第8話 ターニングポイント?魔封じの指輪!
「ねぇ、ミナ……」
「火炎弾!」
「へぶっ!!」
初級ダンジョンだからモンスターは弱いんだけど、何故だかやたらと数が多くて……倒しても倒してもキリがない。
とりあえずモンスターがウジャウジャと鬱陶しいので先に通路確保。まとめて吹っ飛ばして、固める作戦実行中。
さっきから一緒にウォルも吹っ飛んでる気もするんだけど……まぁ、弱いけど丈夫なところだけが取り柄だから大丈夫かな。
「だから魔王って……」
「よし、氷柱壁!」
「ごふっ!!!」
しまった。目論み通り、モンスターは固めて下に降りる通路は確保したけど、ウォルも一緒に固めちゃったわ。
大体、人の射程距離に入ってくる辺り、そもそも戦いに対する勘というか、センスがないのよね。
ま、いっか。
帰りに回収しよう。
私は洞窟の奥の隠し部屋を出現させるべく、突き当たりの壁の窪みにさっき、ウォルから取り上げたものと漁師から奪ってきた二つのキーストーンを躊躇なく嵌め込む。
ず、ず、ずーん、という地面が揺れる音とともに目の前の石壁に通路が出現した。
通路を進むと、突き当たりに祭壇のような物が見える。
ガラスケースに金色に輝く腕輪が入れられているようだ。
「どうせ居るんでしょ?さっさと出て来て。時間のムダよ」
私は祭壇の前に立つと腕を組んだ。
「やれやれ。なんと、情緒もへったくれもないな。我が想い人は」
魔王カーディナルのホログラムが現れる。
「シナリオ通り、やっぱり実体じゃないのね」
「まぁ、それほど今も不便はないが、一応ソイツに封じられているらしいからな」
目の前の金色の腕輪を魔王カーディナルは、特になんの感慨もなく指し示す。
「これ、魔封じの腕輪よね…」
魔封じの腕輪は本来なら、魔王城へ乗り込むために物語の中盤で手にいれるアイテム。
魔王がこちらの世界に現れるのを封じている有難い代物なのだが、長年洞窟に放置されて魔力も半減してしまったようだ。実体でなければこの超絶美貌の魔王は自由にこちらに出入りできてしまっているのが現状みたい。
まぁ、実体で干渉されるよりは、多少魔力が薄まる分マシなのかもしれないけど……。
この魔封じの腕輪はゲーム後半から結構重要で、魔王城の封印を解くのに必要なアイテムだったりする。
物語の後半は魔封じの腕輪の魔力を回復するべく、各地に散った魔石を勇者と集めて回るのが主要なストーリーなの。
魔石の場所は私は全て頭に入っているわ。だから、さっさと魔封じの腕輪を回収しようと思ったんだけど……。
「どうした。なぜ躊躇する。ミナミ?」
「いや、シナリオ通りじゃないから…」
私が引っかかってるのは、実はそこじゃないけど口には出さなかった。肝心なのは、ここで封印を解いた後、だと思うの。
「これだけシナリオ無視して、ストーリーをぶっちぎっておいてよく言うな。まぁ、我としてはあの極弱勇者どもとお前がイチャイチャするとイベントなんぞ、全く見たくはないが」
「あの子たちとイチャイチャするつもりなんてないわよ!」
「ふっ、我もみすみすアヤツらにお前を渡すつもりはないぞ」
「……」
「何を迷う、ミナミ?」
魔王カーディナルの妖しい紅い瞳が私に向けられた。
「ここの封印を解いたら、実体が出てくるんでしょ?」
「そうだが?でも我はお前以外の人間に興味はないぞ。人間どもを無闇やたら襲ったり支配したりなんて気は全くないな。勝手にやって来る勇者相手に遊ぶぐらいだ」
「……」
「ふふん、ミナミが我の実体に襲われるかどうかで悩んでるなら、当たりだな。
ただし、我が直接触るか、その辺の人間の身体を適当に使って触るかで結局ヤることは同じだ」
「……でしょうね。わかったわよっ」
私は嘆息して、金色の腕輪に手を伸ばした。
魔王を封じるだけあって、腕輪を掴んだ瞬間、それなりの魔力とビリビリとした抵抗感を感じる。
「実体化したら、遠慮なく倒させてもらうわ!」
私は自分の魔力で祭壇の封印を強引に引きちぎった。
この時は後で、あんなに後悔することになるとは思わなかったの……。