放たれた獅子①
ビッチャーン!!
「痛ったぁぁ!なんだ?!」
あ、あれ?何してたんだっけ俺…
あ、やべ、また死のうとしてたなこれ…
うわぁー…冷てぇーし頭痛ぇーしってうわ!何これ?!糞?!マジかよ!ふざけんなよ!振られるし冷てぇーし汚ぇーしもうっ!最悪だっ!!ちくしょー!!
………………
二葉に突然別れを告げられ、生きる意味を無くした一花は、ほぼ無意識の内に入水自殺を図っていたが、膝上まで海に入った所で運良く?頭にカモメの糞が落ちた衝撃で正気を取り戻した。
二葉のおかげで死への衝動は3年前から一度も無く、「どうせいつか死ぬのなら、別に急がなくてもいいかもな、なら…かかってこいよ人生!」と、この3年間である程度成長もしていたので、二葉を理由にしなくても自死をすぐに選択する事は無いはずだ、と思っていたのだが…学校で抱えていたストレスも相まって昔の癖がつい出てしまっていた。
やっちゃったな…と海水で髪を洗いながら少し反省する一花だった。
そして凄く寒い事に気がつく。
震えながらも、二葉の事が気になって何度も電話やメッセージを送るが全て無視されてしまった。
(なんだアイツ…好きなやつでも出来たのか?ちくしょーめ)
ふてくされた一花は家には戻らず、すぐ近くにあった観光ホテルに1泊して英気を養う。
お金はあるのだ。
温泉に浸かりながら、友達作りの作戦と、二葉奪還大作戦を考えてワクワクしていた。
※この時一花は何故フラれたのかは分かっておらず、寝取られか、実は許嫁がいました、のどちらかだと思っていた。
翌日、朝に連絡をしても二葉は出ない。
再びふてくされた一花は学校を休んで家に戻り、荒ぶる感情を絵画製作にぶつけて過ごした。
ちなみに、この日作成した『ちくしょう』というタイトルの荒れ狂う海の絵は後日300万で売れた。
………………
二葉side.
一花に別れを告げ、号泣しながら徒歩で三時間掛け自宅に戻ってきた。
一花からメッセージや着信が来ていたが出る事も返信する事も出来ない。
何故なら、クラスメイトから一花を遠ざけた犯人は自分だから。
この三時間の間に、何度も謝りたいと思った。
だけど、一花ならすぐに自分を許してしまうだろうし、それに甘えてしまう自分を想像すると嫌気がした。
(いっちゃんの事何も分かってない自分が大キライ!いっちゃんを苦しめた自分が大っキライ!こんな私がいっちゃんの彼女でいられるはずがないっ!!)
謝るのは簡単、だけどそれでは何の解決にもならない。
一花の彼女でいたいなら、彼を一番理解していなければならない。
(いっちゃんにふさわしい女に私はなる!!)
だから、彼女は別れを告げた。
そんな彼女の思いはたった一つ。
(いっちゃんの邪魔だけはしたくない。)
………………
翌日、一花は学校に来なかった。
電話には出なかったけれど、メッセージでホテルに泊まったことと学校に来ない事は知っていたから心配はしていない。
一花がいない今、このチャンスを逃すまいと、朝のホームルームの時間を借りてクラスメイトに謝罪とお願いをした。
「獅子である一花の生活を邪魔をしないよう極力関わらないように」とお願いしていたのは自分の勘違いで、皆に協力してもらったのは間違いだった事を謝罪し、逆に、一花は友達を欲しているから積極的に関わってほしいと涙ながらにお願いした。
そして、今まで何度か「二人は付き合っているのか」と聞かれた時に「マネージャーです」と答えたのは、彼女である事は、皆には避けるようにお願いした手前なんとなく言いづらかった…と説明した。
さらに勢い余った二葉は、聞かれてもいないのに「昨日別れましたぁぁぁ」と大号泣しながら暴露した。
そんな残念少女二葉の様子に、まだそんなに仲良くなっていないクラスメイト達はリアクションに困っていた。
そんな空気を感じたクラス担任は、とりあえず進路相談室に連れて行って慰めてあげた。