10 命名
数ある項目の中から【強化外装タイプ:ギガント】というのを選択して召喚。
すると出てきたのは、おもっくそ見覚えのあるゴーレムのガワだった。ただし、それこそ今生まれたばかりというかのようにピッカピカ。
「素晴らしいですマスター! これならばスペックの最大限を引き出すことができます!」
女の子は瞳をキラキラ輝かせ、早速俺が召喚した方のピカピカゴーレムに乗り込んだ。
「モジュール接続……同期確認……マナドライブ連結正常……」
なんかブツブツ言いながら、蓋が閉まって彼女の姿を隠したら、完全に元の巨人ゴーレム。
しかし、俺が召喚したゴーレムと、向こうで抜け殻のままの旧ゴーレムを見比べると、たしかに全然違う。
形は同じなものの、やはり年季の違いだな。元々の方はところどころ苔生しているし、細かなヒビが入っているし。
気づいたら、そのオンボロぶりが克明になっている。
それに比べて、俺の召喚した方のピッカピカなことよ。
女の子が乗り込んで操る動きも、さっきまでとは比べ物にならない。
キビキビしている。
手足の動作が素早く、契約する前のオンボロゴーレムの動きとまるで違うとわかる。
それこそ足腰いわした老人と、元気溌剌の若者ぐらいに違う動きだ。
「やはり新品は違います。マスターの能力は素晴らしいですね」
褒めちぎりながら、ゴーレムから降りてくる女の子であった。
……さて。
そろそろ……。
「山積みになった疑問を解消したいのですが」
まずキミ何?
なんでゴーレムの中から女の子が出てきたの?
しかも千八百万……? とにかくメチャクチャ長い時間ゴーレムの中にい続けたようなことを言っていたが、普通の人間ならとっくに寿命で死んでるかシワシワのおばあちゃん。
なのに彼女はピチピチのムチムチ。
……そうだな。
改めて彼女の外見に言及しておくと、それはもう見惚れるぐらいに麗しい美少女。
年齢は二十歳前後で間違いないと思える。
若い。
銀髪だが、あまりにもキラキラと輝いて却って作り物めいていたし、真っ赤な瞳の色はますますこの世ならざる印象を与える。
しかしながら容貌は貴婦人のように美麗で、体つきも緩急際立つ魅惑のプロポーションなので男なら皆見惚れることだろう。
しかも着ている衣服が、下着のようなヤツで肌を覆う面積が狭く頼りない。ピッチリと肌に張り付いて体のラインを隠す役割はまったく果たしていなかった。
自然俺のトキメキを刺激し、心を揺さぶる。
「き、キミは一体何者なんだろう? どうしてゴーレムの中に?」
「? 何故目を逸らすのですかマスター?」
キミの格好がエロいからだと、とても言えるか。
「回答といたしましては、まずわたくしは人間の雌生体ではありません。それを模して製造されたオートマタです」
「王と股?」
「二千年ほど前、この地には優れた文明地帯が広がっていました。今の世界とはまったく異なった別文明です」
そう言って女の子は、周囲の景色を見渡す。
『イデオニール大樹海』の地平まで広がる青い森。彼女がゴーレムとしてナワバリとしていた丘は小高いので、そこから遠くまで一望することができた。
「わたくしは、その文明によって作り出された人を模した機械です。ロボット……アンドロイドとも言います。古代文明の科学力によってみずから考え、行動することができる人形です」
「人形……? キミが……?」
とてもそうは見えないんだが?
俺の知っている人形と大分違う?
「わたくしが製造された当時、この辺りには古代文明の都市がありました。この丘にはとある重要施設が建っていて、わたくしはその警護のために配備されていました」
「ほおおお……!?」
「古代文明が滅び、あの頃生きていた人々も皆消え去って、守るべき施設が土に還って森と変わり果ててもなお与えられた命令を遂行し、この土地を守り続けていたようです」
作られたモノである彼女に、インプットされた命令を自力で書き換えることはできない。
なので俺が絆召喚術で契約を交わし、彼女に命令できる立場になって初めて旧い命令から解放された。
何千年もの長きにわたって、守る対象が風化して消え去ってもなお守り続けてきた彼女。
「ですが今のわたくしは、マスターと出会い新たな存在意義を獲得しました。これよりはアナタ様の役に立つため全機能を注ぐ覚悟でおります!」
「お、おう、よろしくお願いします……?」
彼女と簡単に絆契約を結ぶことができたのは、彼女の心の底から『従うべき相手』を求めていたからなのかもしれない。
双方の希望が上手く結びついて、契約が成立したのだ。
「お、おうテメエ! ダンナに従ったのはオレが先輩なんだからな! 先輩のオレを敬えよ!」
ゴブリンが早速先輩風を吹かせていたが、ゴーレム乙女の能力は身にしみてわかっているので引け腰だった。
威勢がいいのは口先だけ。
「マスター、早速ながらお願いがあります」
「な、なんでせう?」
配下になった途端お願いとか、服従するように見えてけっこう自由だなこの子?
「名前を頂きたく存じます」
「名前?」
「そうです。わたくしの型番はVOL-4071CX2ですが、それはあくまで機種名であり、わたくしの個体を表す名前ではありません。マスターに仕えるただ一体のオートマタとして、ただわたくしのみを指す個体名が欲しいのです」
思ったよりささやかなお願いで安心した……!
そうだな。
彼女と絆を結んで一緒に行動して行くにも呼び名があった方が便利だし、愛称の一つもプレゼントしてあげたら喜ぶか。
……よかろう。
我がセンスの粋を集めてとびっきり可愛い名前を考え出してあげようではないか!
……考え中……。
「彼女はゴーレムだから……」
『ゴーレム』をもじって、女の子っぽい響きにして。
ゴレーヌ。
……いや『ゴ』なんて入れるとゴツくて女の子っぽくないな。
「では『コレーヌ』でどうだろう?」
「コレーヌ! 素敵な名称です! 有り難く頂戴いたします!」
ゴーレムから出てきた乙女ことコレーヌは、心底から嬉しそうに綻んで微笑んだ。
……。
こんな心情のこもった笑いを浮かべられて、作り物の人形などとはとても信じられない。
「……」
そんな中、突き刺してくるような視線を背後から感じた。
振り返ってみると、ゴブリンが恨みがましい目つきで俺のことを睨んでいる。
「一体何……!?」
「ズルいぞダンナ! 新入りにだけ名前をくれてやって特別扱いかよ! オレの方が古株なのに!」
「えええー?」
どうやらコレーヌにだけ名前を付けて上げたことに不公平感を感じている模様。
『キュピピピピピピピピピッ!!』
「スライムまでご立腹!?」
しかし言われてみればたしかに、コイツらも絆契約を結び、種族としてのスライムゴブリンとは一線を画すかけがえのないオンリーワンだ。
他のスライムゴブリンと区別するためにも名前ぐらい付けておいてしかるべきだというのに……。
その考えに至らなかったな。
不覚だ。
「では遅ればせながら二人にも名前を付けよう」
「やったぜぇー!」『キュピピィー!!』
そんなに喜んでくれるなんて。
ではまず最古参であるスライムの個体名を……。
……熟考中……。
「いつもキュピキュピ鳴いているので、『スラッピィ』はどうだろう?」
『キュピキュピキュピキュピキュピキュピ! キュッピピピィイイイイイイイイイッッ!!』
そんなかつてないほどに震えて興奮して!?
そんなにも嬉しかったの? よかった!
「ゴブリンは、『ゴブリーナ』かな」
「即決ッ!?」
うん。
なんか考えるまでもなくスンナリと浮かんだ。
ダメ?
「い、いや……!? ゴブリーナ! いい名前じゃねえか! 考えるまでもなく決まったってことは、それがオレ様にこの上なくジャストフィットしたってことだからな!」
スライムのスラッピィ。
ゴブリンのゴブリーナ。
ゴーレム(オートマタ)のコレーヌ。
この三体……もとい三人を引き連れて、俺の絆召喚術を極める工程はますます捗っていくのだ。




