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獅子の昔話

カクヨムでちょっとだけ先行配信中

「別れる…か……それならもう………いいよな」



眼前の海を感情の無い目で見つめ、今まさに入水自殺を図ろうとしている少年の名は あかつき一花いちか 15歳。


金と黒のメッシュヘアをライオンのたてがみのように逆立たせ、少し日焼けた肌に引き締まった体、ワイルドな風貌ながら優しげな目元をしている彼はただのモテ顔高校生ではない。


学力や運動に関して特に秀でている訳ではないが、一点『絵画』の分野においては類稀なる才能の持ち主で、若干11歳にして国から『獅子』の称号を受けた世界的にも有名な天才画家なのだ。


ここ日本国において、獅子称号を得た者は国の宝的な存在。


ある程度の国への貢献を求められる代わりに、栄えある将来を約束された人物と言っていい。


彼自身、15歳でありながら既に数億円の個人資産を有し、国から様々な優遇措置も受けられる特権階級として誰からも認められている。


そんな、誰もが羨むような彼の人生はけして順風満帆だった訳ではない。



9歳の時、彼は目の前で両親を失った。


玄関前で車に荷物を積み込んでいた折、夫婦揃って暴走したトラックに跳ね飛ばされたのだ。


夏休み、何日も前から楽しみにしていたキャンプの予定日だった。


一瞬の間に起こった目の前の惨劇。


立ち込める煙、散乱する破片、けたたましく鳴る壊れたクラクション。


顔や服に飛び散った脳漿や血、皮膚のようなもの。


そして、バラバラになった両親。


奇跡的に無傷で難を逃れた彼は、近隣住民、通行人の悲鳴や怒号が飛び交う中、ぎこちない足取りで千切れた手足を黙々と拾って歩いた。


父なのか、母なのか分からないほどに変形し、血液で真っ赤に染まった手足を抱える。


とうに限界を超えた感情の渦に耐え切れなかった彼は、糸が切れたようにその場で倒れた。


ガソリンと、大量の血で塗れた真夏のアスファルトの上で。



この日を境に彼は壊れた。



絶え間ない震えと繰り返す嘔吐、突発的に叫んだり泣き喚いたり、情緒不安定になっていた彼は一時入院した後に親戚の家に引き取られた。


預けられた親戚の家では暴れまわり、自殺未遂を繰り返した。


それでも、甥の境遇を哀れんだ親戚は、なんとか彼の平穏を戻せるように懸命に、根気強く愛情を注いだが、次第に大人達の心が疲弊し体調を崩すようになった。


懸命な対応で少しづつ精神状態が安定してきた彼だったが、10歳になる頃には施設へ預けられる事になった。


その行為を誰も咎められない程に親戚の心身はボロボロの状態だった。


苦渋の選択だった親戚は涙を流し、何度も何度も謝りながら施設に預けた。


彼自身、日に日にやつれて行く親戚達を見るのは辛く、衝動を制御出来ない自分を申し訳なく思っていた。


そのため、施設に行っても感謝こそすれ恨んだりはしなかったが、自覚の出来ない所で寂しさは日に日に募っていった。


施設ではイジメ、喧嘩、上級生からの性的ないたずら等が度々あり、友達と呼べる人物とも出会えなかったが、絵を描く楽しさに気づく事が出来た。


それから彼はひたすらに絵を描いた。


制御が出来ないありったけの感情をスケッチブックにぶつけたのだ。


そんな彼の絵は、全てが真っ赤だった。


人も草木も空も、全てを赤くしてしまう彼の絵。


それはひどく不気味ではあったが、どこか無視できない輝きも含んでいた。


心に傷を持つ子供達を何千人も見て来た施設長は、奇妙な絵を描く子供には慣れていたが、直感で『この子は何か違う』と思った。


その直感を信じた施設長はダメ元で親戚の画家に画像データを送った。


すると、興味を持ったその画家はすぐさま来訪し、生で一花の絵を見た瞬間「俺が預かる」と言った。


施設から連絡を受けた親戚は耳を疑った。


なにせ、預かると発言した人物が日本を代表する超大物画家だったのだから。


真田さなだ まこと 38歳のこの男は、当時2人しかいない『絵画』部門で獅子称号を受けた人物だった。


ほどなくして、獅子の弟子として世界中を連れ回された一花は徐々に元からの明るさを取り戻していき、次第に感情の穏やかさも増していった。


その過程で沢山の色を獲得していき、才能を爆発させた彼は世界中でコンクールというコンクールを総ナメにしていった。


まだ子供で、しかも超短期間で積み上がった絵画実績の他、獅子の弟子という境遇、施設育ちからの成り上がりというストーリー性、ユーモアに富んだ彼の性格、等で連日マスコミに大きく取り上げられ、その話題性と『度重なる震災続きで沈みがちだった日本へ明るい話題を』といった民意の時勢もあって獅子称号を授与されるに至った。



それは、一花が絵を描き始めてからたった2年弱の出来事だった。



獅子となった後も、師匠と共に海外を中心に活動していたが、中学入学を機に師匠と離れ日本に腰を据える事になる。


師匠は寂しがったが、一花が偏に「友人を作りたい」と願ったからである。


日本に住むにあたり、彼を心配した親戚達が家に誘ってくれたが「父さんと母さんが寂しがると可哀相だから」と自宅に戻る事を選択した。


凄惨な事故があった()()自宅にである。


その選択に親戚一同は大いに動揺し、精神的な負担を考えてかなり反対したが、一花の決意は揺らがず、結果自宅に戻る事になった。


せめてもの妥協案として、比較的近隣に住む母方の叔母が数ヶ月間同居する事にはなったが。


実は、この時一花は死ぬつもりだった。


自宅に戻ったら、両親と自分の3人を描いた絵を製作した後、その絵を抱えたまま首を切ろうと思っていた。


絵や、師匠との旅で明るさも、穏やかさも取り戻した一花ではあったが、あの日から彼にとって生きることに意味は無かった。


彼はただ、家族でキャンプに行きたかった。


あの日の続きを、自宅で死ぬことで叶えたかったのだ。


密かに企てていたそんな計画も、叔母の同居で延長を余儀なくされたが、その間、一花にとって一つの計算外が生じた。


それは、朝日 二葉 の存在。


幼少の頃より、お隣りさんとして一花と共に育った同い年の少女。


事故があったあの日まで幼馴染として仲良くしていた少女。



そんな彼女が、彼を変えた。

主人公の外見イメージはエグザイル系の誰か

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