鏡の子。
「中村!!」
「うるせーよ。何?」
「中村って鏡見たことある?」
「…。」
沢岡は変な男の子です。
ぱーぷりんな頭をしています。
ぱーぷりん ってなんだろうと思うでしょうが、
これが彼を表すのに一番適当な言葉です。
彼の頭は異世界につながっている。
ひたすら常人では気にしなさそうな事ばかり気にかけ、
私に意見を求めるのです。
ある日は火星人の存在。
ある日はカツラの使用例。
今日は何でしょうか。
「中村?聞いてる?」
「…うん。あるよ。鏡位」
「マジで!?」
「うん。沢岡は見ないの?洗顔した後とか」
「そう!!そこだよ!!」
どこだよ。
「昨日顔洗ってたらさ、鏡あったの。前方に。んで、それが視界に入ったんだよ。
そうしたら、俺の顔べっちゃべちゃなわけ」
「洗顔したからね」
「そう。顔洗ったからなんだよ。だからべちゃべちゃなの。でもさ、だから!なんだよ!!」
「だからだから?」
「俺は顔洗ったからべちゃべちゃなの。そして、それを知っているから顔のべちゃべちゃ感も納得できるんだよ。わかる?」
「うん。べちゃべちゃだろうね」
「んで、更にコレ!」
「ニキビ?」
沢岡の左の頬あたりに小さなニキビ。
彼の細い指はそれを指していました。
…さっきからコイツ何してるんだろう。
ギャグかな。
否。目はマジだ。超真剣だ。
「これは、俺が鏡を見ないと発見は不可能だ。または痛みを発するか」
「気づかずに引っかくと痛いな」
「でしょ?このニキビも、顔のべちゃべちゃも、鏡を見ないとわからない。
でもさ、中村。君はどうして鏡を信頼できる?」
「・・・沢岡は鏡に信頼を求めているの?」
「俺が思うかは別だよ。でもさ、鏡が無いと自分の顔はわからない。
でも。その鏡が本物をうつしていると誰が保障できるのかな?
俺の顔を知っているのは、他人だけで、俺自身はわからないんだよ。
だって鏡は真実かどうかわからない。真実じゃないかもしれない。
俺は、まぁ正直なところ不細工でも作りが良いわけでもないと思うよ。
でもそれは俺が鏡を見てそう思っているだけで
本当は吐きたくなるくらいの不細工かもしれないし、
中村が性欲を抑えきれない程の魅力ある顔立ちかもしれない。
もしかしたら人の顔じゃないかも!宇宙人?人面犬?怖いな!」
「怖いね。」
人面犬は人の顔じゃないだろうか。
「あ!!中村は大丈夫だよ。すごく綺麗な顔の作りしてる。俺が保障するよ」
「こんな特徴の無い顔が好きなの?」
中村さん(私の顔)は綺麗ではありません。
整ってはいますが、整っているだけです。
瞳・鼻・眉・口等の形、大きさ
どれをとっても普通で、印象がありません。
何の特徴も、何にも、無い顔です。
「こんなって・・・中村。中村はあれだ。ミラーマジックにやられているよ!
中村が見ているのは中村の顔じゃない!偽者だ!!」
「ええ〜偽者言われたよ」
「そんなって表現する時点で中村はやられている!」
「ってかさっきから中村中村うるさいよ」
「中村さん」
「黙れ。」
「だってさぁ・・・中む・・・。お前はどうなの?
ってか俺はどうすればいい?鏡に信頼できなくなっちゃったよ。
ヤツと今まで通りに付き合うには時間が掛かるよ!
中村とデートする時にサイ●人みたいな髪だったらどうしよ!!」
「惚れる。」
「マジで!!!俺、サイ●人になろうかな!」
沢岡は変な男の子です。
変な男の子ですが、顔立ちはとても綺麗なのです。
(中途半端な私と違って)
男の子にしては大きな瞳。
少しぺちゃんとした鼻。
でも、彼は鏡との信頼関係が崩壊状態にあるので
今の顔を信用できないみたいです。
難儀だ。
「…沢岡。アタシにいい考えがあるよ」
「え。何?」
「とりあえず、鏡とは信頼関係が築けるように努めろ。」
「一度壊れた関係は戻りにくいよ!」
「時間かかってもいいから。信頼関係が元に戻るまで、
アタシがあんたの顔とか髪型見てあげるよ。これでいい?」
「マジ?!ならいいや。中村なら信用できる。ああよかった」
「軽いな。」
「うん。でもこれで安心だよ。ありがとう」
沢岡が顔をほころばせました。
ふわって笑顔。
大きな瞳は細められて
とても可愛らしい笑顔。
鏡にうつっていないから沢岡にはわからないだろう笑顔。
・・・あ、関係が崩壊しているからうつっても無意味か。
沢岡が信頼できない鏡のかわりにしばらく鏡をやることになりました。
沢岡が鏡と和解しても、
その笑顔が素敵だって事を理解しないだろうけど。
私が理解していればいいだけのことかもしれません。
だって私は
彼を判断する
彼の鏡。
私が実際思った事です。
鏡は真実か?
それを軽いノリでやってみました。




