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美術室の獅子達③

「だが断る」



「えー?!なんでですかー?!今は完全に私のターンだったじゃないですか!あの流れでよもや断わられるとは…」


渾身の一撃だと思っていた漣華は項垂れた。


「…漣華、お前は見事に俺の弱点を点いたぞ。ストーカーの癖にな。だけどお前、何で『家族』なんだ?お前がなりたいのは彼女だろ?」


「元ですよ!元ストーカーですよ!」


「なるほど。で?」


一花にとっては無視の出来ない質問だったので、無意識の内に目つきが鋭くなってしまっていた。


「そんな怖い顔をしないで下さい!家族と言ったのは…えっと…先ほど、私はあなたの妻にも、母にもなりたいと思ったから…です」


「え……母??……おっぱい吸ったからか?」


まさかの「母」発言、意外な言葉に驚く一花。


「そうです。私はあの時のあなたが可愛いくて、愛しくてたまらなかったんです。好きとか大好きの次元じゃなかった。世界の誰よりも、私はあなたを求めているのだと、そう感じたんですよ?」


「うっ…」


「なんか…憧れから始まったただの恋とはもう全然違うんです。私はもう、あなたの一部になりたいと、あなたの寂しささえも私は欲しいと、そう思ってしまいました。…重いですか?」


「それは…」


「いえ、重いですよね。自分だってそう思いますもん。でも…仕方ないですよね?あなたにおっぱいを吸われた時から、私はこうなってしまったんです…」


「お前…」


「こんな気持ち…ただの友人のまま抱えて生きるなんて私は無理ですよ…。だから…どうか…どうか私を受け入れて…欲しいです」


先ほど芽ばえた一花への強い慕情。


一花に問われ、言葉にする事で漣華の中でも整理されていった気持ち。


それは愛の詩であり、願いの唄だった。


その表情、言葉一つ一つが一花の心を鷲掴み、大きく揺らした。


「…私では…ダメなのでしょうか…」


「そんなことない!」


悲嘆に暮れる彼女を見てついて出る否定の言葉。


ダメなはずない…


「だったら…」


でも…


「…俺は!俺は…漣華の言葉が嬉しかった。家族になろうと言ってくれた事も、世界で一番求めていると言ってくれた事も…。そして寂しささえもって……何なんだよお前…そんなこと言われたら…俺だってもう…友達だとは思えないよ…」


「では…」


一花の実質OKの返事に、思わず笑みが溢れる漣華。


「待って!ちょっと待ってくれ」


欲しい。漣華が欲しい。そう渇望する心に必死で蓋をしながら一花は言う。


「漣華、お前が愛してくれている俺が今生きてここにいるのは、二葉のおかげなんだ。あいつが、お前と同じように俺を家族と呼んでくれたから、俺は生きる意味を貰えたんだ…」


「はい…」


一度途切れた一花の言葉。


言葉を紡ぐにつれ、だんだんと悲しみを帯びていく一花の顔を、心配そうに見つめながら漣華は小さく返事をした。


「…そんな、家族と言ってくれたあいつが、3日前に突然別れを告げたんだ。理由も分からずに…突然…」


「……」


「分かるか?俺は家族をまた失ったんだぞ?一度ならず二度までも…。幸いあいつは死んじゃいないけど、だけど、家族を失う怖さが、悲しさが、漣華には分かるか?いつだって一瞬なんだ…目の前から、居なくなるんだ……」


「……」


「もうそんなのは嫌なんだ…。俺は怖いんだ。もう、家族を失うのは、怖くて怖くて仕方ないんだ…。だから、せめて18歳になるまでは、俺は…家族を求める事は、辞めたんだ…」


「……」


「全部、弱い俺が悪いんだ……ごめん」



気づけばまた、抱きしめられていた。


知らないうちにまた、泣いていたんだ。


…ほんと……いつまで経っても自分のコントロールが出来ないんだな…



うっ…



小さくて…



涙で濡れてて…



柔らかくて…



温かくて…



優しくて…



なんだよ…



こんなキス…



ずるいだろ…




「……おい、元ストーカー…」



もう、逃げられねーや



「はい」



可愛い顔しやがって、鼻水垂れてるぞ



「ほんとお前…何なんだよ…」



こんなにも、俺を乱しやがって



「ただの元ストーカーですよ?」



わかったわかった、俺の負けだ



「違うだろ?俺の一部、なんだろ?」



一生逃さねーからな



「はいっ!」




満開の花のような笑顔が二輪、美術室に咲いていた。

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