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mission22 弟子、薬を作る

 キュルルルルルル!!


 奇声がダンジョンに響き渡った。

 俺の視界に映っていた闇の塊だ。

 否――それは無数の大型蝙蝠だった。


 ポイズンバット。

 蝙蝠よりも一回り大きく、ガルムと同じく群で行動する。

 他の魔物に比べれば小さいが、毒液を空から垂らす厄介な魔物である。

 レベルは「2」だ。


「ポロフ!!」


 ラフィーナが叫ぶ。

 だが、彼女が指示する前にポロフは戦斧を掲げて呪唱していた。


 【鉄壁(アイアンウォール)】!


 光の壁が天井に向かって展開する。

 直後、ポイズンバットから毒液が投下された。

 点々と光の壁に毒液が滲む。

 汚物のような異臭が辺りに立ちこめた。


「マイア、頼む!!」


「はい!!


 マイアは魔力を杖にはめられた魔石にため込む。

 臨界に達した瞬間、勢いよく魔法を解き放った。


 【雷陣(サンダーラップ)】!


 屋内で雷精の光が(ほとばし)る。

 群をなすポイズンバットを一網打尽にした。

 残った魔物は、俺とラフィーナで料理していく。

 数十羽いたポイズンバットが視界から消えてしまった。


「ほう……」


 息を吐いたのは、マイアだ。

 ガルム、ポイズンバットと群で行動する魔物が続いた。

 今間違いなく殊勲賞(しゅくんしょう)を上げるべきはマイアだろう。


「大丈夫か、マイア」


 俺はマイアに小瓶に入った魔力回復薬を渡す。


「あ、ありがとうございます」


 しげしげと回復薬を見つめた後、何か意を決するように補給する。

 すると、ちょっと驚いた顔をして口を小瓶から離した。


「おいしい!」


「意外か?」


「はい。回復系の薬って苦手で。でも、この薬はとても飲みやすくて。どこで売ってるんですか?」


「俺が調合した薬だ。他にも疲労回復の効果もある」


「すごい! ブレイドくんって、薬も調合できるんですね」


「大したことじゃない。興味があれば、レシピを教えるが」


「はい! 是非!!」


 マイアはピカッと目を輝かせる。

 少々食い気味に俺に迫った。

 魔法技士を目指していると言っていたから、薬の調合にも興味があるのだろう。


 ジ――――ッ。


 何だか視線を感じて、俺は振り返る。

 ポロフとラフィーナが2人して俺とマイアに疑惑の眼差しを送っていた。


「なんだ? その目は」


「べ、別になんでもないけど」

「な、なんでもないぞ。ただ――」

「ブレイドとマイア、仲良さそうだなって……」

「ま……まあ、仲がいいことは良いことだ」


 ポロフは明らかにふてくされている。

 一方、ラフィーナは怒っているのに必死に表情を隠そうとしていた。


「何を誤解しているのか知らないが、他意はないぞ」


「そ、そうなんですか!?」


 そこでなんでマイアまで意外に思うんだ?


 そもそも魔法回復薬を渡しただけなんだが……。

 やれやれ……。


 俺はポロフにも魔法回復薬を渡す。


「これでいいだろ?」


「ボクは賄賂には屈しないよ」


 とか言いながら、魔法回復薬に口を付ける。

 マイアと同じく「おいしい」と唸り上げた。

 その横でラフィーナが物欲しそうに俺の方を見つめている。


「ラフィーナにはないぞ。そもそもお前、魔法を使っていないだろう」


「わ、わかっている。べべべ別にほしいとは言っていないだろ」


「俺もやらないとは言ってないぞ。ほら――」


 俺はラフィーナにも薬を渡した。


「これは?」


「【皇帝眼(エンペラーアイ)】を抑制する新しい目薬だ。以前、渡したものよりも効果が上がっている」


「あ、ありがとう、ブレイド」


 ラフィーナは呆然としながら、感謝の言葉を告げる。

 機嫌を取り戻し、薬が入った瓶を懐に収めた。


「そつがないねぇ、ブレイド。仲間にも、女の子にも」


「うん? 何がだ?」


「天然でやってるところが、また凄いんだよなあ」


 ポロフは肩を竦める。

 そして自ら話題を変えた。


「ところで、さっきから襲ってくる魔物の数が多くない?」


「ああ。『魔物のにおい』が俺たちに染み付いているからな」


「『魔物のにおい』? そんなにボクたち魔物臭いかな?」


 ポロフは着ている制服の袖を摘み、臭い嗅ぐ。


 そういうことではない。


「もしかして魔導具(アイテム)の事ですか?」


「そうだ、マイア。俺たちの衣服に『魔物のにおい』という魔導具(アイテム)の臭いが付着している。この臭いを辿って、魔物が集まってきているんだろ」


「い、いつ、そんな?」


「最初のガルム戦の時に、霧がかっていただろう。あの時だな」


「大変だ! すぐ洗濯しなきゃ」


 慌ててポロフは制服を脱ごうとする。

 動揺は言葉にも表れていた。


「いや、このままにしておこう」


「で、でも! 危険だよ、ラフィーナ」


「ポロフ。この試験は内容を忘れたのか。倒した魔物に応じて、評価点が上がる。今の状態は我々が望むところなのだ」


「あ。そっか」


 おそらく参加している貴族の誰かが、俺たちに『魔族のにおい』を散布したのだろう。

 嫌がらせか。それとも魔物を連続でけしかけ、リタイヤあるいはトラブルを誘発しようしたのか。

 狙いはわからないが、俺たちを過小評価しすぎていたのだろう。

 今頃、地団駄を踏んでいるはずだ。


「しばらくここで待機していよう」


「移動しなくていいんですか、ラフィーナさん?」


「魔物は向こうから寄ってくるんだ。探して回るより、ここで休憩がてら待機しているのも悪くないだろ」


 ラフィーナはニヤリと微笑む。

 向こうの仕掛けを、存分に生かすらしい。

 その提言を聞いて、ポロフとマイアにも笑顔が灯る。


 一方、俺は遠くを眺めた。

 このダンジョンに歪な気配が紛れ込んだことを、敏感に察していた。



 ◆◆◆◆◆◆



 ブレイドたちの活躍を遠巻きに監視していた者がいた。

 ダリジアが率いる男爵チームだ。


「くそっ!!」


 ダンジョン内で悪態を響かせる。

 普段は温厚な男爵章を付けた男が、地団駄を踏み明らかに憤慨していた。

 その様子にまたもや周囲の仲間たちがおののく。


 ブレイドの予想通りだった。

 まさか準男爵たちがこれほどの実力者とは思わなかったのである。

 結果、ヤツらに評価点を与えることになってしまった。

 このままでは準男爵たちがトップ成績で魔物狩りを終える結果となってしまう。


「ダリジア、諦めよう。オレたちも魔物を狩らないと」

「私たちが落第してしまうわ」


 仲間たちは口々に意見を言う。

 対してダリジアの返答は冷たかった。


「お前らは何もわかっていない」


「えっ……?」


「ここで僕らがあいつらを止めないと、後で――――」


 突如ダリジアは言葉を切る。


 いつの間にか、男爵たちの前にフードを目深に被った不審者が現れたからだ。

 漂ってくる妖気のような気配に、ダリジアは反射的に構える。


「何者だ?」


 ダリジアは声を荒らげた。

 刹那、光が闇の中で閃く。

 気付いた時には、仲間の身体の一部がダリジアの前に転がった。


「ひっ――――!」


 悲鳴を上げる。

 だが、その前に不審者の手が伸びた。

 ダリジアの口元をそっと抑える。

 目の前に不審者の顔があったが、闇が広がっているだけだ。

 誰かはわからない。

 途端、頭を惑乱の最中に突っ込ませるような笑声が響いた。


 そしてダリジアの耳を打ったのは、聞き覚えのある声である。


『どうしたの、ダリくん』


「まさか……会長?」


 ふわりとフードの奥に、生徒会会長ローゼマリーの顔が浮かぶ。

 不敵な笑みを湛えて、ダリジアを(あざけ)るように視線を送っている。


 先輩であるローゼマリーが新入生の魔物狩りにいるはずがない。

 だが、わかっていてもダリジアは反射的に頭を下げた。


「か、会長、すみません。ぼ、僕は――」


『大丈夫よ、ダリ君』


 ぞっとするほど冷たい手がダリジアの手を握る。

 すると、袋に入った大量の『魔物のにおい』をダリジアの手に載せた。


『これを撒いて撒いて撒きまくればいいのよ』


「し、しかし……『魔物のにおい』を大量に使えば、暴走――」


 ローゼマリーの指がダリジアの唇に蓋をする。


『あなたは言われたことをやればいいの。言うことを聞いてくれたら、いいことをしてあげる』


 ローゼマリーの指が、ダリジアの股間に触れる。

 その瞬間、ダリジアは舞い上がった。


「は、はひぃ!!」


 ダリジアは大量の『魔物のにおい』が入った袋を握りしめ、走り出す。


 その姿を見送った不審者はフードを開く。

 現れたのはローゼマリーの金髪ではない。

 女ですらなかった。


「くく……。学生は扱いづらいな。さて、あれでも仕留められぬだろう。次の仕掛けを仕込みにいくとするか」


 再びフードを目深に被り、男はダンジョンの闇に消えていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 結局は『愚者の暴走』で片付けられてこの男爵サマに全部押し付ける捨てゴマ扱いなんだろうなぁ あらアタクシそんなコト知りませんのコトよ?(某皇孫) で、男爵子弟の次は子爵子弟が捨てゴマなのか…
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