プロローグ
久しぶりの新作です。
面白かったら、是非ブクマと評価お願いします。
獣のような息づかいが、闇に響いた。
石畳がなだらかに左にカーブする廊下を、走っていたのは男だ。
私欲が詰まった太鼓腹に、厚手のガウン、指には金品が光っている。
男は貴族であり、その纏った物はすべて、民から巻き上げた税金だった。
その男が何かに怯えるように後ろを振り返る。
何もないことを確認した直後、目の前が広けた。
ダンスホールだ。
普段は華やかな音楽とともに紳士淑女が手を取り、踊る場所である。
だが、今は耳が痛くなるほどの静寂に包まれている。
窓からは薄暗い月光が射し込み、大理石でできた柱が巨大な氷柱のように見えた。
誰も追ってきてはない。
男はホッと息を吐いた直後、硬い革靴の音が聞こえた。
恐れおののき、男は逃げ場を探したが、生憎出口は1つ。
下働きが通る扉も、この時ばかりは施錠されてビクともしなかった。
「そこまでだな」
闇よりも暗い男の声が響く。
現れたのは黒いローブにスッポリと身を包んだ、巨躯の男であった。
ややとぼけた目にいささか迫力が欠けていたが、全身から漂う殺気は、貴族の男を恐れさせるには十分だ。
「だ、誰か! 衛兵! 衛兵はいないのか!!」
貴族の男は叫ぶ。
だが、生涯と徴税をかけた広い屋敷に虚しく響くのみだった。
「無駄よ……」
華やかな女の声が聞こえる。
黒ローブの男の背後から娼婦の恰好をしたエルフの女が現れた。
「衛兵は私の毒で死んでもらったわ、全員ね」
エルフの女は薬瓶を掲げ、蠱惑な笑みを浮かべる。
すると貴族の男はこの状況にありながら鼻の下を伸ばした。
危なく籠絡されそうになるが、気を取り直し、指差し吠える。
「貴様ら、暗殺者だな! だ、誰の差し金だ」
「暗殺者が依頼主のことを言うわけないだろ」
黒ローブの男は欠伸をかみ殺す。
今から殺す気満々と言った様子なのに、非常にリラックスしていた。
「ま、待て! な、ならばお前らの依頼料の倍とはいわん。10倍でどうだ? その金で私を見逃してくれ!!」
「あら。気前がいい。なかなか魅力的な提案ね」
「だ、だろ?」
「でもお断りよ。暗殺稼業は信用第一なの。金で依頼人を変えている内は、まだまだ二流よ」
黒ローブとエルフの女は迫ってくる。
貴族の男はかすれた声を上げたが、途端笑みに変わった。
「馬鹿め! 私を追いつめたと思ったら、大違いだぞ!!」
突然、ダンスホールが光る。
ドンッという轟音とともに床が弾け飛ぶと、巨大な影が煙の中から現れた。
「「ゴーレム!!」」
2名の暗殺者の言葉が重なる。
それは石の皮膚を持つ守護獣ゴーレムであった。
この世界の奇跡の御技『魔法』によって作られる魔法生物だ。
「ぐはははははは! 恐れ入ったか暗殺者。こんなこともあろうかと――」
貴族の男はふんぞり返る。
だが、最初こそ驚いた暗殺者の男女だが、その後激しく狼狽することもなく、ゴーレムを見上げていた。
やや不機嫌に顔を歪めると、戦場でありながら後ろを振り返る。
遅れて登場したのは、仲間らしい。
眼鏡をかけた優男風の男であった。
現れた第三の登場人物に、黒ローブの男が責めるように睨んだ。
「ゴーレムが屋敷にいるなんてオレは聞かされていないぞ。なあ、ラン」
隣の女に話しかける。
ランと声をかけられた女は憤然とした様子で腕を組んだ。
「全くだわ。どういうことか説明してもらいましょうか、コウ?」
眼鏡の男をコウと呼び、鋭い視線を送った。
そのコウは反省するようすもなく、肩を竦める。
「人間誰しも間違いはあります。そもそもムンがあの貴族の男を寝所で殺せなかったのが悪いのですよ」
逆にコウはムンに責任を押しつけた。
「いや……。このために特別に作った暗器を忘れてな。だがよ、そもそもあれはランが衛兵の制圧をミスって……。予定よりも早く寝所に衛兵がやってきたことが原因だろ」
「な! うちのせいにするつもり?」
ゴーレムを前にして、突然3人は喧嘩を始めた。
最強の守護獣ともいわれる魔法生物を前にして、余裕を見せる暗殺者たちに、貴族の男は鶏冠に来たらしい。
顔を赤くし、ゴーレムに命令する。
「やれ! ゴーレム」
ゴーレムは吠えると、巨体を揺るがし暗殺者に迫る。
その時であった。
暗殺者たちの横を小柄な老人が駆け抜けていく。
身体が灰色をした異様な老人である。
「まだ鼠がいたのか!」
貴族の男はゴーレムに指示を出す。
だが老人の動きはまさに鼠のように素早い。
緩慢なゴーレムには触れることさえ難しい。
一方、老人は何も持っていなかった。
まるで自分の身体を1発の弾丸に見立て、突っ込んでいく。
「馬鹿か! 硬いゴーレムの皮膚を素手で壊せるなど」
ゴンッ!!
瞬間、ゴーレムの巨躯に大きな風穴が空く。
魔法生物とて、それは明らかな致命傷であった。
そのままゴーレムは膝を突き、崩れ落ちる。
崩壊した魔法生物を背に、老人は何事もなく貴族に近づいていった。
万策尽きた貴族は、ただ後ろに下がるしかない。
500人以上いた衛兵も、ゴーレムもいない。
貴族の背中に寄り添うものは、ただ冷たいダンスホールの壁だけであった。
「ゴーレムを一撃……。貴様ら、一体――――ハッ! まさか貴様ら――」
サイズか……。
老人はトンと指先で貴族の胸を吐く。
途端、貴族は血を吐き始めた。
ゆらゆらと身体を揺らし、彷徨い歩き始める。
血の道をダンスホールに描く。
10秒の生は、10秒間の地獄となる。
苦しみながら、ついに貴族の男は倒れた。
「終いじゃ……。撤収するぞ、皆の者」
くるりと老人は振り返る。
だが、そこにあったのは仲間の姿ではない。
巨大な影ゴーレムであった。
まだ生きていたらしい。
老人は目を細める
トドメを刺そうと足を上げるが、その前にムンが動いていた。
服の下から小型の銃を取り出す。
ゴーレムの弱点であり、魔石を貫くと、ついにゴーレムは砂に変わった。
「詰めが甘いぞ、サイ」
ムンは笑うが、サイと言う老人は何も言わない。
ただじっと砂になったゴーレムの残骸を見つめ、ため息を吐くのだった。
◆◆◆◆◆◆
暗器、徒手、毒、爆破工作――様々な暗殺方法を用い、裏社会にすら名前が残らない謎の暗殺集団がいた。
その暗殺完遂率は10割。
まさに依頼したが最期、狙われた者は必ず命を刈り取られる運命にあり、まさしく現実世界に降臨した死神であった。
名はなく、依頼人は便宜上『サイズ』と呼称し、恐怖したという。
そのメンバーたちは、今潜伏場所である貧民街のあばら屋で、車座になって座っていた。
座の中心には1本の蝋燭がある。
それに向かって、暗器使いムン、毒殺専門のラン、情報収集・工作担当のコウ、そして徒手空拳のサイが座っていた。
重苦しいムードの中で、サイが口を開く。
「老いたな、我らも」
気付けば、暗殺者集団『サイズ』のメンバーも年寄りばかりになっていた。
一番若くてコウが69歳。サイに限って、108歳である。
長命なエルフ族のランは若く見えるが、それでも技のキレが年々衰えてきていた。
そんな時に、サイズに新たな依頼が舞い込む。
皇帝暗殺である。
長年が6種族が相争っていた六角戦争は終わり告げ、6種族は1つの国に統合された。
名は『ザイン帝国』。
そして世界に類を見ない大帝国を起こし、統一不可能と思われていた種族をまとめ上げた男が、“始皇帝”ベルヴァルド・ヴドゥ・オー・ザインであった。
「皇帝暗殺か……。これは厄介だな」
ムンは首を捻る。
ランもそれに同調した。
「厄介ってレベルじゃないわ。皇帝は、俗人では誰1人として入れない皇帝宮の奥――そのさらに奥にいるのよ」
コウも頷く。
「左様です。さらに皇帝はとても用心深い。そもそも皇帝宮に入ることができるのは、厳正に厳正を重ねて吟味した使用人か、貴族しか入ることができません。皇帝の寝室どころか、皇帝宮に入ることすら難しい」
コウの言葉に、4人の中で身体の大きいムンが項垂れる。
広い背中には絶望感が漂っていた。
そして顔を上げ、ムンは言う。
「そろそろ潮時だって時に、まさか皇帝暗殺とはな」
「いっそ帝国貴族たちに尻尾を振りますか? お抱えの暗殺者になれば、楽に皇帝宮に入ることができますよ」
「何を言ってるのよ、コウ!! うちらがこんなかび臭い場所で息を潜めているのも、うちらが全員あの壁の向こうから追放されたからでしょ? あなただって皇宮を牛耳る大宦官の1人だったんでしょうが!」
「わかってますわかってますから、ラン。人の過去を大声で言わないで下さい。照れるじゃないですか」
「……悪かったわ、ふん」
そして重い空気が帳のように落ちた。
珍しいことである。
4人が集えば、どんな命とて息の根を止められるはずだった。
しかし、今回の相手は今までとは違う。
若い頃なら、あるいは完遂できたかもしれない。
老練な知識はなくとも、体力と力だけでなんとかなった時代もあった。
しかし、今彼らにとっても最も縁遠いものになってしまった。
3人は同時にため息を漏らす。
若さがほしい……。
吐いた息の端から、そんな声が聞こえてきそうだった。
「…………」
ずっと横で話を聞くだけだったサイが立ち上がる。
小さな部屋を横切り、観音扉を派手に開け放った。
絹が風になびくような音が飛び込んでくる。
小雨が降っていた。
すでにあばら屋に影響は出ており、天井から雨漏りが滴っている。
サイは小さく息を吐いた。
空気を変えようと開け放ってはみたが、あいにくの天気だ。
吹き込んできた風の影響で、蝋燭の明かりがふと消える。
代わりに稲光が鈍重な雲の中を走り、同時に雨足が強くなってきた。
雷鳴を聞きながら、サイは呟く。
「若さを取り戻すなど不可能……。なら育てるしかあるまい」
サイは雷鳴が轟く中、歩き始めた。
ついに気が触れたのかと思ったがそうではない。
雨風の音に混じって、子どもの泣き声が聞こえてきたのだ。
4人は風雨にさらされながら、まるで声に誘われるように歩き出す。
やってきたのは貧民街の入口に近い、軒先であった。
元気の良い赤子である。
雷雨にも負けじと声を張り上げ、落ちてくる雨粒に挑むように拳を振り上げていた。くるまれた布を蹴ったおかげで肌が露出し、諸に雨粒を受けている。
「捨て子か……」
サイは呟く。
そこに同情も、憐憫もない。
貧民街ではさして珍しくないことだ。
だからなのか、風雨の中で子どもが精一杯泣いていても、誰も家から出てこようとはしない。
ここにいる連中はそれほど逼迫した生活を送っている。
親切なのは、野良犬ぐらいだろう。
「貴族の家の前にでも捨てりゃあ、もしかしたらお目こぼしがあったかもしれないってのに……」
ムンは頭を掻く。
深く頷いたランは腕を組み、「全くだ」と頷いた。
だが、コウは違う意見であった。
眼鏡を上げながら、自分も頭の中で整理しつつ言葉を吐き出す。
「仮にですが、貴族の家の前に置けない理由があったとすれば、どうでしょうか?」
「は?」
「え?」
ムンとランは同時に小首を傾げる。
一方、コウの意見を聞き、サイは口角を上げた。
「コウ、気付きおったか」
「最初から気付いておられたのですか、サイ」
「いや、この目を確認するまでは信じられなんだ」
サイは子どもを抱き上げる。
冷たい。長時間雨にさらされていたからだろう。
それでも赤子が泣き続ける。
助けろ、と4人の暗殺者に命令するかのように。
「この子をどうするんだい、サイ? まさか育てるとか言うんじゃないだろうね。やめときなって。泣き顔は不細工だし、そそられやしない。魔法印があれば、戦力として育てるのも悪くないけど……」
魔法印――それは、魔法を仕える血筋であることの証であり、貴族の門閥に連なるものであることを示す痣であった。
6種族が相争った六角戦争が終結し、始皇帝ベルヴァルドがまず行ったのが、魔法技術の独占であった。具体的には6種族から一旦魔法を取り上げ、ベルヴァルドに絶対忠誠を誓う貴族や諸侯に再分配したのである。
こうした政策によって、身分に置ける上下間の戦力差が生まれ、戦乱の芽を摘むことには成功したものの、代わりに貴族たちの専横を許す結果となってしまった。
皇帝が目を光らせる帝都はともかく、地方の領地ではひどい恐怖政治が行われており、こうしている今も領民たちは苦しい生活を強いられている。
皇帝暗殺という依頼も、そういった社会状況の中で生まれたのだろう。
「それで、どうするのですか、サイ?」
コウの質問に、サイは意を決するように顔を上げた。
「育てる」
「本当に? い、一応聞くけど、誰が? 言っておくけど、うちはもうおっぱいでないわよ」
即答したサイに驚きながら、ランは反射的に自分の胸を隠す。
ゴーレムを前にしても、眉1つ動かさなかったエルフ族の暗殺者が、目を剥いて驚いていた。
サイはおもむろに口を開く。
「むろん、我々がだ」
その言葉に一同は息を飲む。
一方、サイは赤子を天に向かって掲げる。
稲光が天を覆い、さらに雨足が強くなる中で、子どもは依然として自然の力に抗いを大きな声を張り上げていた。
雷光にさらされる子どもを見ながら、サイは不敵な笑みを浮かべる。
「この嬰児に、我々の暗殺術のすべて叩き込む。そして――――」
皇帝暗殺を完遂するのだ……。
暗く、不気味に、そして何より悪魔のように、その声は響き渡る。
これが後に、ブレイドと名付けられる子どもの始まりであった。
◆◆◆◆◆◆
15年後――。
1人の青年が、皇帝宮の城門をくぐり抜けるのを、サイたちは見送った。
鍛え上げ、練り上げられた広い背中には逞しさを感じる。
その身が翻り、手を振り返すこともなかったが、むしろそこに強い意志のようなものを感じずにはいられなかった。
「行ったな」
15年前より腰が傾いたサイが呟く。
その横で頷いたのは、15年分の年を取ったムン、ラン、コウの3人であった。
「これで毎朝の訓練がなくなると思うと、寂しい気がするがな」
「そう? 私は毎朝の朝食を考えなくてすんで、清々してるけど」
「毎日キャラ弁なるものを作っていたのは誰ですか、ラン? …………まあ、惜しむらくは、ブレイドの成長をもうこの目で見ることができないことでしょうか。彼はまだまだ伸びますよ」
ブレイドが向かったのは、広大な皇帝宮の一角にある学校だ。
ミズヴァルド学院といい、貴族の息子や娘が受け継いだ魔法の正しい使い方と、知識、はたまた貴族としての嗜みや教養を学ぶ学舎である。
言ってみれば、貴族の養成校だ。
この15年の間、民衆の不満を和らげるため、法律が改正された。
隔世遺伝等を理由に魔法印を持っている者ならば、貴族ではない平民であろうとも、試験に合格すればミズヴァルド学院入学が認められるようになったのである。
さらに学院を卒業すれば、男爵以上の爵位と領地を、皇帝から授与されることとなっていた。
その法律改正は、サイたちにとって渡りに舟であった。
ブレイドは魔法こそ使えるが、身分の保証が難しい平民だ。
しかし、その障害も取り払われた。
3代前が貴族であることを示す偽りの身分を引っさげ、試験をパスし、ブレイドは晴れてミズヴァルド学院に準男爵として、通うこととなった。
だが、ミズヴァルド学院は全寮制。
1度門をくぐれば、皇帝宮から出ること能わず、帰省も、たとえ親の死に目であろうと外に出ることは許されない。
つまり、次にブレイドと会うことできるのは、彼が貴族となった3年後であった。
「あやつには、我々のすべてを叩き込んだ。必ずや任務を完遂するであろう」
サイはホッと息を吐く。
珍しく安堵の息であった。
不意に目頭が熱くなる。
人の命を奪ってきた暗殺者であったが、やはり赤子から育てたブレイドには、特別な思い入れがあったらしい。
サイが振り返ると、すでに3人の目には涙が浮かんでいた。
ランなどは鼻の頭などを赤くしている。
拾った当初こそ得体の知れない赤子を嫌っていたエルフの女は、顔をぐしゃぐしゃにしながら大泣きしていた。
「皆、寂しいのじゃな」
やれやれとサイは首を振る。
しかし、そのサイの頬にも一条の光るものがあった。
瞼を閉じると、ブレイドとの日々がまざまざと蘇ってくる。
暗殺という殺伐とした家業を70年以上続けていたサイにとっては、あまりにかけ離れた日常であったが、悪くない年月ではあった。
だからといって、訓練において手を抜いたわけではない。
心を鬼にし、ブレイドに己の技を骨の髄にまで叩き込んだ。
おかげで雨に打たれるしかなかった幼子は、15歳にして、ここにいるどの暗殺者よりも優れた弟子となった。
皇帝宮に潜り込めさえすれば、ブレイドなら必ず皇帝の居所を突き止め、暗殺を完遂するであろう。
老人たちが咽び鳴く中、ふとサイは思い出し、顔を上げる。
「あ……。わし、皇帝暗殺の任務をブレイドに言うのを忘れておったわ」
いかんいかんと、はげ上がった頭をぺしぺしと叩く。
灰鼠族であるサイの禿頭は特別で、本来ある丸い耳を削いでいた。
体毛まで削ぎ落としているのは、人族になりすますためである。
身体が灰色なのはそのためだ。
そこまでして暗殺を完遂してきたサイだが、やはり寄る年波には勝てぬらしい。
恥を忍んで、他の暗殺者に尋ねた。
「貴様らの誰か、ブレイドに皇帝暗殺の依頼のことを話したか?」
「あー。どうだったかな。言ったような、言ってなかったような。まっ――オレはブレイドとやり合えばそれで良かったからなあ」
のんびりとしたムンの答えが返ってくる。
ちなみに「やり合えば」というのは、ムンにとって「殺し合う」ということと同じである。
ムンからすれば、ブレイドは可愛い弟子ではない。
ライバルなのだ。
一方で、いまだに鼻を啜るランは、涙で化粧が剥がれた顔をそのままにして、サイに訴えた。
「ば、バカぁ! う、うちからそんな残酷なこと言えるわけないでしょ。あんなに可愛いブレイドに暗殺させるなんて! うち、絶対許さないからね!!」
最後は絶叫する始末だ。
ランを見てドン引きしていたコウが、眼鏡を光らせる。
「サイ……。我々のリーダーはあなたです。そのあなたがしっかりしてもらわないと。ちなみにボクは何も言っていませんよ。皇帝暗殺は極秘任務……。外部に漏らしては一大事ですから」
ちゃっかり責任を押しつけようとする。
そのサイはカッと口を開いた。
落雷が落ちたように固まる。
あの日――ブレイドを拾った時の状況が蘇るようであった。
サイは3人の暗殺者を1人ずつ指差していく。
「ムンも、ランも、コウも話していない。このわしも――。なんということじゃ……。15年、手塩に育てたわしらの暗殺者が……。わしらの努力が…………。一体――一体…………」
ブレイドは一体、何をしに学校に行ったのじゃああああああ!!
サイの絶叫が虚しく響く。
それはまさに15年前、雷雨の中で声を上げていた赤子にそっくりであった。
しばらく毎日投稿の予定です。
※ 次話は1時間後に投稿予定です。