオカミどもが対峙しているゴーレムはかつてのものと似て非なる。


 絆召喚によって現世に具現化されたゴーレム外装は、だからこそ新品同然のピカピカで、想定上のスペックを万全に発揮することができる。

 対して、かつてコレーヌが着ていた元々のゴーレム外装は、数千年の長きにわたって古き命令を遂行し続けてきたお陰で、経年劣化に晒されオンボロ。


 古いものと新しいものの差は歴然であった。

 つまり、絆召喚された新品外装を着るコレーヌは前よりも断然素早くて強いのだ。


 かつてのオンボロゴーレムにすら恐れて近づかなかったオオカミたちではどうにもならない。


「スラッピィが一発芸します! 水晶玉!」

『キュピピ!』


 手持ち無沙汰な俺たちが遊びだすころにはすっかり薙ぎ倒されて、静かなものになっていた。


『マスター、制圧完了です。敵は完全に沈黙しました』


 ゴーレム姿のまま歩み寄ってくるコレーヌは、威圧感があって一歩引いてしまった。

 改めて『よくこんなのと対峙して無事切り抜けられたな俺ら』と思う。


『呼応して背後を襲おうとしていた別動隊も粉砕し、近辺に脅威残存なしと判断いたします』

「はい、ご苦労様」


 ……ところで。


「それ何持ってるの?」

『捕虜と言いますか、戦利品です』


 ゴーレムの巨大な手に鷲掴みされているのは、他ならぬオオカミ一頭だった。

 今回の敵として現れ、実際には敵にもなれずに一方的に粉砕された子たちであるが。


 なんでそれを持って帰ってきておるの?


『これは、最初に名乗ったオオカミの群のリーダーです』

「ああ、ウルシーヴァとか名乗っていた……!?」

『戦闘の勝利の証として、こちらはマスターのその手で断罪するのがよろしいかと考察いたしました』

「俺に何させる気!?」


 殺せってことかよ!?

 その時、ゴーレムの手の中に囚われていたオオカミが弱々しく首を上げた。


『くッ……殺せ……!』


 そんなまたありがちな。


『誇り高きオオカミは、負けて生き恥を晒すことなどしない! 戦いの中で華々しく散り、孤狼の誇りを次代に遺すのだ!』


 などと吠えたてるオオカミさんは、ゴーレムの手中にすっぽり握られ、どう足掻いても脱出不可。

 オオカミ自身も通常より一回り大きいモンスター種なのに、それが手に収まってしまうゴーレムの巨大さが改めて実感される。


 周囲には、ゴーレムに蹴散らされた他のオオカミたちが、低くうなりを上げている。

 彼らも薙ぎ倒されたり吹っ飛ばされたりでボロボロのはずなのだが、それでも恐れて逃げ出さないのはリーダーが捕まっているせいだろうか。


 獣には獣なりの仲間意識があるのか。


「困ったなぁ……!?」


 ああいうのを見せられると、殺そうにもすんなり殺せなくなってしまうんだけど?


「コレーヌの言いたいこともわかるし、襲われたのはこっちなんだから落とし前つけるのも当然。……しかしなぁ」

『何か支障でもマスター?』

「相手も心ある生き物だとわかってしまうと……、なぁ?」


 エゴだということはわかっているが、いつぞやの悪ゴブリンみたいなヤツらだと情け容赦なくできるんだがなあ。


『マスターの優しさに感服いたします。ですがこやつらを無事に解放すれば報復にやってくる可能性は非常に高いと推測されます。完全なる危険排除のため息の根を止める行動は不可避かと』

「そうだよねぇ……!?」


 しかし覚悟の決まらない俺は、八方丸く収まる都合のいい展開はないかと思案を止められないのだった。


 ……ん。

 そうだ。


 あるじゃないか。血を流さずに丸く収める方法が。


「契約しよう」

『はい?』

「このオオカミを絆召喚獣にしたら、もう仲間だから争わなくていいだろう。相手を殺さずに済んで、自分たちの安全も確保できる。一挙両得!」

『お、お待ちくださいマスター。そう気軽にマスターに従う栄誉を与えるのは……!?』


 なんでコレーヌさんそんなに慌てるの?


 その一方で議題に上るオオカミ本人(?)は……。


『何をゴチャゴチャ喋っている!? 殺すのならさっさと殺せ! 貧弱な人間なんかと無駄なお喋りなどしているな!!』

『は?』


 オオカミの不用意な発言に、またコレーヌの発する空気が氷点下をぶっちぎった。


『我がマスターになんという口の利き方です? アナタ、相手の機嫌次第で生死が決まる立場だということをまだ理解していないのですか?』

『私はさっきから覚悟している生きる望みなど持っていない! お前こそ殺すなどさっさとしたらどうだ!? 敵を無視して人間なんぞとくっちゃべってるんじゃない!』

『「なんぞ」とはますます無礼な。アナタはまだこの場の真の主を見分けられませんか?』

『え? どういうこと?』

『考えてもみなさい。この丘を、この私が何千年と守り続けてきたことはアナタたちだって知るところでしょう? その間何人たりとも近づけなかった場所に、私とこの方が一緒にいる理由は何ですか?』

『え? え?』


 オオカミ、まったくわかっていない。

 人語を解する分知能は高いと思われたが、所詮は犬畜生の知力で察するのは鈍いようだ。


『つまり、この御方こそが私の新たなマスターなのです。私を従えるからこそマスターは、今まで何人も近づけなかったこの丘に鎮座されているのではないですか』

『えええええぇーーーーーーッッ!?』


 オオカミ驚く。


『そんな!? こんな貧弱そうな人間が、巨人を従えて丘の上に君臨したというのか!? そんなバカな!? こんなに貧弱そうなのに!?』


 何度も貧弱言うな。

 ああもう面倒くさい。俺がコレーヌのマスターとわかって少しは見直してくれたことだろうから、その隙をついて契約してくれるわ!


「『契約完了』!」

『ぬほぉおおおおおおおおおおッッ!?』


 なんか変な雄叫びを挙げて、このオオカミとの契約はしっかり結ばれた。


 新たな絆召喚獣をゲットだぜ!

 着々と層が厚くなっているな!


「ふふーん、あれ?」


 無事契約を結べたのはいいけれど、なんかそれだけで終わらないぞ?


 なんかオオカミさんの体が光り輝き、ゴーレムの手からすっぽ抜けて……。


「なんか変わっていく……?」


 光が収まった時には、そこにいたのはオオカミではなく、オオカミの耳や尻尾を残した美しい女性だった。


 長身でガッシリした体つき、オオカミの面影を残しているが……。

 やっぱりオオカミさん!?


 オオカミが人間に変わった!?

 しかも人間の美女に!?


「なんで人間形態にメタモルフォーゼしてんのッ!? 絆召喚術にそんな機能ないはずだよ!」

「主様に深くお仕えするため、主様に似た姿となるのは当然です!」


 そんな『当然』聞いたことないわ。


「このウルシーヴァ、獄狼族を代表して誠心誠意をもってマスターにお仕えいたします。いえ私だけでなく、私を通じてすべての獄狼族が以後、主様の手足となって犬馬の労を担いましょう」

「馬はいらないんじゃないですか? 犬だけでいいんじゃないですか?」

「誰が犬だ!? 誇り高いオオカミだぞ!?」


 また俄かに受け入れがたいことが起こった。


 コレーヌの場合はまだ受け入れられた。

 巨大なゴーレムの機体の内部に、女性アンドロイドの本体が内蔵されていたんだから。

 そう説明されると何とか受け入れることができた。


 しかしながら。

 今さっき起こったオオカミの美少女変身はまったく理解が追い付かぬ。

『なんでそんなことになったの?』ということすら不明のままだし!


 ……。

 まあ、ありのままを受け入れるしかないか。


「よろしく、ウルシーヴァさん」

「『さん』などと水臭い! どうか私のことは『ウルシーヴァ』と呼び捨てになってください! 丘の巨人を打ち倒し、従わせるほどの強者! その傘下に加われば我が一族も安泰です!」

「打ち倒したわけじゃないんだけれど……!?」


 そう思っているから、こんなに全力で従順なのか?


 こうして、あれよという間に新しい仲間が増えるのだった。

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