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第55話 百合桜の丘へGO!

「ーーで?結局そのkissフォトコンテストに応募してきちゃったからこうなった、と」

ギルドに申請に行った翌日のこと。


百合桜が綺麗に咲いている丘の撮影スポットに向かう馬車の中で、アイルは無表情に言った。

「だって!77777G(ゴールド)よ?何日分の食費だと思う?……だから協力してくれたら、あんたの好きな服とか買ってあげるってば」

……賞金がハッキリ言って破格だった。だいたいランチ一回50G(ゴールド)がこの辺りの相場なのである。

これだけG(ゴールド)が手に入れば暫くご飯の心配をしないで済むのは間違いない。


これは何がなんでも、コンテストで優勝をして一位をゲットするしかないじゃない……。

キャクタス・シティの観光地でもある百合桜の丘で撮影するとボーナスポイントが加算されるらしい。磐石の体制で一位を狙うからには、ここへ行かざるを得ない。


とゆーわけで。

百合桜の丘に私逹はわざわざkiss写真を取りに来たのだった。



「えっ!マジ?新しいマントとかブーツとか買ってもいいの?」

私の言葉にアイルが期待に目を輝かせた。

「どっちか一つにしてね?」

「……わかった。じゃ、ブーツ!約束だよ」

「ハイハイ。じゃ、さっさとロンサールの夫役の衣装を頼むわよ。さすがに突っ立ってるだけじゃダメよねぇ……演技指導も要るかしら?」

いつものように目をつむって馬車の隅で黙って座っているロンサールに、私は視線を向けた。


……また寝てるわね。あれ。


「それなら、僕のほうが適任じゃない?」

「フェズ!」

御者台に座っていたフェズが振り返った。


「舌の使い方とか、手の使い方とか……色々実地で教えてあげるよ」

馬を止めて休憩させていたこともあり、顔を近づけてきたフェズに私は回し蹴りをかました。


「……へぶっ……!」

フェズが床に転がる。

お尻にしてあげたから、顔は傷つかないわ。


「いらないわよ。AV撮影に行くんじゃないんだから。あんたは予定通りカメラ係!」

「えー、つまんなぁい。どうせなら、ぐっちょんぐっちょんにやっちゃったほうが面白いじゃんか~!」

アイルが不満の声をあげる。


「何がぐっちょんぐっちょんよ。爽やかにしないとGが貰えないでしょ!とにかく金、金よ!金のためにあんたたちの空っぽの頭を限界まで絞りなさい。アイルは衣装メイク係なんだから、最低限の予算でさっさとロンサールを爽やかキャラに仕立てないと、ご褒美あげないわよ」

「ふぁい」

ご褒美という言葉につられて、アイルが半分寝ているロンサールの髪にワックスを塗りはじめた。

フェズもすごすごと蹴られた尻を撫で、御者台に戻っていく。


「うわぁ、相変わらずゲスい台詞吐くなぁ……うちの聖女姫は」

「なんか文句あるの?」

「いんや……」

隅っこで踞っていたフォグルが片目を開けて言った。


「うふふ、77777Gゲット出来なかったら何しようかなぁ……腹いせに役立たずには釘を刺してみたり、針金で吊り上げたり、ドラム缶に入れてコンクリート流してその辺に沈めちゃったりしてみようかなぁ……」

思わず、口に出してしまった私の素敵なプランを聞いて震え上がるアイル。


「ねぇ、ワンちゃん。……ミナミの目、据わってるよね……?ボク、ご褒美に釣られてついて来るんじゃなかったよぉ!」

「同感だな。俺も残りたかったぞ……」

フォグルはカーディナルの命令で私に嫌々ついてきている。彼は車酔いするタチらしく、馬車移動が苦手だ。さぞかし宿で寝ていたかったことだろう。



そう。

残りの勇者逹は「便利屋ミナミ」の仕事でキャクタス・シティの宿に残っていた。


レドはペットの散歩。アッシュは飲食店のヘルプ、オーカーは建築現場の資材運び、ウォルは三流グルメ雑誌のモニターと、便利屋ミナミはなかなか適材適所な滑り出しで人材を派遣できていた。


「しかし、カーディナル様まで売りとばすとはミナミも本当に悪どい……」

あ、そうそう。街の芸能スカウトに声をかけられたカーディナルを、そこの社長に売り渡してきたのだった。

うん、なかなかよい金になったわ。


「一時間我慢したら、適当に暴れて戻ってきて良いよと言ってあるんだけど」

あら?まだ戻ってなかったのかしら……。

あともう一社、行って欲しいんだけどな。


「もうとっくに戻られましたよ。なんだかプライドがキズついたみたいで、宿でふて寝されてます」

フォグルは今朝の主の哀れな姿を思い出して苦笑した。


「まぁ、魔王のクセにナイーブねぇ……」

「ミナミのキス一つで人間にやりたい放題にされるのは割りにあわない、とおっしゃっておられましたよ……」

「ちっ、ケチねぇ……」

その様子だと、もう一つのプロダクションはダメっぽいわね。キャンセル入れなきゃ。


「カーディナル様にそんなことを言うのはミナミぐらいですよ」

フォグルはため息を吐いた。


「ハイハイ。どうやら目的地に着いたみたいよ?」

窓から馬車の外をのぞくと、そこには銀世界ならぬ真っ白な花の世界が広がっていた。

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