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渡り廊下の乱

「ちょっとなにしてんのよアンタ!!」


廊下中に響き渡る二葉の怒声。


即座に反応したのは無関係の生徒達。


(始まった!!)スクールと呼び名の高い1年生の女子とワールドがレオをめぐってぶつかる!もしこれから始まる修羅場のとばっちりを受けたら今後の学生生活がヤバい!そう直感した生徒達は蜘蛛の子を散らしたように各々の教室に戻り聞き耳をたてた。


次に、一花が背を向けて逃げる動きを見せる、が、漣華にガッチリホールドされている左腕がほどけずに四苦八苦。

冷や汗が止まらない状態。


そして、二葉を見据えて微動だにしないワールドこと漣華。得意の凍てつくような視線を浴びせ二葉を迎え撃つ態勢。


二人に辿り着いた二葉は漣華を見上げる形で再度問う。


「なにしてんのよアンタ。離れなよ。」


第一声と打って変わって低い声色。


鋭い目つき、わなわなと震える手、かえって怒りが凝縮されたような、重く濃厚な怒りを漣華にぶつける。


それでも無言を貫く漣華。


事態は動きを見せない。


しばし空気が震えるような沈黙の嵐がその場を包む。


一花は静かに目を瞑り、現実逃避を試みていた。


「いっ…ちゃん…」


すると一転、聞き間違いかと思える程の弱々しい二葉の声。


堪らず目を開けた一花が目にしたのは、涙をいっぱいに溜めて一花を見つめる二葉だった。


「ふた__」


「朝日さん、一花さんを手放したあなたに今さら用はありません。が、一花さんと私が《《恋人》》になれたのはあなたのおかげです。なので、本来必要はありませんが、一度お話をする機会を設けてあげても私は構いませんよ?まだ授業があるのでしょう?私達は一花さんの…いえ、《《私達》》の家に帰っていますので、後ほど来られてはどうですか?まぁ、かつてあなたが立っていた場所に私がいるのを目にする…その勇気があなたにあれば、ですが。」


一花が二葉に声をかけようとしたその時、それまで沈黙を保っていた漣華が遮るように怒涛の口撃を開始。


その口撃に再び覇気を纏った二葉を見た瞬間、(今は黙っていた方がいい)そう判断し遠くを見つめることにしたヘタレ一花。


「ふざけた事を言ってんじゃないわよ!!あそこは私といっちゃんの家だよ!何年暮らしてきたと思ってる訳?今日何があったか知らないけどね、調子に乗らないでくれない?だいたい、いっちゃんと別れたのは私がいっちゃんに相応しくなる為のただの準備期間であって、本当の別れなんかじゃないんだから!!」


「そんなこ__」


「二葉。それは本当か?」


二葉の発言は一花にとって寝耳に水だった。好きな奴でも出来たからフラれたとばかり思っていた一花にとっては聞き捨てのならない発言だった。だから漣華の言葉を遮ぎってまで聞く必要が一花にはあった。その声色は低く、明らかに怒っていた。


「う、うん…。あの日、いっちゃんから話を聞くまで、いっちゃんが友達が欲しいっていう気持ちに私全然気づいてなくて、いっちゃんの邪魔になる事ばっかりしちゃってた。毎日毎日一緒にいたのに、いっちゃんの事全然分かってない私なんか、相応しくないし、今後も邪魔してしまうんじゃないかって…怖くなった。だから一旦お別れして、少しでも広い視野でいっちゃんを見られるようになったら、また彼女にして貰おうって思ってたの。一人で突っ走っちゃって…ごめんなさい。なんか、時間が経つにつれどうしていいか分からなくなって…今謝りに行こうとしてたら…こんな状況で…」


考えれば考える程分からなくなる自分の立ち位置。勢いで別れを切り出したものの、いつ、どのタイミングで恋人に戻れるのだろうか…と日に日に不安は募っていった。けれど、一度一花を拒否した手前、自分がどう振る舞ったらいいのかも分からず八方塞がりの状態に陥っていた。


先ほどまでの二葉は、正直、これから一花に会いに行っても、謝ったから何なのか、友達になり話せるようになったら解決なのか、一花が復縁を望んだ場合はどうしたらいいのか、別れている間にもし新しい彼女が出来たら自分はどうするべきなのか、分からなくて分からなくてもうわっかんないよぉ!!って感じだった。


それが、いざ一花と漣華が腕を組んで歩いている姿を見た瞬間、「何《《私の》》男に手ぇ出してんだゴラァ!!」となってしまうんですから、若いってほんと、素敵ですよね。


そして一花のターン。


「えっと二葉、お前の言ってる事さ、正直よく分からないんだけど、とりあえず、昨日な、お前と仲直りしたくて買ったケーキな、賞味期限切れちゃうから4つも食べたんだぞ俺。…まぁそれはいいか。あのな、邪魔したくないってお前は言うけど、漣華はな、邪魔するだけの為にわざわざアメリカから来たんだぞ?家族を置いてまで、だいぶ前にフラれたのに、諦めずに。だから、漣華は全然ふざけてねーぞ?本気なんだぞ?俺に関しちゃ真剣…を通り越してバカだけどねもはや。流石に俺達の家発言にはびっくりしたし…でもさ、今日俺はな、そんな漣華が好きになったんだ。邪魔も、迷惑もかえりみないけど、真っ直ぐ俺の事を好きでいてくれたのが、漣華なんだよ。」


まさかの漣華擁護に加え好きになった発言。


まるで心臓を抉り取られたかのようにダメージを負う二葉。


よろめく体を必死に留め、胸に手を当て、ギュッと目を瞑って苦しげに荒い呼吸をしている。


それに対して漣華はまんまると目を見開き、あんぐりと口を開けたまま一花を見ていた。


そして、一花は二葉をそっと抱き寄せる。


片手で頭を撫で、もう片方で背中をポンポン優しく叩きながら言葉を続けた。


「…なぁ二葉、邪魔になったらダメなのか?それって取り返しがつかない事なのか?たとえ上手い具合に行かない事があってもさ、仲直りのケーキを二人で食べられたら…それでいいんじゃねーのか?人生長ぇーし。って自殺未遂ガチ勢の俺が一番似合わないセリフだったけども。二葉、もうさ、授業始まってるし、このままサボれよ。そんでさ、3人でケーキ買いに行って、一緒に食べよ?《《俺達》》の家でさ。何個でも買ってやるから。仲直りしよう?ね?」


二葉はほんとに困ったちゃんなんだから、もう。って感じの表情の一花。


その顔は二人には見えていないが、一花の優しい口調と柔らかな雰囲気がこの場を支配し、幸せな気持ちでいっぱいになった二人。


今後の関係性を考えると複雑な気持ちにもなりそうではあるが、今は誰もがこの幸せに浸っていたかった。


「うわぁぁぁぁん、ヒック、うん、うん…ヒック、ごめんねいっちゃん…いっちゃーん…」


「グスン、グスン、ヒック、一花さん、一花さん…」


前後から抱きつかれてサンドイッチ状態の一花。


何故漣華が泣いてるのかはちょっと分からなかったが、何だか丸く収まった気がして「ラッキー」とか思っていた。


………………


3人の位置から一番近い2年F組の教室。


廊下側の最後列に席を置く水泳部の立花さんは涙を拭いながら思う。


(あかん、なんかもらい泣きしてもーたけど、結局どっち選ぶねん)


既に授業は始まっていたが、漏れ聞こえる3人の会話を聞いていたのだ。


そして放課後、ジャーナリズム研究会副部長の肩書も持つ彼女は、修羅場発生の際、密かに廊下の窓枠に置いておいた録音状態のスマホを手に取り呟く。


「大スクープやで…」


この音声データが、後に少なからず波乱を呼ぶ火種になる事は、まだ誰も知らない…


※立花さんは関西出身ではありません。

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