mission20 弟子、魔物狩りに出る(前編)
遅くなりました(。-人-。)
魔物狩りの日がやってきた。
集合場所には多くの学生たちが集まっている。
そのほとんどが新入生だ。
新品の武器防具を揃え、馬に乗る物もいる。
学校から提供されたものではない。
すべて自分の家から持ち出したのだろう。
魔物狩りはミズヴァルド学院の公開行事でもある。
皇帝宮内に居を構える貴族たちは、我が子の出立を祝福し集まってきていた。
「じゃーん! 見て見て!!」
やかましい擬音付きで騒いでいたのは、ポロフだ。
手にはごつい斧が握られている。
木を切るための斧ではない。
両刃の戦斧だった。
やや使い込んでいるようだが、刃の部分は綺麗に研がれて、まだまだ使えそうだ。
「カッコいいだろ! これならどんな魔物も倒せそうだよ」
ポロフは斧をぶんぶんと振り回す。
危ないことこの上ない。
だが、身体の軸は全くぶれていなかった。
ポロフの父親は木こりで、自身も家業を幼い頃から手伝っていたらしい。
そのため斧の使い方には慣れているようだ。
だが、その動作は木を切る時のものである。戦技という程のものではない。
しかし、身体の軸がぶれなく振るえていた。
それはつまりインパクトの際の力の分散が抑えられているということだ。
まだまだ木こりの切り方だが、魔物に対して十分強力な武器になるだろう。
それにポロフには他に役目があるしな。
「ポロフ、あまり乱暴に扱うなよ。それは戦斧だが、魔力を増大させるための増幅器の役割もあるんだからな」
「わかってるよ」
ポロフは戦斧の真ん中に付いた魔石を撫でる。
黄色い魔石は陽光を受けて、滑らかに輝いていた。
「でも、助かりました。3日じゃ装備は整わないんじゃないかって、思ってましたから」
杖型の増幅器を選んだマイアが、赤い魔石を撫でながら上機嫌だった。
どうやらマイアも気に入っているらしい。
戦いの前なのに笑顔が見えた。
「カーナック公爵夫人のおかげだな」
スラリとロングソードを鞘から抜いたのは、ラフィーナだ。
刃の状態を改めて見分する。
その柄には、同じく魔力を増大させる緑色の魔石がはめ込まれていた。
魔物を倒すには武器が必要だ。
魔法単体で倒すこともできるが、人間が保有できる魔力量には限度がある。
今回の魔物狩りは、単純に魔物を倒した数と、そのレベルに応じた質によって、成績が付けられることになっている。
魔力が切れて、何もできないでは良い点数は取れない。
魔法と武器をバランス良く使われる戦いが求められるのだ。
その武器だが、カーナック公爵夫人を通して、ダンネル大将から軍の備品を少し融通してもらった。
すでに使わなくなったような官給品の払い下げらしいのだが、俺の見立てではまだまだ使える。むしろ未熟な学生が使うには、高級品といえるだろう。
「まあ、まあ、勇ましいこと」
俺たちの前に現れたのは、ローゼマリー生徒会長だった。
その後ろには生徒会役員だろうか。
量産された生徒会長といったところか、どの生徒も準男爵の俺たちに向かって、嘲笑を浮かべていた。
「ローゼマリー? どうした? 今日は上等生が参加する魔物狩りの日ではないだろう」
ラフィーナが質問した途端、ローゼマリーの態度が豹変する。
先ほど浮かべていた嘲笑は一転し、眉間に深く皺を刻んだ。
大きく口を開け、罵倒を放とうとしたが、すぐに引っ込める。
扇子を開いて、また口元を隠したが、目は笑っていた。
「あら、ラフィーナちゃん。随分なご挨拶ね。折角、授業を抜けて激励しにきてあげたのに」
「そ、それはありがとう。素直に嬉しい」
「――――ッ!」
「どうした??」
「な、なんでもありません!」
苛立たしげにローゼマリーは返事する。
その反応に、ラフィーナはキョトンとしていた。
どうやらローゼマリーは、ラフィーナに何か恨みのようなものを抱いているようだ。一方、ラフィーナは何も思っていないらしい。
むしろ敵意を持たれていることを、不思議がっている様子だった。
まあ、元皇族と現皇族だ。
恨み辛みがあるのは、仕方ないことだろう。
「それより紹介しておくわ。……ダリ君、いらっしゃい」
会長の後ろから進み出てきたのは、目も身体も指先すら細い、痩躯の男だった。
細いといっても、ただ痩せているだけではない。
ちゃんと身体を絞り、筋肉もついている。
それなりの実力者なのだろう。
胸と肩周りを保護するライトアーマーを纏い、腰に細剣を差していた。
ダリ君と呼ばれた男は、恭しく一礼する。
「彼の名前はダリジア・ダン・カクテルズ。あなたたちと同じ新入生で、名前からわかると思うけど、あなたの1つ上の男爵位よ。だけど、とっても優秀だったから、生徒会に入ってもらったの。本当は伯爵以上じゃないと許可しないんだけどね」
「よろしく。お噂はかねがね聞いていますよ、ラフィーナさん」
「こちらこそよろしく頼む、ダリジア殿」
ダリジアから差し出してきた握手に、ラフィーナは気さくに応じた。
手を握ったままダリジアは鋭い視線を放つ。
そのままラフィーナに耳打ちする。
「爵位が1つしか違わないからって、調子に乗らないでくださいね。あなたたちは、平民。僕たちは男爵でも生粋の貴族なんですから。踏みつぶして差し上げますよ」
「それは楽しみだ。胸を貸していただこう、カクテルズ男爵家の子息殿」
相手からの先制攻撃に対して、ラフィーナは全く怯まない。
その深緑の瞳を強く光らせていた。
「じゃあ、またね。準男爵の皆さん」
ローゼマリーはヒラヒラと手を振る。
ダリジアと他の生徒会役員とともに去っていった。
生徒会長は激励といったが、なかなか過激な宣戦布告である。
「ねぇ。ラフィーナと会長って知り合いなの?」
ポロフは尋ねた。
それにマイアも追随する。
「入学式の時も、ラフィーナさんのことをすごく怒っているようでしたし。さっきも……」
相次ぐ同級生の疑問に、ラフィーナは沈黙した。
俺はその背中を押す。
「ラフィーナ、そろそろ話してもいいだろう。2人とも信用できる人間だ。それに、今ここで話していた方が、もしもの時に事情を話すよりはよっぽどいいタイミングだと思うが」
「…………わかった」
ラフィーナはついに観念するのだった。
続きは明日投稿します。
最近、こういう事が続いて申し訳ない。
他作品の原稿の推敲があって、こちらを書く時間が……。
度々こういう事が多くなるかと思いますが、ご容赦いただきますようよろしくお願いします。




