ベッドコミュニケーション
「…色々あったな今日は…ほんとに…」
俺の左腕を枕にスヤスヤと眠る二葉を眺めながら呟く。
教室での違和感から始まって、思いがけず漣華と付き合う事になり、二葉と漣華が衝突して、帰り道では二葉が不安定になった。そして、二人との交際へ…と、本当に色々あった。
「俺も疲れたけど、二葉もよく頑張ったね…ありがとうな」
今日、もし二葉に二股交際を拒否された場合、漣華を裏切る事は出来ない…と頭では思ってはいたけれど、実際、心はどうしても二葉を選んでいた。
いくら漣華に惚れていても、これだけ一緒に過ごした二葉が離れてしまうなんて、考えただけで気が狂いそうだった。
ここ数日は俺も無理していたから、もしかしたら、今度こそ死んでいたかもしれない。
そんな事になったら、二葉と漣華をどれだけ悲しませる事になっていただろうか。
本当に、俺は弱いな…。
「ごめんな…ありがとう、ありがとう」
事故の後、とことん壊れてしまった俺は、心が落ち着きを見せ始めた頃にはもう自分がどんな人間だったのか分からなくなっていた。
こんな時は確かこんな反応してたよな?違うな、こうだったかな?なんて、どうにか事故前の自分に近づけようと模索しながら生きてきた。
記憶喪失でもないのに、自分で自分を探すなんてね、わけ分からなくなるし、結構辛かったんだ。
師匠との旅で沢山の人と出会い、どんどんと認められ、有名になって、誰からも持て囃され、瞬く間に変わっていく世界。
そんな生活は勿論楽しかったし、充実していたけど、『今の俺は本当の俺なのか?俺は偽物で、本物の自分はあの時に死んでしまったんじゃないのか?ならば俺は一体、誰なんだろうか…』そんな風に考えては不安になり、怖くて、死にたくなっていた。
疲れていた。
家に帰りたい、帰って休みたい、自宅に戻れば自分が自分でいられるはず。
あの家で死ねば、お父さんとお母さんの子供のまま、二人に会いに行ける…そう思ったから俺は帰った。
そしたら、
二葉がいた。
この頃にはもう特に思い出す事もなかった幼馴染。
そんな彼女が、当時と同じように玄関から大声で俺を呼んでいた。
3年の月日を飛び超えて耳を震わすこの呼び声。
懐かしいような、昨日も呼ばれていたような、そんな感覚。
それはまるで、俺が、俺だと証明してくれているような、そんな呼び声だったんだ。
嬉しかったよ、二葉。
「思えばあの時から、とっくにお前は俺の一部だったんだね……ありがとう」
可愛く寝息を立てる二葉にそっと告げた。
実は今日、あれから昼飯は食べに行かなかった。
漣華には悪かったけど、二葉の疲れた心も心配だったし、3日前に何故別れる事になったのかも詳しく聞きたかったから、二人で帰宅する事にしたんだ。
漣華からはブーイングの嵐だったけど、生理が終わったら学校休んででも一日中一緒にいる、と伝えたらすんなりと引き下がった。
あの雌獅子は絶賛発情期だったようで、沸騰しそうなくらいに顔を真っ赤にしながらコクコクと何度も頷いていた。
そして、家に着いた俺達は一直線でベッドへ。
これは別に俺達が年中無休で発情期って訳じゃなくて、身を寄せ合うとやっぱり素直になれるし愛が深まるし…ってほんとだよ?ほんと。
おかげで、二葉の話も沢山聞けたし、気持ちよか…じゃなくて、沢山泣いたり、笑ったり出来て、また一つ絆が強くなった気がする。
そして、1時間くらい前から、安心しきった顔をしながら二葉は眠っていた。
「ん……いっちゃん…」
「ん?起きたの?」
「うん…」
目をコシュコシュこすって眠そうな二葉、かわいい。
思わずほっぺをぷにぷにする。
「えへへー♡幸せなり♡」
「俺もだよ。もう逃さないぞ」
「嬉しい!私、もうぜったい離れないの♡じゅっと♡じゅっと♡」
目を糸のように細めて笑う二葉、かわいい。
「あ。ねぇいっちゃん…宵闇さん、じゃなくて漣華ともさ、私、上手くやっていきたいな…」
「うん。でも、無理はするなよ?ヤキモチやいたり、ムカついたら怒ったり…素直に二葉の気持ちぶつけていいからね?だって、俺達は家族になるんだからさ」
「そっか、そうだよね。なんか、姉妹が出来たと思えばしっくりくる」
「なるほど。それ正解かもね。3人で試行錯誤しながらやってこうね」
「うん!なんかさ、頼ったり、気持ちぶつけあったり、慰めあったり…そんな関係になれたらいいなぁ」
「あー…そんな関係が理想だなー。二人のそんな姿、考えたらニマニマしてきちゃう」
「わかる!さっきまでこの先どうなるのか不安があったけど、今いっちゃんと話してたらすっごく楽しくなりそうな気がしてきた!」
子供のようにテンションが上がる二葉。天使かよ…かわいすぎる。
「二葉、愛してるよ。涙が出そう」
「えへ♡ちょっと泣いてるよ♡って私もだったぁ、あはは♡」
「漣華もいたらきっと号泣だねあいつ」
「ふふ♡あの子実は優しいもんね」
「限定的にはなー…他人の事はゴミかなんかと思ってそうだけど」
「ふふっ♪あれだけの美貌だもん、人間関係大変だったんじゃない?氷の仮面でも被ってないとやっていけなかったんだよきっと。はぁ…何か今日は酷いこと一杯言っちゃったな…。明日謝ろーっと。二人でショッピングとか行きたいな♪」
「二葉、お前はほんとに…はぁ…幸せ」
「いっちゃんがいるからだよ?いっちゃんだから皆幸せになれるんだよ♡いっちゃんはさ、やっぱライオンだよね!ハーレムが似合うもん♪」
「変なこと言うねー。でも、子供もたくさん欲しいな。二葉頑張ってくれる?」
「まかせて♡ねぇねぇいっちゃん…今度、3人でしよっか♡」
「えー…出来るかなー勉強しなくちゃ…」
難易度高いな…師匠に聞くかな…
「勉強はだーめ♡皆で覚えてくのがいーんじゃん♡」
「そうなの?分かった。頑張ろ。でもさー何かアイツᎷっぽいんだけど…よく分からないから二葉、助けてね」
「アハハハハッOK♡じゃいっちゃん、私を漣華だと思ってSっぽくしてみて?」
「……ちょっと強くするぞ?」
強く手首を掴んで強引に二葉を仰向けにし、覆いかぶさり声色を低くして耳元でそう囁く。
「あっ♡耳もとでそれ…やば♡私もそっち系かも♡もっとして♡あっ♡やっ♡あっ♡」
…二葉もそっち系みたいです。
一方漣華は…
「一花さん♡い、い、いちかさっん♡あぁ♡」
自主トレしていました。