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悪役令嬢やめました♪~3~

今回はここまでです。楽しんで頂けたら、お星様ください♪


「エカテリーナ様にバレましたぁぁぁっ」


 扉を開けるなり泣き叫ぶメイドに、女官長は眼を丸くする。


「お茶を用意して.... すっごい怖い顔で、謀る事は許さないって。王太子様の憩いの時間を邪魔するなど言語道断って。今度やったらメイドを替えてもらうって。....怖かったです」


 しどろもどろなメイドの説明に、女官長は額に手を当て軽く眼を瞑った。

 王太子との接点をと思っていたが、存外手強い。なるほど、確かに見方によっては、ゆったりした王太子様のお茶の時間を邪魔したようにも思われるだろう。


 エカテリーナ様との会話を王太子様は望んでおられないと。頑なにそう考えていらっしゃるのね。


 あの婚姻の条件からしても、御二人の亀裂が決定的なのは理解出来る。まずはそれから調べなくてはならないか。

 極悪令嬢時代のエカテリーナを女官長は噂でしか知らない。後宮は賓客の御相手ぐらいしかしないからだ。

 後宮に仕える者は基本的に後宮の外へは出ない。


 これは侍従長の守備範囲だ。


 女官長は侍従長に相談すべく使いを送った。




「なんとまあ.... 前途多難な事だな、女官長」

「茶化さないでくださいませ。....で? 王宮でのエカテリーナ様の評判は如何なものでした?」

「.....正直、最悪極まれりだ。誰もが口を揃えて極悪令嬢だと仰有る」


 聞けば、罵詈雑言で罵るのは当たり前、時には実力行使も辞さない破天荒っぷり。下品スレスレなくらい派手なドレスを纏い、豪奢な装飾品に、人が近づく事すら困難なほど香る香水。

 王太子様に近寄る女性には容赦がないと、噂通りの話がワラワラ出てきたらしい。


 話を聞いた女官長は唖然とする。


 今のエカテリーナからは想像も出来ない非常識っぷりであった。


 しかし、そこで侍従長は口に物が挟まるような呟きを漏らす。


「ただ....何というか、最終的に婚約者候補と呼ばれた方々...御令嬢らだけは、少し話が違うのだ」


 訝る女官長に、侍従長は他の婚約者候補らの話をした。


「エカテリーナ様は、認めるべきは認めてくださる方だと。エカテリーナ様から罵倒を受けたりされた方は淑女として未熟な者らばかりだったらしいんだ」


 最後まで婚約者候補として残った御令嬢方の話によれば、エカテリーナは確かに苛烈な女性ではあるが、不当な行いはしていなかったらしい。


 お茶をかけられた御令嬢は、昼間の茶会だと言うのに透き通る宝石のついたドレスを御召しになっていたとか。

 きらびやかな宝石は夜の夜会のみと暗黙の了解がある。

 昼間なら、透明度のないオパールや翡翠といった落ち着いた物をつけるのが主流だ。

 淑女としての嗜みが足らないと、お茶を投げ掛けたらしい。

 

 豚呼ばわりで罵られた御令嬢も、確かにポッチャリではあったが、エカテリーナ様の逆鱗に触れたのは、手を付けたお菓子を食べきる前に、新たなお菓子に手を出す不作法さだったとか。

 そんなんだから、全てがお肉になるのよっ、もっと淑やかに小鳥のように食べなさいっ、このままでは豚まっしぐらよっ、と、キチンと静かに食べきるよう叱ったらしい。


 このように、言動や行動は過激だが、それらには必ず原因が相手方にあったと言うのだ。


 不当に罵るエカテリーナ様を見た事はないと。言い過ぎ、やり過ぎ感はあれど、キチンとした嗜みを身につけていれば回避出来る事であったと御令嬢達は語る。


 実際、最後まで婚約者候補であった御令嬢方はエカテリーナ様から嫌がらせなど受けた事はないとか。


 変な所にエカテリーナ親派が存在した。


 女官長と侍従長は難しい顔を見合わせる。


「それって答えが出ていませんか?」

「ああ、多分な」


 言動や行動、姿形は極悪であれど、不当な行いはしない。エカテリーナは、なんのかんのと良いお家の御令嬢なのだ。

 理由もなく人様を罵り貶めるなど思いつきもしないのである。

 ただ、重箱の隅をつつくように姑根性丸出しな嫌がらせを行っていたのは間違いない。非があるから罵るのである。

 

 王太子様との仲が致命的になり、社交用の鎧を脱いだエカテリーナは、人畜無害な御令嬢にジョブチェンジしたのだろう。

 本人も言っておられたではないか。寵を得られぬのに、着飾る意味はないと。


 王太子様への恋慕が御令嬢方への敵意と攻撃力になっていたのだとすれば、今のエカテリーナ様はただの無防備な御令嬢である。


「前後が間違っていたのだな」

「ええ。最初から今のエカテリーナ様であれば....」


 意気消沈する二人の思考は国王夫妻と同じく、盛大な勘違いをしていた。


 エカテリーナは恋慕とはほど遠い真逆の思考で動いていたし、好きで悪役令嬢をやっていたのである。そんな彼女の前でしくじりを見せた御令嬢など良い獲物だった事だろう。

 

 国王夫妻も侍従長らも、エカテリーナが王太子を慕う暴走の結果、極悪令嬢というレッテルを貼られる羽目になったと思っているが、実は真逆という、真実は常に皮肉なモノである。




「エカテリーナ様??」

「あら。ごきげんよう、ファティア様」


 見慣れぬ御令嬢の姿を遠巻きにしていた生徒達だが、ファティアの一言と、相手がそれを肯定したことで、ざわりと周囲が沸き立った。


「....? どうしたのかしら?」


 遠巻きにされるなど何時もの事と気にもしていなかったエカテリーナは、周りのざわめきに小首を傾げる。


「随分と雰囲気が変わられたからでしょう。御婚約おめでとうございます」

「ありがとう。そうね。気が抜けたというか、望みが叶ったから、もう艶やかな装いは必要ないの」


 ふわりと微笑むエカテリーナは自然体で、柔らかな物腰に某かの余裕を感じさせる佇まいをしている。


 これが愛されている女性の貫禄か。


 ファティアも盛大な勘違いをしつつ、眩しそうに眼を細めた。


 こうして見事な変貌を遂げたエカテリーナに、周囲は勝手な妄想を垂れ流す。


 やれ、王太子の寵愛が彼女を変えただの、猫を被っているだけで、すぐに化けの皮が剥がれるだの、言いたい放題な噂の大半は真実に掠りもしていなかった。


 後日、妹から噂話を聞いたラシールは怪訝そうな顔をする。王太子の思惑を聞いていた彼は、噂を確かめるべく王太子に手紙をしたためた。

 

 手紙の返事は直ぐに届き、翌日面会の許可を頂いたラシールは、久々の王宮で王太子に歓待される。


「よく来てくれたな。嬉しいよ」

「時間を作っていただき、ありがとうございます。政務は慣れましたか?」

「社交は良い。いつも通りに頼むよ」


 ラシールはチラリと侍従を見て、特に問題はなさそうなので、王太子の希望に従った。


「いやさ、なんか学園がすごい噂で持ちきりなんで確認したくてさ。ラブロマンスから陰謀説まで多種多様だぜ?」

「はあ? なんの話だ?」


 顔をしかめつつ、王太子はラシールに説明を求めた。


 斯斯然々と話すラシールの噂話に、王太子の顔がみるみる歪んでいく。


「なんだ、それ。俺とアレに情はないぞ。陰謀説も御粗末だな。アレが本当にその気なら、とうに俺は首を落とされてる」

「おや? 自覚あるんだ、フィルドア。だよなぁ。辺境伯怒らせて、よく無事で済んだものだよな」

「ああ。エカテリーナがな。とりなしてくれた」

「ほう」

 

 微かに上がった王太子の口角をラシールは見逃さない。


「和解でもしたかい? 前みたく毛虫のように嫌悪感を顕にしなくなったね」

「和解? いや。何というか....確かにアレも変わったからな。髪も巻かなくなったし、化粧も香水もしなくなった。服装も落ち着いたし。アレも大人になったのかもしれん。少なくとも以前のように目障りではなくなったから、時々、顔を会わせると会話くらいはするぞ。普通だ」


 本人は普通に話しているつもりなのだろうが、そのあまりに面映ゆそうな眼差しには、ほんのりと慈愛が滲んでいた。


 何ともはや。瓢箪から駒かよ。


「良かったじゃないか。嫌いなところが無くなって」

「.....そうか、それだ!!」


 王太子はすっとんきょうな顔でラシールに頷いた。


「そうだよ、何でアレと普通に会話出来てるのか不思議だったんだが.... 毛嫌いしてた部分が跡形もなくなったんだ。それでか」


 そこからなの?


 無自覚かよ。俺が言いたいのは、そこじゃない。


「嫌いな所がなくなったんだから、問題なく結婚出来るな。まあ、仲良くやると良いさ。エカテリーナ様は成績だけはピカイチだったし、良い妃になるだろう」


 ラシールの冷やかしに、王太子は憮然とした顔でキッパリと答える。


「それはない。アレとは白の婚姻となっている。俺が迎える側室が子を為したら、正妃を交代する予定だ」


 ラシールの顔から、するりと表情が抜け落ちた。

 

 何それ、どんな状況なん???


「他言無用だぞ」


 そう言いおき、王太子は王家と辺境伯家で交わした密約の話をラシールに聞かせる。

 ラシールは唖然としたまま言葉もない。踏んだり蹴ったりだな、エカテリーナ様。

 だが、その話をする王太子の不機嫌そうな顔に、やや溜飲を下げた。

 

 ほんと、腹芸の出来ない真っ直ぐなお人だこと。


 自覚のない王太子にラシールは人の悪い笑みを浮かべている。

 

 そんな友人を余所に、王太子はかねてからの疑問に答えを貰って満足気であった。


 ドレスも化粧も派手で香水臭くて近寄りたくもなかったエカテリーナに、何故普通に接していられたのか。

 この数ヶ月、たまに会うくらいだが、エカテリーナは随分と落ち着き淑やかになった。

 柔らかなしぐさや、しっとりとした佇まいは好感が持てる。

 元々、礼儀作法は完璧だったのだから、今のエカテリーナは淑女として完成された形だろう。


 あのエカテリーナなら傍に置いても良い。


 そう考えた途端、地味なムカつきが胸に湧いた。


 掴み処のない違和感は捉える前に消えてしまう。


 何だったのだ、今のは。


 不可思議な顔で惚ける王太子を、呆れた眼差しでラシールは見つめていた。


次回も頑張ります。ワニを応援ヨロシクです。


       m(_ _)m

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