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美術室の獅子達②

「いや、お前さ、脱いでくんない?」


「え?!脱ぐんですか?!」


「寒いか?クロッキーだから10分も掛からないとは思うけど…」


「いえいえ!寒くはありませんが…その…なぜ…」


「あぁそっちか。いや、漣華さ、君、整いすぎてるんだよね。完璧すぎてなんつーか…つまらないんだよ。絵のモデルとしてはな。シンメトリーの建物を見ている心境と言うか…俺は、もっと人間らしさが見たいんだ。だから、脱いだらさ、どっかに隙があるんじゃないかなーって思ってね。ダメか?」


「それは…褒められているのでしょうか?!何だか釈然としませんよ?ですが、あなたに描いていただけるなんてこんな光栄なことはありません!さすがに他のレオからの依頼ではお断りしますが、一花さんなら喜んでお受けいたします!ただ…本日はその…女性の日なので…上だけでもよろしいでしょうか…」


「あ、うんいーよ。じゃ脱いで」


「なんか軽いです!」


そう言って少しプンプンしながらも一枚、また一枚と徐々に素肌を晒していく漣華。


露わになっていく漣華の素肌を見つめながら、一花はおもむろに鉛筆とスケッチブックを用意する。


これまでに見た数多の美術品、風景、人物、生命いのちの様、そのどれよりも儚く美しい少女の真っ白な柔肌。


それが徐々に羞恥で紅く染まっていく様を見て、一花はさっそくえがきたいという衝動に駆られた。


漣華は羞恥で微かに震える指でブラジャーを外す。


そして、恥ずかしくて見る事が出来なかった一花に向けて恐る恐る顔を上げた。


瞬間、ドクン。


心臓が跳ねた。


こちらを見る真剣な一花の眼差し。


それは何度もDVDで見た 天才画家 暁 一花 の眼差しそのもの。


その眼差しに己の羞恥なぞ一瞬でどこかへ離散し、見られる側のはずの漣華は逆に見入ってしまった。


そのまま1分程の時間が経った頃、授業開始を告げるチャイムで少しの冷静さを取り戻す漣華。


そこで改めて俯瞰する現在の状況。


漣華にとっては甘美で背徳さに満ちた二人きりの美術室。


逢瀬のようで


秘め事のようで


羞恥以外の色情がさらに体を火照らせる。


滲んだ汗が背中をなぞると、淫らな感覚が全身に巡った。


彼を見つめているだけなのに、胸の先端が痛いくらいに隆起していた。


熱くて、切なくて、辛いのに愛しい。


チラリと視線がくる度にビクッと体が反応してしまう。



「動くな」



「んっっ」



色気のある低い声色に思わず漏れてしまった艷声…


果たして今の自分はどんな顔をしてしまっているのか…


熱を帯びた下腹部から溢れるものは血液かそれとも…



「終わったぞ」



「ひゃっひゃい!」



半ば惚けていた私は、飛び跳ねた勢いのまま彼の元へ駆け寄る。


「あぁ…なんと……」


目に飛び込んで来た人物は、今まで一度も見た事のない私だった。


「綺麗だろ?」


「はい…なんと言うか…大人というか…自分じゃないみたいです…」


「うん。とても女だった。魅力的だったよ」


小さく笑みを浮かべてそう言ってくれた彼。


嬉しい…初めて女扱いして貰えた…


もし…もし今日があの日じゃなければこのまま…わたし…わたし…


「ん?どした?」


「あ、いえ!嬉しいです…嬉しいです…。描いてもらって本当に良かった…」


でも、まだ一緒にいたい…話していたい…


「ねぇ…一花さん」


「ん?」


「今までも…その…ヌードを?」


「あぁ、幼馴染のを少しね。けど…」


「けど?」


「あいつ、ダメなんだ。モデル向いてねーんだ」


「そうでしょうか?とても可愛らしい方だと思いますが」


「そりゃそうだけどさ、あいつさ、脱ぐとすぐ欲情しちゃうんだよ。ジッとしていられないんだ。」


「それは!それは凄く分かります!!あっ……あの分かり…ます…はぃ…あわわわ」


自分が何を言っているのかを理解して悶えだす漣華。


「あははは!なるほどね、だから色気が凄かったんだな。あと漣華さ、左のおっぱいの方が若干でかいよね」


そう言ってグニグニと遠慮なく胸を揉まれる漣華。


「ひぇぇー!一花さん!ダメですよぅ」


驚き思わず少し離れる漣華だが、何故か服は着ようとしない。


少なからず、女として意識されているのが嬉しくて、この甘い時間(漣華視点)を壊すのが嫌だったのだ。


「そうだ!一花さん、お家でご飯はどうしているのですか?朝日さんが居なくて、困っていませんか?」


「んー。困ってはないかなー。」


「では、ご自分で作るのですか?」


「いや、作らないよ。一人で食べるの苦手だしね。」


「あ、確かに一人で食べるのは美味しくないですもんね。」


「いや、美味いもんは美味いんじゃないか?」


「えー。では何故でしょうか。」


「そうだなー。食べる事ってさ、極論生きる為だろ?一人で飯食ってる時にさ、あれ?何生きようとしてんだろ俺って思ったんだよね、昔。自殺未遂を繰り返してた頃があってさ、今はそんな風に思わないけど、なんか名残?だから一人で食べるのは今もちょっと…ね。」


そう言っておどけたように一花は笑った。


漣華にはそんな一花がとても切なく映った。


思わずそっと抱きしめ、頭をさすった。


特に何も言わず、子供をあやすように優しく優しく撫でていた。





カプッ


「ひゃっ」


チューッ


「あぅぅ…」


吸われていた。


変な声出た。


けど、母性本能スイッチONになっていた漣華は黙って受け入れた。


時々変な声は出ちゃうけど。


すると、


「両成敗!」


いきなりそう言って二ついっぺんに口に含まれた。


一花は調子に乗っていた。


「お、大人のやつーーー!!」


そう叫んで離れた漣華はとうとう服を着始めた。


惜しいことしたな、と両手をギュッと握りしめていた一花。


「一花さん」


凍えるような目つきだった。


「はい」


怯えていた。


「やはり友達にはなれません」


これはマズいと思った。


「両成敗したからですか?」


一応聞いてみた。


「はい、そうです」


そうだった。


「次からは気をつけますが」


チャンスを下さい。


「次もしたいのですか?」


チャンスか?!


「はい!」


元気よく言ってみた。


「では、私と家族になりませんか?」



慈愛に満ちた、聖母のような笑顔だった。




一度人生を捨てずに済んだあの言葉、まさか二葉以外から言って貰える日がくるとは…


一花は思わず唾を飲み込む。






「だが断る」


断った。

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