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第65話 衝撃の事実!

「これ何?」

「何か問題が?」

 私の冷たい問いに、いつの間にか復活した元祖の支配人が首をかしげた。


「……とりあえず、全部臭いわね。生ゴミ?」

「ひどい! この芳香を生ゴミとは……」

 わざとらしく泣き崩れる本家の女将。


「どこが芳香なのよ! 単なる悪臭でしょうが」

 ヌカヅケーノとガーリックンまみれの土産袋を私は蹴飛ばした。


「土産はね、まずは美味しそうなパッケージが命! 旗や暖簾をあげて明るい売り場の雰囲気づくりと惜しみ無い試食でのPR! これがあるべき土産モノの姿よ」

「な、なるほど」

 私の勢いに押され、支配人も女将もコクコクと頷く。


 本当にわかってるのか? お前ら!


「だいたい、この商品ネーミング、なんとかならないの?」

「え? どこらへんですか?」

 ほら、やっぱりわかってない。


「『オヤジ靴下パイ』とか、『排水溝ラング・ド・シャ』……本気であんたたち、これを売る気あんの?」

「いや、話題性バッチリだと……」


「あと、この『オムツコッコの思い出』! やつらの使用済みオムツを詰めこんで、どうするつもり?」

「ぇ? それは当然、この未使用オムツをかぶり、使用済オムツを投げ合って楽しい旅の思い出作りの一ページをですな……」


「そんなわけあるかっ! 火炎壁(ファイヤーウォール)

「わぁぁぁ……!」

 私に土産品を消し炭にされ、ガックリと肩を落とす元祖の支配人。


「で、ではウチの新商品はいかがでしょう?」

 女将がとりだしてきたのは……ボードゲーム?

「へぇ、温泉地らしいじゃないの。部屋でまったり、クラシックなゲームをワイワイ楽しむのも悪くないわね」


「ありがとうございます。ではこの『がんばれ消臭源』をご覧下さいませ」

「なんかその商品名、聞いたことあるわね……」

 私は女将に差し出されたカードをつまんだ。


 ぶにっ!

 カード裏に加工された、におい玉の感触が堪らなく気持ち悪い。


「うぇっ!」

 私が放り出したカードがフォグルを直撃!

「……!!」

 あ、また悶絶してる。

 しかし、何の臭いだろ、コレ? 発酵したみたいな……おぇぇぇっ。


「これはフィールドに出されたカードをストーリーに沿って、スプレー状のフィギュアを用いて消臭するという斬新なゲームですの。

 思春期男子の部屋から、公衆トイレ、鶏糞、オヤジの加齢臭の染み付いた枕、ドリアンなどの様々な臭源を消していき、最後に見事消臭を成功させた者が勝者という──。

 こんなスリルとサスペンスに満ちたニュー感覚のゲームは他にはございませんわ!」

 本家の女将も頬を紅潮させ、興奮を隠せない様子で力説。


「……意味がわからんし、とにかく臭い。火炎壁(ファイヤーウォール)

「あぁぁぁ……私の渾身のフィギュアがぁ──」

 一瞬で燃え尽きるボードゲームを見て、女将はクタクタと地面に崩れ落ちた。



「しっかり! 負けたらダメだ」

 元祖の支配人が女将の手をしっかりと握って励ます。

「そ、そうね」

 お互い見つめあい、頬を染めてうつむく。


 だーかーら。

 仲良しだよね、君たち。

 てゆーか、両思い?



「ねぇねぇ、お姉さんたち。なんで、こんなにクサいもんばかりなの?」

 よく言ったアイル!

 そうよ! なぜ!?


「え? クサいのがなぜいけませんの? 無味無臭のものほど、味気ないものはございません。

 このような強い臭いのあるものこそ、究極のインパクト!絶対にお客様に強烈な印象を与えるに違いありません」

「うんうん」

 本家の女将の言葉に元祖の支配人が隣で力強く頷く。


 イヤ、そりゃインパクトは与えるだろうけど、絶対にリピーターはないよ。



「では、お客様。逆にお尋ねしますけど、では土産は何が良いと?」

 二人でまだ手を握りあったまま、私を見上げる。


「へ……? ええと。ふつーに温泉まんじゅうとか、せんべいで良いじゃない?」

 別に私も何も思いつかない。

 まぁ、変に奇をてらうより定番モノが人は貰っても安心するものよね。


「それでは当館の特色が……隣の本家に負けてしまうではないですか!」

 支配人がハッと気がついて女将の手を離す。

 おーい、女将が悲しそうだぞ? オヤジ?


「いや、臭くない方が勝つと思うけど。だって臭い宿には泊まりたくないもん」

 私の言葉に、温泉宿の従業員一同が驚きの声をあげる。

「「えぇっ!!」」


「まさかっ! それが近頃、当館に宿泊客が寄りつかない原因だと……?」

 顔面蒼白になった支配人と女将が再びガッシリと手を握りあう。


 ……本当に気がつかなかった、のか?

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