美術室の獅子達①
一花が学校を休み、二葉がクラスメイトに破局宣言をした翌日、まだ二人は話が出来ていなかった。
これは、二葉が「一花に相応しくない自分は関わってはいけない」と変なこだわりを貫いていたからであるが、2日間無視され続けた一花も「こんな事は今まで一度もない、これは、ただ事ではないな」とビビって話しかけられないでいた。
そんなヘタレ一花にも今日は嬉しい変化があった。
何故かクラスメイト達から頻繁に挨拶をされるようになったのだ。
それどころか、一花の座席の周りには朝から人だかりができ、休み時間の度に色んな質問やら遊びの誘いやらをされるようになった。
何故か、みんな一花の後ろに座る二葉の顔色を伺うような素振りをするので気になるし、二葉は二葉でみんなの様子を監視するような態度で座っている。
最初は単純に嬉しかった一花もそんな不自然さがだんだんと怖くなり、昼休みには逃げるように美術室へ駆け込んだ。
「…何が起きているの?パラレルワールドなの?」
学校側が一花の入学に合わせて用意した一花専用の美術室に、困惑する一花の声だけが木霊する。
とりあえず落ち着こう、と描きかけの絵に筆を走らせていると、「コンコン」と控え目なノック音。
(二葉かな?)と期待を込めつつ「どーぞー」と声をかける。
「失礼します。」
澄んだ声色と共に入ってきたのは、ワールドこと宵闇 漣華だった。
「おっと、シャンデリか。」
「またその様に呼んで、漣華です、漣華とお呼び下さい。」
第一印象で絶対コイツの家にはシャンデリアがあるな、っと思った一花は漣華をシャンデリと呼んでいた。
「あはは、で、何か用か?漣華」
「用、という訳ではありませんが、こちらに入って行く一花さんをお見かけしたので…来ちゃいました…ね、ウフフ」
「ウフフかー。変なやつだな相変わらず。」
「変じゃないですよ!どーして一花さんはほんとにもー。あ、何か描いてるんですね!見てもいいですか?」
「どぞ」
「わぁー…猫ですねー素敵!」
「可愛いだろ?」
「はい!とっても!」
「だろー?黒ごまって名付けたんだ。この学校で唯一の友達だ。あ、そうだ!お前さ、俺と友達にならねーか?」
「え?!い、今まではお友達じゃなかったんですか?!」
「はぁ?お前ただのストーカーだろ。アメリカからわざわざこっち来ちゃうし。それにな、リップ盗んだろお前!知ってんだからな!」
「し、知りませんよ!リップは、たまたまですよ!引っ越しも、たまたまですよ!」
ふーん、白を切るつもりか、なら…
「ほんとか?」
「ひっ…」
「ほんとに?」
「ひゃぁ」
一度目は睨むように、二度目は顔を近づけて耳元で囁くように。
「と、盗りましたぁ!引っ越しも、あなたを追いかけて、です!すいませんでしたぁ!」
真っ赤になった顔を両手で覆い隠しながら、顔を伏せながら白状する漣華。
コイツをからかうのは楽しい。
「OK、正直に話したから許そう。じゃ友達の件はよろしくな?」
「そ、それは……嫌…です。」
「嘘だろ?!じゃ何?ストーカー続けるの?!勘弁してくれ!」
「違います!友達じゃなくて…その……彼女に…彼女にして欲しい…です。」
「却下」
「何故ですか?!そして却下早くないですか?少しは悩んで下さいよ!はぁ……破局したと…聞きましたよ?」
「言わないでそれ。てか何で知ってんの?!怖いわお前。もーいーや。友達じゃないならもう出てけ。」
「や、なります!なります!お友達!だから出てけと言わないで下さい!」
「…そう?でも何か脅して友達になってもらったみたいで…なんかなー」
「じゃ、じゃあこうしましょう!私の絵を描いてくれませんか?それを、友情の証に…ね?」
「それだと…俺にメリットなくね?まぁいいけど。じゃそこに座って?クロッキーでいいだろ?」
「ほんとに?!ありがとうございます!お願いします!」
「はいはい」
「こんな感じでいいですか?」
俺から正面の位置、椅子に腰掛けて漣華は聞いてくるが……うーん…
「ど、どうしました?」
「いや、お前さ、脱いでくんない?」