エピローグ 弟子、そして……。
このお話を以て、ひとまず完結とさせていただきます。
ここまで読んでくれた方ありがとうございます。
俺の身体には皇族の血が流れている。
過去も合わせ、七皇家のいずれの血筋かはわからない。
だが、サイ師匠、コウ師匠の見立てでは、俺に宿る【皇帝眼】は間違いなく、本物であるという。
現在、この【皇帝眼】は薬で抑えられている。
ラフィーナに薬を作ってあげることができたのも、そのためだ。
サイ師匠の厳しい精神修養によって、興奮状態を抑制することには成功しているが、魔力を高めてしまうと目が光ってしまうのは、どうにもできないらしい。
だから、俺が魔法を頑なに使わなかったのも、魔力をある一定以上放出しなかったのも、それが理由である。
不便とは思うが、性には合っている。
暗殺者が成績や功績で目立つわけにはいかない。
俺はあくまで剣だ。
目立つのは、あくまでラフィーナでいい。
「ブレイドくん、聞いてるのかしら?」
やたらと不機嫌な声が聞こえた。
我に返った時、長机を挟んだ向こうのローゼマリー生徒会長と目が合う。
そのこめかみはピクピクと動いていた。
いつもよりも優雅さに欠けている。
おそらく全校生徒の前で、ラフィーナに賞状を渡したことを、まだ根に持っているのだろう。
皇帝の名代としての務めとはいえ、複雑な気持ちであったに違いない。
いつも優美な笑顔を浮かべるローゼマリーの表情が、苦虫を噛み潰したようなものであったことは、今でも忘れがたい思い出として、俺の記憶に収まっていた。
そのラフィーナは俺の隣に立っている。
真っ直ぐローゼマリーの方に視線を向けていた。
今、俺たちは生徒会室にいる。
だが、とても生徒が運営する組織とは思えないほど、部屋は華美だ。
何気なく壁にかけられている絵画1枚だけで、一地方の飢餓を解決するほどの値が付くだろう。
そんな彫刻や絵、あるいは棚やティーカップに至るまで、一流のものが用意されていた。
何故、俺たちが生徒会室にいるかというと、ラフィーナが生徒会入りすることになったからである。
意外と思われるだろうが、元々各爵位において1名ないし、2名が代表として生徒会入りすることが、ミズヴァルド学院の生徒自治の決まりとして存在する。
今まで準男爵の中に、1人もいなかったのがおかしかったのだ。
とはいえ、先の騒動が発端であることは間違いない。
徐々にではあるが、マージュ家の生き残りであることを宣言したラフィーナを慕う生徒が現れた。
徒党となり、すでに30名以上がラフィーナに恭順を誓っている。
中には青田刈りの者もいるだろうが、やはりラフィーナの演説に感じ入ったものが多いようだ。
まだまだ小さな勢力だが、生徒会としては無視できないものに映ったらしい。
鎖を付ける意味で、ついに準男爵でありながら、生徒会入りを認めたのである。
「ラフィーナが生徒会入りする事情はわかります。……それで、生徒会長は何故俺にも、生徒会に参加しろと誘っているのですか?」
「それはラフィーナちゃんに聞いてちょうだい。彼女が推薦したのよ、あなたを」
「ラフィーナが……」
「で――どうなの? 我々の生徒会に参加してくれるのかしら、ブレイドくん」
ローゼマリーは机の上に肘を突いて、微笑を浮かべるのであった。
◆◆◆◆◆◆
生徒会室は針のむしろだった。
皆が俺たちに敵意を受けているのを感じた。
あそこで仕事をするのは、並大抵のことではないだろう。
鼻腔を衝いた香水も含めて、好きにはなれそうにない。
そんな状況をあと3年も続けなければならないのかと思うと、気が遠くなる。
俺はため息を吐いた。
「ラフィーナ、何故生徒会の話を受けた?」
決まり事であっても、突っぱねることは容易だ。
あそこはローゼマリーのテリトリーである。
敵中に突進するのも同じだ。
歓迎されていないことは、先ほどの空気感でいやというほどラフィーナも味わったはずである。
「ブレイド、私は特進階級生徒を目指そうと思う」
「……確か首席卒業の生徒に与えられる特別な制度だな」
ミズヴァルド学院を卒業すれば、平民出の俺たちも正式に爵位が与えられ、男爵として貴族の舞台に立つことになる。
だが、特進階級生徒――つまり首席卒業をすれば、階級が1個上がり、子爵となることができる。
この太平の世の中において、貴族の昇格のチャンスはごくわずかだ。
貴族階級を駆け上がり、皇帝を目指すラフィーナにとっては、最大の好機といえるだろう。
「首席卒業はただ試験や団体行事の点数が良かったからなれるものではない。学校での立ち居振る舞い、生徒からの人気、さらには自治活動での功績も加味される」
「特進階級生徒になるためには、生徒会に入るしかなかったのだな」
「その通りだ」
「それで? 話は戻すが、何故俺を誘った?」
ラフィーナは振り返る。
金髪が側で涼やかな音を奏でる噴水の飛沫とともに揺れた。
時間は夜と夕べの狭間。
かすかに光る西の空や、星の瞬きより明るく輝いていたのは、ラフィーナの【皇帝眼】であった。
あれほど大々的に喧伝してしまったのである。
もはや隠す必要はなく、俺の目薬は不要となったらしい。
衛兵から2、3質問は受けたようだが、その後なんらかの圧力がかかって、彼女がマージュ家の娘であることは、うやむやになった。
そんな元皇孫女殿下は、上品に微笑む。
「問うまでもない。お前は私の剣だ、ブレイド」
私を皇帝にしてくれ……。
瞬間、風がラフィーナを後押すように吹き散らす。
舞い上がった金髪を見ながら、俺には風がラフィーナを祝福しているように見えた。
俺はラフィーナの盾にはなれない。
部下にも、家臣にもなれないだろう。
ならば、俺はラフィーナの帝座の道を切り開く剣となろう。
これにて、ひとまず完結とさせていただきます。
読んでくれた方、ブクマ&評価をいただいた方ありがとうございます。
再開して直後に完結とはどないやねん! とお叱りを受けるかもしれないのですが、
作者的にはラフィーナのカミングアウトと、ブレイドの覚醒を書いてしまったら、
満足してしまいました。
ここからの展開を楽しみにしていた方、誠に申し訳ありません。
ただダラダラ書いた物を読者に見せるのもどうなんだ? と思い、
すっぱり完結ということにさせていただきました。
で、毎日投稿が終わるかといえば、そうではありません。
今日から『「ククク……。ヤツは四天王の中でも最弱」という風評被害のせいで追放された死属性四天王のセカンドライフ』という新作が始まります。
どっかで聞いたことがあるような台詞の風評被害で追放された四天王が、人間の街で第二の人生を歩むお話になっております。
最強暗殺者は割とシリアスな話でしたが、こっちはコメディよりのお話なので、
最近笑ってないなあ、という方には是非オススメです。
下欄にリンクを貼りますので、こちらも覗いてみて下さい。
1話2500文字以下で抑えるつもりなので、サクッと読めると思います。
是非よろしくお願いします。
改めまして『最下級の最強暗殺者~最底辺に潜伏した暗殺者は、学院の貴族たちを社会的に抹殺する』をお読みいただきありがとうございました!




