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尋ねるように、祈るように

朝日あさひ 二葉ふたば


事故後も変わらずに隣りに住んでいた彼女は、3年ぶりに戻って来た一花に夢中になった。


元々一花の事が大好きだった彼女は、自宅前で起こった事故に心を傷つけられた被害者の一人で、数ヶ月ベッドから出られない程に病んだ過去がある。


幸いな事に、その日は家族旅行で留守にしていた為、凄惨な現場を目にしてはいないが、葬式で見た一花の尋常ではない様子にショックを受けたのが原因。


優しく純粋な少女は、彼の受けた傷を心で共有してしまったのだ。


3ヶ月ほどかけて日常生活を送れるようにはなったが、その後もずっと一花を案じていた。


そんな日々が続いていたある日、突如ニュースで一花が映ったのを目にする。


アメリカやイタリアで行われた有名な絵画コンクールで、日本人の少年が賞を獲ったといった内容。


ビックリしてテレビに齧りついた。


インタビュアーの質問に飄々と答える彼を見て、二葉は涙を流して喜んだ。



「いっちゃんが元気そうだ…元気そうだ…」



嬉しくて嬉しくてその日は眠れなかった。


アルバムを開いては彼の顔を指でなぞったりしていた。


その後も、どこかで賞を獲る度に彼はテレビに出る機会が増え、見つけ次第録画をしては何度も何度も繰り返し見ていた。


一花は知らなかったが、獅子称号の授与式に二葉は会場に行ったりもしていた。


そして事故から約3年後、突然一花が帰ってきた。


3月の後半、午後9時頃の事である。



………………



その日、一花が自宅に戻る事を朝日家は知らされていなかったので、二葉はいつも通りに過ごしていた。


お風呂上りに自室でアイスをかじっていた時、ふと、窓の外で灯るはずの無い明かりが点いている事に気が付く。


瞬間、食べかけのアイスをゴミ箱に放り投げ、ノーブラでTシャツと短パンだけの格好も気にせずに慌てて部屋を飛び出した。


玄関をノックする事も忘れ、二葉はドアを開き叫ぶ。


「いっちゃーん!いっちゃーん!いっちゃーん!」と。


階段をゆっくりと降りてきた一花は、玄関で叫んでいる二葉を確認すると、しかめっ面で言った。


「うるせぇ」と。


そんな、3年前と変わらないやりとりが嬉しくて、大号泣しながら飛びつく二葉を少しよろけながら受け止めると、「おっぱい大きくなったね」と言った。


すると、「それなりにぃぃぃぃぃ」と鼻水を垂らしながら二葉は言った。


「面白い返しだな」っと一花は笑った。


叔母はそんな二人を見て涙を流した。



………………



春休みということもあって、その日から二葉は押しかけ女房の如く朝から晩まで一花を世話するようになり、3日後には「叔母さんは不要です」と半ば強制的に追い出してしまった。


確かに昔も仲は良かったが、それは一般的な幼馴染の範疇での話で、こんなにも熱烈に甲斐甲斐しく世話される程の関係では無かった。


故に一花は結構戸惑っていた。


正直に言って距離感が分からないのだ。


恵まれたルックスや絵画の実績もあり、一花は行く先々で非常にモテた。


なので、二葉が自分に対して恋をしている事はすぐに分かった。


けれど、その感情は完全な一方通行。


一緒にいると寂しさも忘れられるし、家事も手伝ってくれるのでありがたいにはありがたいのだが…気持ちの温度差が激しいので結構邪魔くさかった。


(コイツが居ないのはトイレくらいだな…何故か風呂にもついてくるし)と多少うんざりしながら二人で部屋の片づけをしていた時、ふいに二葉がこう言った。



「いっちゃんは私の家族だよ」



二葉としては、一人きりになった一花を慰めたくて、「幼馴染で隣り同士だし、遠慮せずに兄弟みたくいつでも頼ってね」といった意味合いで何気なく言った一言。


しかし、それを聞いた一花は衝撃で動けなくなっていた。


無論、幼馴染とはいえ他人なので、その言葉を真に受けた訳ではない。


だけど、自分を好いてくれている女の子が、嘘偽りなく、心から言ってくれた『家族』という言葉に、全身が震えた。


驚きと嬉しさと戸惑いがぜとなり、体を震わせた。


その時一花は悟ったのだ。


自分が心の根底で『家族』を何よりも欲していたのだと。


『家族』とは、とうの昔に消えてしまったもの。


自分にとっては父と母だけだと思っていた『家族』。


あの日には二度と戻れないのだから、と諦めていた『家族』。


そんな『家族』に会うために、終わらせようとしていた人生。


なのに、幼馴染の少女が何気なく言った一言に、こんなにも喜びを感じるなんて。


死んでから始まる未来と思っていたはずなのに、今の自分は期待してしまっている。


考えた事も無かった未来を、見てみたいと思ってしまっている。



…手に入るの?



…求めても…いいの?



…家族に……なってくれるの?



……ねぇ……お父さん…お母さん…




……生きてても……いいの?




尋ねるように、祈るように、声にならないその言葉は涙となって溢れた。




棚の整理をしていた二葉の背後から、突然聞こえてくる一花の嗚咽。


少女の二葉には涙の理由は分からない。


ただ、一花がどうしようもなく可哀相に思えて、思わず抱きしめ二人で泣いた。



この日、一花は生きる理由を見つけた。

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