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ビーム屋さん

作者: たかはや扇

俺は叫んでしまう!

「ぬおおっ、こんな店があるのかあっ!!」


街を歩いていると、俺はなんと「ビーム屋」という看板を目にしたのだっ。

そうっ、俺はかねがね、指先からビームを出したいと願っていた!

何故かって? 愚問っ!

指先ビームは男の子のあこがれと決まっているだろう?!


これはっ、入らずにおくべきかっ!


俺はいきおいよくノレンをくぐる。

「おうオヤジっ、ビーム一丁くれっ」

「らっしゃいっ、ウチには活きのいいビームがそろってるよっ」


おおっとそこの君っ、いちいち会話の内容など些細な事を気にしているようではこの先成功などないぞおっ。人生は、ノリだあっ!

今は俺のノリに付き合ってくれた親父に、最大限の敬意を表そうっ!


なんとおっ、素晴らしいではないか、この店のスゴい指先ビームの品揃えっ、まさに匠の心意気。

モンスターを、悪魔を、おおっ、伝説の大怪獣まで一撃で倒せるビームもあるではないかっ!

「おっ、兄さんお目が高いねー、そいつぁ、一丁3000万円だぜっ」


安いっ!

俺は心の底から、叫んでしまうっ。

大怪獣を一撃で倒せるのならあっ、何と些細な、ハナクソな金額であるか!


俺は勢いこんで財布を取り出す。

もちろん、二つ折りなどではないっ、長財布に決まっている、ましてやマジックテープなど、論外っ!


ええい、持ってけドロボー!

財布ごと叩きつけようとして俺ははっとする。

なんとおっ、財布の中には赤銅色に輝く、「じうえん玉」しか無いではないかっ!

あぶない危ない、「持ってけドロボー」どころか、俺がドロボーになるところだった。


個人的経済状態をまったく失念していた、近年まれにみる痛恨のミスだ。

…ふ、しかしそんな事で人間の真の値打ちが、いささかでも揺らぐことなどないっ!


そう、ここで引き下がっては男の名折れ、俺は冷静な笑みを浮かべてネゴシエーションに入る事を決断する。

一発3000万円のビームを「じうえん玉」とバーターする、この困難なミッションに敢然と立ち向かうのだっ。


ふふ実は俺には切り札がある。

考えて見たまえ、俺ほどの男が、財布に「じうえん玉」しか入っていないことなど元来ならありえないだろう?

俺は知っているっ、昭和26年発行のレアもの「じうえん玉」が異様な高値を付けている事を!

いざあっ、勝負だっ!



…いま店を出る俺の指先には、豆電球が光を放っている。

見よ、どうだこの美しい輝きは!


昭和26年と平成26年の間違いなど、ほんのささいなミスはあったが…

俺はこの輝きを勝ち取ったのだあっ!

「じうえん玉」との別れは名残惜しいがっ、いつかまたどこかで会えるさっ。


背後ではビーム屋のオヤジが、おそらく塩化ナトリウムと思われる白い粉状の物質を散布している。

あれは彼固有の、喜びの儀式か何かなのだろうか?

いや、俺の将来を祝福しているに違いない、ありがとう、オヤジィッ…


しばらくうっとりとその輝きを愛でる、俺…。

しかしっ、何とおおっ!

ふと、この豆電球の光でいったい何を倒せるのだろう、という一抹の不安が俺の心をよぎるではないかっ…


ふふ、俺もまだまだだな…

肩をすくめて首を振る。

うむっ、人間の成長とは、このようなわずかな心の迷いを克服してこそ成し遂げられるのだな…


そう、いつかこの光が世界に希望をもたらす、その第一歩をいま俺は踏みしめつつあるのだっ!

世の人々よ、救世主の誕生を祝うのだ…、俺が悦に入って指をかざして歩いていると…


「ハーイ、おヒサぁー」

いきなり背後から、のーてんきな声が聞こえる!




「のうわぁっ!」俺は叫んでしまう!

い、いや、落ち着け俺。

そうあの声、あれは間違いなく、彼女だっ!

いくら『彼女』としての義務は髪の毛以下、要求のみ富士山より高い存在とは言え、俺の『彼女』に間違いはなぁいっ!


「なーにぃ、その指の先に光ってるのはー?」

俺が何にも言わないうちに彼女は遠慮の欠片もなく聞いてくる。

ふ、その容赦もなにも無い言葉が、君らしいぜ、惚れてしま…、

ほ、惚れ、ううっ、くっ、惚れにくい…、

い、いや、彼女はいつも俺の思考にイレギュラーを巻き起こすっ、そんな存在、シュレーディンガーの子猫ちゃんなのさ…


しかしっ今はっ、なぜだろう、彼女に「これは豆電球さ」と言うのを俺の本能が拒否しているっ。

いやっ何を迷う、俺は本能に忠実な男、スタイリッシュに嘘をつくことを瞬時に決意していたあっ。


「これはぁっ―」

俺は指先を天高く突き上げ、のち、顔の前でキザに左右に振る。

「光るラッキョウ、さっ」


決まったな、と思った俺の悦びなどそっちのけで、彼女の手が伸びてくる。

「えースゴーイ、ちょうだいっ」

光る豆電球はあっという間にその口の中へと収まってしまう。

彼女っ! そのためらいの無い行動力っ、まぶしいぜっ!

…その結果は、限りなく恐ろしいがな。

ガリッ、ボリッ… 「なぁに、コレ…、かみごたえ、ありすぎ―?!」

たちまち彼女の口元から紅い筋が流れてくる。


Chicken Skin Stand up、という言葉を君は知っているかっ?!

そう「鳥肌立つ」という意味さっ!

文字通り今俺はその心境っ!!

言っては何だが俺の彼女は、恩にはゴマ粒返し、恨みには百倍返しが身上だ。

俺は苦笑いを浮かべ、右手で顔を覆いながら天を仰ぎ叫ぶっ!

おお、俺は明日の朝日を拝められるのだろうかっ?!


やったっ、コレはいつになく見事に決まったぞっ。

彼女の右ストレートパンチが、俺の顔面に…

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