雌雄の獅子
んっ♡んっ♡んっ♡んっ♡んーっ♡
「お、おい、もういーだろキスは、息出来ねーだろ」
「はぁ♡ダメですもっとぉ♡」
ちゅーっ♡
「あーもう!しつこいんだよお前…それよりもっかい脱げよ、まだ描きたい」
「あ!それはダメですよ一花さん!ナプキンが足りなくなっちゃいます!」
「あははっ!俺の雌ライオンはとんだ変態だった!あははは!」
「今『俺の』って言いましたね!キャー♡さいこー♡もっと下さい♡もっと♡」
「いやいや、変態を否定しろよまず。冷めるわ」
「うっ、たしかに。でも『俺の』が付いたら何でも嬉しいですよ?」
「バカじゃねーの。でも可愛いなお前。こっち来て?」
「もしや!抱っこですか?さいっこう!一花さん!一花さーん♡」
先ほど見事カップルになった二人。
いちゃいちゃしていた。
他の生徒はまだ授業中だというのに。
いちゃいちゃしていた。
ただ、そんな事が許されるのが『獅子』というもの。
二人にとって学校は基本的に治外法権。
私立という事もあり、学校にとって二人の存在は今後何十年も宣伝に使える強力な武器。そのため、逆に学校側が二人のご機嫌を伺っている立場なのだ。試験も、出席日数も二人には関係ない。学校は無事に3年間通って貰えるように手厚く手厚くもてなしている。その分、一花には一枚くらいは絵を残して欲しいなーとか、漣華には文化祭で歌って欲しいなーとか、二人に講演とかで将来来て欲しいなーとかの打算はあるが。
「そーだ。俺さ、漣華のクラスに引っ越そうかな。正直二葉と過ごすの気まずいし、友達いないし、座席前後だし」
「それは!ぜひ!ぜひ!」
当然、こんな事も許されちゃう。
あまりに目立つ行いをすれば、恐らくやっかみやら嫌悪感を抱く生徒も出てくるだろうが、筆を持つ、マイクを持つだけで二人にはそれを黙らせる才能があるのだから恐ろしい。
そもそも、国の宝に手を出す度胸がある生徒もいないし、むしろ近づければメリットも大きいため、百獣の王たる雌雄の獅子に群がる生徒の方が多い。
実は、二葉の妨害行為がなかったとしても、一花にとって純粋な友達を得る事は結構難しいのだ。
王の行く道は、どうしても孤独になりがちなのかもしれない。
「さてと、今日はもういーや。俺は黒ごまに挨拶したら帰るけど、漣華、レッスンとか用事あるの?」
「いえ、ありませんよ?私も黒ごまちゃんに会いたいですし、一花さんのお宅に行きたいです」
「そう?じゃ荷物取りに行って帰ろうか。チャイム鳴ったら行こうね」
そう言って笑いかける一花。
漣華にとっては初めて見る一花の柔らかい笑顔だった。
「わっ、急に優しい!彼女になったらこんな一花さんになるんですね!めちゃくちゃ嬉しいです♡」
「バカお前、彼女面すんな。いーか?だんだん仲良くなるもんなんだぞ?今はまだ、恋人レベル1だかんな?これはあれだ、まだ知人レベル10くらいのラインだから」
「そんな!裸を見られ、おっぱいを吸われ、キスも沢山したのにですか?!」
「…ですよね。いいよ、彼女面して。うん」
「あははは!顔赤くなってますよ?ふふ♡可愛い♡ねぇ一花さん、お家行ったら、両成敗してもいいですからね♡」
「バカお前、ほんと…バカお前…ほんと…ありがと」
「あー♡もうっ♡なんですかこれ!今人生でいっちばん楽しいです!こんなに幸せなの知らない!もう死んでもいい!」
「死ぬな。殺すぞ。」
「はい。…ん?」
理不尽な怒られ方をした。