第56話 伏せ字の丘の策略!
「……うっ……」
真っ白な細長い花弁を持つ背の低い植物で覆われた丘に降り立った私は、両手で鼻を押さえた。
「だににょ、ごえ?」
「やだぁ!くっさー!!」
アイルは大声をあげて馬車の中にあわてて引っ込んだ。
……鼻の効きすぎるフォグルは……ドアを開けた瞬間に白目をむいて失神していた。
この馬車、断熱防音のエアコン要らずの優れものなのよね。
これで防臭もしっかりされていることが証明されたわ……っていうてる場合!?
「うぅ……これって……銀杏とか、栗の花の臭いよね?」
あたしは、馬車に駆け込んでしっかりと扉をしめると深く息をついた。
「……せー○きの臭いだよな……」
フェズがボソリと呟いた。
おのれ!私が折角、黙っていたのに。
その伏せ字を言うんじゃな~い!
「全く。思春期ニキビ男子が集団で一晩中、ティッシュを撒き散らしたとしても、こんな酷い臭いにはならないわよ……」
「ミナミ、それどんな偏見だ?」
フェズが不思議そうに聞いてきた。
私の例えは、異世界人には通じなかったようだ。
「可哀想に。真面目に勉強している思春期男子に謝りなよ……ぜったい、僕は量とか溜まり具合は成人男子の方が凄いと思うよ~」
「……」
アイルの言葉に肯定するように頷くロンサール。
ん?ひょっとして。
この世界はエロ本とか、AVはないのかな?
……じゃ、彼女が居ないこいつらは何をオカズにしてるんだろう……。
「ん~まぁ、一回でも娼館やクラブに連れてって良い思いをさせてやれば、ミナミの言うように若い方が想像力だけで一晩中抜けるかもな?」
ありがとうフェズ。
この世界は想像力頼みなのね……?
「えー、でも本や姿絵でもいけるんじゃない?」
「……あれは絵師の腕と好みだからなぁ。俺はイマイチ。姿絵よりもやっぱり本物だよなぁ」
「まぁ、フェズはその気になれば触りたい放題だじゃんか。そういえば、ヴェスタ王国ってあの有名な絵師がいるんだよね?」
「あ~!あのエロ画の第一人者!」
なんだかアイルとフェズが盛り上がってる。サラリーマンの飲み会か!
って、そんなこの世界のエロ本事情をのんびり聞いている場合じゃなかったわ~!
「そんなことより!どうしてこんなクサイ丘が観光名所なのかしらね」
「オカシイよな。せー○きの丘だもんなぁ」
フェズがしみじみと言った。
「正確に言うと、せー○きと足の裏の臭いが混じったみたいな刺激臭だ……」
臭いの衝撃から復活したフォグルが嫌そうに言った。
「疲れたオヤジの靴下とせー○きを混ぜた臭いかぁ……」
「アイル、やめなさい。想像力をそんなモノでムダ使いしたくないわ……」
私はげんなりして言った。
「それにしても、誰もまだチャレンジ成功者がいない、っていうのはこういう訳だったのね……」
私は深々と息を吐き出した。
「息をしようとすると悪臭にまみれるしな。ここで爽やかにキス出来るヤツは嗅覚がぶっ壊れてるか、鼻が詰まってるのか……そっか。鼻にティッシュ詰めてキスするのはどう?」
ティッシュをまるめてみせるフェズ。
あ、それ鼻血の時に詰めるヤツね?
でも、そんな鼻にティッシュを詰めた男女のポスターってどうなの?
……そんなの恥をさらすだけでしょ!
「却下」
私の冷たい言葉にロンサールがあからさまにホッとした顔をする。
自分の鼻にティッシュを詰められると思ったのだろう。
それは、私もやりたくないわ!
「だけどさぁ、今回は僕たちもまんまとギルドの策略にのせられちゃったってことだね。参加費詐欺?」
そう。
アイルの言うとおり、私。参加費500Gも払っちゃったのよ。後で77777G貰えるなら良いかと思って。
……ぐぬぬぬ……ギルドのあの中年オヤジめ!許せん!!
意地でも77777G払わせてやるわよ。
うふふふ……。
「あ、ミナミがまた、なんか悪いこと考えてる……」アイル。
「うぇっ、あのカオ。ヤバいやつだって。俺は絶対巻き込まれたくないぞ」フェズ。
「どうせ、ギルドに御礼参りとかロクなもんじゃなさそうだな……」フォグル。
「……」ロンサール。
三勇者+獣人は、目の前の聖女姫からもれてくるどす黒い笑いに震えあがったのだった。




