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第61話 幻の温泉宿を探せ!

「やめてぇぇっ!!」

「うぐぐっ」


 うっとおしいので「火炎壁(ファイヤーウォール)」で目の前のモンスターを吹っ飛ばそうとしたら、突如後ろから口を塞がれた。


「何すんのよ! アイル!!」

 その手をベリベリと引きはがす。

 振り返ると一見、天使のようなふわふわ金髪美少年は青筋をたててキレていた。


「ちょっと! こんな狭いところでそんなものぶっ放したら、僕たちまで丸焼けじゃないのさ!」

「あら、コンガリして良いじゃない」

「良くないっ!」

「ちっ」


 私は舌打ちをすると普通に剣を振り回して、襲いかかってくるスライム達を打ち払う。


 そして、こっそり詠唱。

火炎球(ファイヤーボール)


 ドムッ!



 ダンジョンの行く手に固まっていたモンスターがまとめて吹っ飛んだ。


 ついでに私についてきた勇者たちも吹っ飛んだ。


「「「ミーナーミぃ!!」」」

 アイル以外にも数人、飛ばされたようだけど気にしない。


 あぁ、スッキリした。


「しかし、なかなか出てこないな」

 私の隣に立つ、長身の男がうんざりして言った。

「フォグルも探してよ」

「ずっと探してるが、今の爆煙で辿(たど)れなくなったんだが……」

「えー、役に立たないわねぇ」

「……誰のせいだ、誰の!」

 フォグルはフンッとそっぽを向いた。ピョコン、とサラサラの銀髪からちょこんとのぞく三角のケモミミが──可愛い。


 彼、フォグルはフェンリス・ウォルフ。

 獣人である。彼の主人たる魔王カーディナルに命じられて私にイヤイヤついてきた、らしい。


 そんなに昼寝したかったらついてこなくてもいいのに。

 ……カーディナルが余程怖いのだろう。



「まぁ、アイツの話が正しければここらに出て来るはずなのよね……」

 私はため息をついて、ダンジョンの薄暗いフロアを見回した。



 ──今回のこのダンジョン探索の目的。

 それは、ダンジョンに突然現れるという幻の温泉宿を探すこと。


 意味不明でしょ? 私もそう思うわ。


 先日、このキャクタス・シティ、領主の一人娘フロスティ=グローカスが持つ指輪──魔封じの指輪を狙って私はイケメン好きのフロスティをおびきよせた。


 ウチの役立たず勇者達を「いけめーんず」というユニットに仕立て、大規模イベントを仕掛けたのだ。


 金儲けとイベントクリアを兼ねた私、ミナミ=シライシ渾身の一攫千金計画である。


 コンサート後、握手会イベントにノコノコと現れたフロスティに指輪のありかを問い詰めたところ──このダンジョンに出る温泉宿の貸し金庫の中に忘れてきたって、あの女、シャアシャアと言いやがったのよ~!!


 仮にもグローカス家の家宝でしょ? 忘れ物なんてする~?


 アイツの忘れ物を私が取りに行くなんて! そんな面倒なことはしたくない。

 ──そんなの誰かに取りに行ってもらって、私はゴロゴロして待つだけが良いに決まってるじゃないの!



 でもね、この世界では一応聖女姫らしい私。

 ちゃんとアイテム探さないと、クルのよ。アレ、アレがきちゃうの~!!



 何って?


 腹痛よ! 延々に続く下痢地獄!!

 探すのやめてゴロゴロした日には、ピーピーゴロゴロ……〈以下自主規制〉


 このウォシュレットのない世界でそれがどれだけツラいことかわかる? あぁん?

 ゴロゴロしたら、お腹がゴロゴロって……洒落にならないのよっ!



 というわけで、私は久しぶりにダンジョンに潜って温泉宿を探すはめになったってわけ。


 ほら、とっとと出てこーい! 温泉宿っ!

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