12 露天風呂を掘る
ハコを作ったら詰め込みたくなる。
これが悲しい人のサガか。
「今度、街に行ったら色々買いこんでみるかな? きっといい感じの家具やら売ってるだろうし」
このまま一生大樹海から出ないということもないだろうしな。
しかしまあ、とりあえず大工仕事で汗をかいた。
洗い流してスッキリしたい。
「スラッピィ頼む」
『キュピピ!』
スライムのスラッピィがピョンピョン跳ねる。
一跳ね二跳ね……三跳ねの勢いをつけて大ジャンプ! 中々の高度で俺の頭の上に飛び乗る。
「絆召喚! 【水】!」
『キュピ!』
スラッピィから湧き出る水。こやつは俺の頭上にいるため、水は自然と我が全身を流れ落ちていくのだった。
「冷たいー! 気持ちいいー!」
サッパリした!
汗も流し落としたことだし、あとは濡れた服を脱いで絞って乾かしておくか。
「……マスター、何をなさっておいでですか?」
そんな様子をコレーヌが冷ややかな目で見ていた。
ハッと気づく。
「ゴメンね? 女性の前で脱ぐなんてデリカシーなかったよね?」
「そこだけでなく一連の行動へ全体的に物申したいのですが……?」
え?
他にも問題がありました!?
「汗をかいたので水浴びしたんですが? 水はスラッピィに召喚してもらって……綺麗な水なので。服を着たまま浴びたら洗濯もできて一石二鳥!」
「そんなわけありません! 洗濯も水浴びも一緒にできるわけがありません中途半端になるだけではないですか!!」
「すみませんッ!?」
コレーヌに怒られた!?
「……失礼ですがマスター。マスターのなさりようはあまりに文化的ではありません。身の回りを清潔に保つことは必要。そのためにも設備をしっかり整えなくては」
「そんなものですか……?」
「家を建て終えて、次に作るべきものが決まりましたね。お風呂を作ります!」
「お風呂!?」
……いや、知ってますけど。
落ちこぼれとはいえ貴族家に生まれた俺だからね。実家に浴室ぐらいあったともさ。
「でも面倒じゃない? 風呂っていちいちお湯を沸かしたり。薪とかもったいないだろ?」
大量の水はスラッピィに用意してもらえばいいものの。浴槽とかはどうやって用意したらいいのかわからん。
絆召喚で呼び出せるものが素材に使えるかもわからんし……!?
「ご安心ください。私にいい考えがあります」
また『いい考え』を持つ者が現れた……!?
◆
それからコレーヌはお風呂を作製し始めた。
まず地面に穴を掘る。深くて広い穴だ。
掘削自体は、彼女がゴーレム外装をまとえば楽々行えたのですぐ済んだ。
でもその穴に水を入れるの? 地面の直接注いだらアッという間に土に吸い込まれると思うんだが?
そんな俺の口出しを予想していたのか、コレーヌはニヤリと笑って……。
「心配ご無用。対策は考えてあります」
と言う。
満足いくほど穴を掘り終わったのか、次の工程に入りコレーヌはたくさんの石を拾ってきた。
その石を掘った穴の底に敷き詰める。まるで蓋をするように。
「ではスラッピィさんお願いします」
『キュピピピィッ!』
スラッピィ、敷き詰めた石の間に流し込むように……絞り出す灰色の……ドロリ足したものは何?
「セメントです」
コレーヌが代わりに教えてくれる。
「私とスラッピィさんの複合絆召喚で、セメントが召喚できるのです。セメントは、一旦固まると石のように頑丈となって叩いても割れませんし、水も漏らしません。これで隙間を埋めて、風情ある岩風呂が完成です!」
何やかんやで、風呂出来た。
地面に掘った穴に石を敷き詰め、それで水を注ぎ込んでも漏れないようにしたのか!
「スラッピィさん、またお願いします」
『キュピ!』
スラッピィ大活躍だなあ。
結構大きめの穴だが、それが満杯になるほど水を注ぎ込んでも全然平気のスラッピィ。
……って言うかさっきから皆、俺に断りなく絆召喚してない?
「あとは湯船に満たされた水が、お湯になれば完成です。それはわたくしの働きで……」
そう言ってコレーヌ、片手を水の中に入れる。
「わたくしに内蔵されているマナドライブは、強化外装を稼働させるためのエネルギー源です。それを熱エネルギーに転換すればこの程度の水量を沸騰させることぐらい造作もありません」
ほどなくして、湯船に張られた水がボコボコと泡立ち始めた。
凄まじい蒸気が上がって目の前が見えなくなるほど。
「さあ、お風呂が完成しました。どうぞお入りください」
「煮立ってるよね!?」
こんな熱湯に入ったら煮え死ぬわ!
◆
「……コレーヌは、やっぱり認識の齟齬があるな」
煮えたぎった熱湯が、いい湯加減になるまで冷めるのを待ってから入浴した。
散々なプロセスを経て入った風呂だが、しかし実際入ってみるとやはり心地いい。
お湯に体がポカポカ温まって、四肢が溶けていくようだ。
「しかも外にあるってのがいいな……。」
作ったのが元々ゴーレムが守っていた丘の上だけあって眺めもいい。
大樹海の緑の地平を一望しながら浸かる風呂。
「心地いい……!」
「気に入っていただけたようで光栄です」
「いいッ!?」
いつの間にか湯船の中に、俺以外にもう一人の入浴者が!?
「こ、コレーヌさん!?」
「一人湯はお寂しいかと思い、参上いたしました。マスターに片時も離れず付き従うのがオートマタの務めですので」
湯の中に肩まで浸かったコレーヌ。
お湯から一部のみ浮かんだ肩が、暖められたゆえかほんのり桜色に上気して、色っぽい。
「コレーヌさん服は!?」
「もちろん脱いできました。服を着たまま入浴するのは常識に違反しますので」
こういう時だけ常識を弁えて!
「って言うか脱げたの? オートマタって服脱げたの?」
「わたくしは全状況対応型オートマタですので。戦闘から通常時のお世話まで、あらゆる務めを果たせるよう基礎設計されています」
それが……。
服を脱いで裸になれることと何の関係が?
「女性型オートマタは、主に男性マスターの快楽欲求を満たすための機能も備わっています。そのため細部に亘るまで人間の成人女性を模した構造になっているのです」
「なんと……!?」
「お疑いなら確認してみますか?」
と言って立ち上がり、お湯に隠れていた首から下を晒そうとする。
「うわあああああああッッ!?」
俺は慌ててコレーヌの肩を掴み、お湯の中へと押し戻した。
「大丈夫! キミの言うことは信用する! だってマスターに忠実な最高オートマタだもの、その言葉を疑うなどありえない!」
「マスター……!」
そこまでまくしたてるように言うとコレーヌは感動に目を潤ませて……。
「マスターにそこまで信頼していただけて、私は幸福なオートマタです。二千年を経て、こんなにも心優しいマスターに出会えるなんて」
「う、うん……!?」
そこまで感動してくれると、俺もドギマギするんだが?
「あの、マスター……」
「はい?」
「わたくしの奉仕機能は、マスターのためならいつでも使用可能ですから」
「はい……!」
この無償の奉公精神に、俺の理性は耐えきることができるのだろうか?
無理だった。
◆
一方その頃……。
『やはり、あの丘から巨人は消えています』
『奪うなら今だ! あの優れた土地は、我々の支配下にこそふさわしい!』
『ですが偵察では、既にあの丘には何者かが侵入しているようです。家を建て、住み着く様子を見ているとか……!?』
『だから何だ!? 先住者がいるなら追い出せばいいだけだ! 弱者は奪われる、それがこの大樹海の掟なのだからな!』




