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第60話 いけめーんず参上!

夜の公園は異様な熱気に包まれていた。


真新しい広場ステージの周囲には警備員が配属され、若い女性の群れが黄色い声をあげながら長蛇の列をつくっている。


いったいこれから何が行われようというのか。


「……うん。突貫工事のわりにはまぁまぁの仕上がりね」

広場の隣にそびえる給水塔のてっぺんで、私は満足そうに地上を見下ろした。


昨日までうっそうとした森だった場所には、きらびやかに飾られたテントや広大なイベントステージが広がっている。


キャクタス・シティを一望できるこの給水塔は、見張りの警備員すらいない無人の塔であった。

領主の居城であるグローカス城近くだというのに、なんとも無用心なのはこの街が平和な証だろう。領主のグローカス家はこの辺りではそこそこ名の知れた名君だ。



「さて……そろそろ頃合いかな?」

私はそう呟くと広場の上空にむかって一発、呪文をぶっぱなした。

星光球(スターライトボール)


花火がひらくような爆音とともに、キラキラとした光の粉が夜空を彩り、線を描きながら地上へと降り注ぐ。


──そう。

これから特設ステージで「いけめーんず」という、ネーミングセンスの欠片も感じられない団体のステージがはじまろうとしていたのだ。


というと、何だか私が顔だけが取り柄の勇者たちを使って金儲けをしようとしているようにみえるけど、別段そういうわけではない。


たぶん。


いや、ちょっと路銀を稼ぎたいという思いはあるけど。

ちょっと、いや……だいぶか。



──ここでそれを追及するのは、やめよう。


ええと、これはれっきとした魔王城へ向かうためのシナリオ攻略なのだから。


……まぁ、魔王はついてきちゃってるけど。

細かいことは気にしてはいけない。



空中浮遊(エア・ボーン )──」

夜の空へと舞い上がり、さっきキラキラ呪文をぶちこんだ観客席の前方をのぞきこむ。


「あれ、かな……?」

私は群衆の中で一際目立つ銀色と黒のカタマリを見つけた。


「あぁ、やっぱり出てきたわね。フロスティ……」


プラチナブロンド(銀髪)のさらさらロングヘア。端正な顔立ち、筆で書いたような凛々しい眉。

趣味の悪いヒラヒラとしたレースに縁取られた黒いドレスに大柄な身をつつみ、無表情に座っている女こそ、イケメンをこよなく愛でるフロスティ・グローカス。

この街を治める領主の世継ぎ姫だ。


「うーん……」

シナリオ通りなら、フロスティこそが魔封じの指輪の持ち主のはず。


このステージでフロスティが勇者ズの誰かを気に入ってくれたらなぁ、というのが本日の私の目論みでもある。

勇者と引き換えに指輪をゲット出来れば安いものだ。一人でも、何なら束でセットにして差し上げても構わない。


「うまく誰かを気に入ってくれるといいんだけど……」

昇ってきた時と同じように浮遊(レビテーション)をかけたまま、私はスルスルと地上に降り立った。



ステージ上では嫌がってたわりにアイルとアッシュがノリノリでボーイソプラノを炸裂させている。

弟キャラのアッシュと、容姿だけは天使のようなアイルのコンビは我ながら、良いチョイスだったと思う。


何でも器用にこなすレドがキーボードを弾き、エアギターとエアベースのフェズとウォルがステージ上を派手に動き回って、女の子たちに投げキッスをひたすら振りまく。


その後ろでは舞台の両端で銅像のように立ち尽くす、上半身を露出させたロンサールとオーカー。


「まぁ、あの二人は筋肉見本かぁ。仕方ないわね……」

先ほど勇者ズ自身に売り込ませたチケットは完売。客の入り、反応も上々のようだ。


「グフフフ……」

頭の中で、反射的にソロバンをはじいてしまった私は一人不気味な笑みをもらしつつ、ステージ後半を見守ったのだった。

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