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最下級の最強暗殺者~最底辺に潜伏した暗殺者は、学院の貴族たちを社会的に抹殺する  作者: 延野正行


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mission21 弟子、連携する

「誰だよ、あれ」

「準男爵だと……」

「かわいいかも」

「かっこいい!」


 貴族たちの反応は様々だった。

 戸惑う者、怒りを示す者、容姿に見とれる者、素直に称賛する者。

 いずれにしろだ。

 爵位の徽章がなくとも、ラフィーナの姿は皆の心を揺るがした。

 それは間違いない。


「さすがラフィーナだね」

「頼もしいです」


 実力測定をした時に改めてわかったが、ラフィーナの強さは他の同年代の貴族たちと比べても、群を抜いている。

 よほどの修練を己に課してきたのか。

 それとも皇族の血か。

 理由は俺も知らないが、マイアの言うとおり頼もしいことは確かだ。


「みんな、行くぞ」


 周囲の空気が一変しても、ラフィーナは変わらなかった。

 魔物の血が付いた剣を払うと、一旦鞘に収める。

 深緑の瞳をこちらに向けて俺たちを促すと、走り始めた。


 その淡々とした様子に戸惑いながら、ポロフとマイアが追いかける。

 俺も後を追い、走り始めた。


 ふと背後から視線を感じ、1度立ち止まる。

 気のせいではない。

 そこには明らかに殺意が混じっていた。


「ブレイド、どうしたの?」


 ポロフの急かす声が聞こえた。

 俺は再び走り出す。


 やはりこの魔物狩りはタダでは終わらないようだ。



 ◆◆◆◆◆◆



 ダリジア・ダン・カクテルズは去っていく準男爵たちを口惜しそうに眺めていた。

 眉間に皺が寄り、奥歯を噛み、瞳を鋭利に閃かせる。

 その表情に、見ていたカクテルズの同級生たちですらおののいていた。


 怒りを露わにしたダリジアの脳裏に、ある台詞が浮かぶ。

 それは生徒会長から言われたものだった。


『ダリジアくん、あなたの役目はラフィーナちゃんの妨害よ。彼女が点数を下げるように動いて欲しいの。おわかり?』


『どんな手段を用いても――ですか?』


『うふふ……。そういう台詞は好きよ。でも、わかっているわよね。……もし失敗したら、準男爵の前に男爵(あなた)たちが卒業できなくなるかもしれないわよ』


 忘れもしない。

 あの生徒会長から漂ってきた殺気を。

 鋭いナイフのような眼光を。


 思い出しただけで、先ほどため込んだ怒りが勝手に霧散していく。

 あれが六皇家に連なる者の覇気だというなら、もはや人間ではなく魔物の類に近い。


 おかげでダリジアは大事なことを思い出す。

 懐から袋を取り出し、中身を確認すると、にぃと口を開けて不気味に笑うのだった。



 ◆◆◆◆◆◆



「まさか皇帝宮の地下にダンジョンがあるとは思いませんでした」


 マイアは皇帝宮地下に広がる広大なダンジョンを眺める。

 地上の人間らしい都市の姿から想像もできないだろう。

 大きな地下洞窟に感心した様子だった。


 ダンジョンとは魔物の巣窟を指す。

 主に暗い洞穴を住処にしたり、罠を仕掛けて獲物を捕ったりもする。

 中には宝石や珍しい武具を蒐集する魔物もいて、お宝が転がっていることもあるらしい。


「ここは貴族のための動物園だ」


「「動物園!!」」


 ラフィーナの言葉に、マイアとポロフが素っ頓狂な声を上げた。


「貴族たちは基本的に皇帝宮の中で暮らすからな。中には普通の野生動物だけではなく、興味本位で魔物も見たいという者もいたらしい。外から捕らえてきては、ここで放し飼いにしているそうだ」


「だからって、皇帝宮内にダンジョンを作るなんて」

「お金をかけるところが違いますね」


 平民出身のポロフとマイアは驚くどころか、呆れ返ってしまった。


 こういう場所があることは、コウ師匠から聞いていた。

 だが、俺も実際に入るのは初めてだ。


「どれぐらいの数の魔物がいるんだ、ラフィーナ」


「私も詳しいことは知らないが、このダンジョンは3層から成り立っている。1層は主にレベル1から強くてレベル3の魔物がいるそうだ。2層ではレベル4、3層ではレベル5という風に、深層に行くほど魔物のレベルが上がるらしい」


「じゃあ、さっきのレッドボアが1層での最大レベルの魔物と考えていいんですね」


「なら、ボクたちにはラフィーナがいるから楽勝だね」


「油断はするな、ポロフ。レッドボアは群れることを嫌う。だが、仮にレベル3の魔物が群れで襲ってきたら、さすがの私も対処しきれないぞ」


「その通りだな」


 俺は相槌を打ち、つと立ち止まる。

 弾みでポロフは俺の背中に強かに鼻をぶつけた。


「どうしたの、ブレイド?」


 赤くなった鼻を擦りながら、ポロフは俺を見つめる。

 俺の眼光は周囲に放たれていた。


「噂をすれば、なんとやらだ」


 気付けば、俺たちは濃い霧の中にあった。

 その奥から響いてくるのは、獰猛なうなり声だ。

 硬い地面を掻く音が、あちこちから聞こえてくる。


 それは大きな犬だった。

 逆立った毛と炎のように伸びた尻尾。

 耳は左右に広がり、牙は長く鋭く尖っている。

 ガルムと呼ぶそれは、レベル2に該当する魔物だった。


 赤黒い瞳を光らせ、威嚇するようにひたひたと距離を詰めてくる。

 数は14、5匹といったところか。

 レッドボアと違い、群で狩りをする魔物である。


「言ってる側から……」


 ポロフはごくりと息を飲む。

 マイアも立ちすくんでいた。


「2人とも落ち着け。付け焼き刃だが、連携は確認したはずだ。訓練を思い出せば、手こずる相手ではない」


 ラフィーナが2人を鼓舞する。

 そっと肩に手を置き、ポロフとマイアを安心させた。

 窮地にあってもラフィーナの言葉は穏やかだ。

 それが安心感に繋がったらしい。

 恐怖に揺れていた2人の瞳が、周りを囲むガルムに向けられる。

 それぞれの得物を手にし、ガルムと対峙した。


「来るぞ!!」


 俺はガラムの気配を読む。

 その瞬間、1匹のガルムが飛び出した。

 同時に他のガルムたちも追随する。

 四方八方から俺たちに襲いかかってきた。


「ポロフ! 今だ!!」


「うん!」


 ポロフは戦斧を掲げる。

 魔力を収束させると、呪文と共に魔法を起動した。


 【鉄壁(アイアンウォール)】!


 魔法光が弾ける。

 俺たちの周囲に光の壁がそびえ立った。

 光にひるみながらも、それでもガルムは襲いかかってくる。

 だが――。


『ぎゃひん!!』


 情けない鳴き声がダンジョンに響いた。

 光の壁に弾かれ、ガルムが吹き飛ばされたのだ。

 四方八方から襲いかかってきたガルムが、次々と光の壁にぶつかり、飛んでいく。

 その姿はもはや滑稽ですらあった。


「いいぞ、ポロフ!」


「へへ……」


 ラフィーナの称賛に、ポロフはペロリと舌を出す。

 盾役にポロフを抜擢したのは、正解だったらしい。

 光の壁を展開し、仲間をガルムたちの襲撃から守った。


 【鉄壁】は魔法でできた壁だが、その衝撃は魔法使用者に返ってくる。

 しかし、ポロフの身体が揺らぐことはない。

 それは家業の木こりの仕事を手伝っていたからだろう。


「怯んだぞ、ラフィーナ」


「よし! マイア、頼む。ポロフ、マイアとタイミングを合わせろよ」


「はい!」

「うん!」


 歯切れの良い返事がダンジョンに響く。

 同時にマイアは杖に魔力を込めた。

 突如、魔石に力が収束されていく。


「よし! 今だ!!」


 ラフィーナの声に合わせ、ポロフは魔法を切る。

 光の壁がなくなった次瞬、マイアが声を響かせた。


 【大火炎(ファイア・ブロード)】!!


 炎が周囲に放たれた。

 怯み、動きが鈍くなっていたガルムに襲いかかる。

 魔物たちはたちまち紅蓮に包まれ、大半が死滅した。


 残ったガルムは3匹――。

 もはや安全圏だ。

 俺とラフィーナは飛び出す。

 残ったガルムに襲いかかり、俺は2匹、ラフィーナは1匹を仕留める。


 戦闘は終わった。


 魔物を倒した証を拾う。

 これでレッドボア1体、ガルム15匹。

 他の貴族のペースがわからないから、安心はできないが、悪くない戦果だ。


「やったね、マイア」

「ラフィーナさんのおかげね」


 ポロフとマイアはハイタッチすると、そのままラフィーナとも手を叩いた。

 最初は恐る恐るといった感じのポロフとマイアの表情は、一転して明るくなる。

 この一戦で自信をつけたようだ。


「少し心配していたが、連携はうまくいったな、ブレイド」


 ラフィーナも俺にハイタッチを求める。

 俺はやや遠慮しがちに叩いた。

 あまりこういう馴れ合いには慣れていないのだ。


「俺は心配していなかった」


「ほう。仲間を信じていたのだな、ブレイドは」


 ラフィーナは柔和な笑みを見せた。


 俺からすれば当然の結果と言える。

 ポロフもマイアも、周りからは平民だ準男爵だと罵られているが、個々の能力は今魔物狩りに参加している新入生の中でもトップクラスだ。


 何故なら、彼らは入試で妨害を受けながらも、ミズヴァルド学院に入学できたからである。


 妨害を受けなければ、トップランクで学院に入学できただろう。

 本人たちは気付いていないようだが、実は隠れた実力者なのだ。


 連携もうまくいき、ポロフもマイアも自信を深めた。

 戦力は整ったと見ていい。

 戦果も上々だ。

 これなら魔物狩りで好成績を収めることもできるだろう。


 これが霧の向こうにいる見えない敵のおかげでもたらされた恩恵というのが、なんとも皮肉だがな。


 俺は密かに口角を上げるのだった。


準男爵たちの逆襲が始まる!

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