第7話 海辺の洞窟で勇者発見!
「疾風弾」
洞窟が崩れないように加減しながら、私は入り口すぐの小部屋を塞ぐ格子を切り裂いた。
「おーい、生きてるぅ?」
私は行き倒れてる茶色の短髪で長身の男をブーツの先でツンツンした。
「……お助けっ……!」
「わぁっ」
急に足首を捕まれて思わず、男を蹴り飛ばした。
男は壁際まで吹っ飛び、壁に勢いよく叩きつけられる。
べしゃっと床に崩れ落ちた若い男が
「ミナミ、あんまりだぁあ……」
と抗議の声をあげた。
「アハ。ごめん、つい」
こいつも勇者。
名前はウォルテール。通称ウォル。
はじまりの村の村長は、例の訳のわからん儀式をして勇者を毎週送り出しているんだけど、今週はアイルとオーカー。先週がアッシュとウォルだったはず。
アッシュが二人で行くのを怖がって村を出なかったから、ウォルがこないだ一人で洞窟に向かったのよねぇ。
シナリオ通りなら、村長に儀式の時に洞窟の奥の部屋のキーストーンを渡されて持っているはず。
この状況からすると、入り口すぐの小部屋で空の宝箱を見て、見事に罠に嵌まったみたい。
「……ミナミぃ、何か食い物……食い物をくれぇぇぇ!昨日からここに閉じ込められて、腹減って動けない……」
「アッシュのサンドイッチならあるわよ、食べる?」
「いただきますっ!」
ほふく前進で私に近寄ってきたウォルは、おやつ用に持ってきた昼食の残りのサンドイッチをガツガツ貪った。
口いっぱいに詰めこんで、必死の形相でかぶりつき、喉につまらせ……あら、喉につまらせたわね。
「うっぐ……!……!!」
真っ赤な顔してイケメン台無しだわ。
「……!!」
あら?何か顔色が青くなってきたみたい。そんな必死な顔で私を見ながらゴリラみたいに胸を叩かないで欲しいわ。
仕方ない。全く世話の焼ける……。
私は水筒をウォルに投げた。
「ぐおっ……げへっ……!こら、早く水ぐらいくれよぉ!」
涙目で私に恨み言をぶつけるウォル。
「ミナミ様、ありがとうございます、でしょ?」
私の手に光る魔法弾に気づいたウォルは縦に首を必死に振った。
「は、はい。ありがとうございますぅ……」
「よろしい。じゃ、ウォル。さっさと村長に渡された石を出して!」
「何で?」
「私が使うから」
「ミナミ姫ずりぃっ!財宝を独り占めする気かよっ!」
口の回りにパン屑を沢山くっつけて私を睨むウォル。
「誰がサンドイッチをやったと思ってるのかなぁ?」
「暴力反対……」
私の右手の火球が一段と大きくなったのを見て、ウォルはウエストのポケットからさっと石を出した。
「最初から素直に出せばいいのよ」
「俺のお宝がぁ……」
「だいたいねぇ、アイルもそんな事言ってたけどお宝なんかこの洞窟にはないわよ?」
「何でそんなことっ」
「勇者初心者用の最初のダンジョンだからに決まってるじゃない。ここの宝箱はせいぜい、薬草か毒消しかな。良くて皮の盾かしらね」
ウォルから取り上げた石を私は自分のアイテム袋に放り込む。
未練がましく、ウォルが呟く。
「金塊は?海賊の宝は?」
「そんなものあるわけないじゃないの。あってもせいぜい、海賊の骨じゃない?」
「うわぁぁっ……何だっ。モンスター!?」
「ハイハイ、雷鳴球!」
ウォルの背後から現れたクラゲのオバケのようなモンスターを私は一撃で吹っ飛ばす。
「この程度でピーピー言ってるなら、さっさと戻りなさいよ。外にアッシュ達がいる。私が戻るまでそこで待ってたらいいわ」
「宝もないのに、ミナミ姫は何しに行くんだ?やっぱりこの奥に宝が……?」
「あんたもしつこいわね。宝なんかないわよ。そんなに欲しがったら自分で探してらっしゃいな」
「じゃあ、何でわざわざこんな洞窟まで?」
「何でって?これから魔王に会いに行くのよ。あんたも来る?」
私は心底イヤな顔をしてウォルを振り返った。