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第53話 選ばれたのは?

ここはキャクタス・シティ。


ヴェスタ王国の東端、グローカス領主が治めるこの街は他国との交易などで交通の要所として栄える城下町である。


日中は通りや広場でバザールが開かれ、屋台やら露店がところ狭しと店がひしめき合っている。

大道芸やら、趣味の演奏やら催しも活発に行われている賑やかな街。


が、陽が沈むこの時間になると、街はみちがえるように活気を失う。そそくさとテントをたたみ、店じまいをする商人たち。人がまばらになってきた城へ通じる大通りを私たちを乗せた馬車はユルユルと進んでいた。


城の近くになると、大きな石造りや煉瓦作りの丈夫そうな建物が増えてくる。公共施設や役所といった類いはおおよそ、城の回りにあるのがセオリー。


街に入る前にすでに簡易の許可証を発行してもらったけど、形式的にこの街で商売するためにはギルドに承認してもらわねばならないのよね。


いや、私的には闇商売でも良いんだけど、大所帯になってきたし、ダメンズ勇者達に少しでも金を生み出してもらおうという目論みが……。

どちらにしろ、イベントクリアという目的もあるし、路銀が稼げるなら少しでも稼いでおかないと!


しかし気がつくと、もうこんなに影が長くなる時間。生け贄クジ……もとい、私の相手役を決めるだけで半日近くも費やしてしまったらしい。


……逃げ出す勇者をふんじばったり、気絶した者の頬を張り飛ばして強制的に覚醒させたりするのに意外に手間取ったのよね。

……アイツら、素直に応じればいいものを。

本当に無駄な足掻きをするから疲れたわ……。



「なぁ、ミナミ。わざわざ俺達全員にクジをひかす意味ってあったのか?」

頬を盛大に腫らしたフェズが言った。おたふく風邪のようになって、自慢の甘いマスクが台無しだ。


「うむ。我が攻撃して生き残った者でも、死体でも何でも良かったではないか」

カーディナルが興味なさそうに言った。自分は相手役から真っ先に却下されたので、彼はトコトン誰がやろうと興味はない。


確かに。

死体では無理だが、このクジ結果なら人形か張りぼてでも良かった、と正直私も思ったわよ~!


「自分で選べないんだから仕方ないでしょ。あんた魔王なんだからあの制約の症状、何とかならないの?カーディナル……」

私は小声で呟いた。


「あぁ、この世界の摂理とやらか。それは我にも曲げることはできん。早く適当に片づけてこい」

魔王は他人事のように言った。

「うぅっ……、やっぱり抜け道ないの?」

私は肩を落とした。

ちょっと期待してたのに……。


実はこの世界には、適当過ぎるシナリオのクセに、微妙なゲームの強制力というものが存在している。

登場人物は全くシナリオ通りに進んでいる様子がないクセに、私がストーリーをすっ飛ばしてシナリオ外の道を行こうとすると姑息な手で妨害してきやがるのだ。


例えば、このキャクタスシティをスルーして進もうとすると……間違いなく、私は激しい下痢や頭痛に襲われることになる、というような。


このウォシュレットもない世界のトイレにずっと足止めされる辛さったらないわよ?


勇者を置いて、一人でシーモス山を越えようとした時も、ディケムの手前の村で本当にエラい悲惨な目にあったわ。

ちなみに、コーラルリーフでこっそり一人で離脱しようとした時も同じ出来事が……!


クッソぉぉっ!

もうちょいマシな方法で制約つければ良いのに……。

聖女が下痢ピーって、どんなゲームよ。


ただでさえ、ウチにはゲロキメラが居るっていうのに!お下劣極まりないわ!


あぁ、うっかり激昂して「くっそぉ」とか言っちゃったじゃないの。

クソもゲロも、もう沢山よ!


はぁ。


さて、着いた。着いた。


覚悟を決めて行くしかないわ。

「じゃ、行ってくるから。宿で待ってて」


キャクタス・シティギルド本部。


馬車から私とロンサールを降ろすと、レドは爽やかな笑顔で手を振って見送ってくれた。その頬が真っ赤に腫れてたのが、惜しいわね……。



「じゃ、打ち合わせ通りにしてよ」

私は頭一つデカい、隣に突っ立っている大男を見上げて言った。

ロンサールは相変わらず、何を考えているのかわからない表情で頷く。その金色の瞳はボンヤリしたまま、むっつり口許は引き結ばれている。


商人の命、愛想の欠片もない。

……クジをひいたのは、まさかのこのロンサールだったのだ。


まぁ、考えようによっては余分なことを言ったりする心配はないのかもしれないが……。


発見した時は赤黒いボロ布のようだった埃臭いロンサールのマントはアイルの見立てで、すっきりとした上等そうなものに新調されている。

が、どう見てもそのがっちりとした巨躯は戦士にしか見えず、ふれこみにあるような商人とは程遠い。


そして隣に佇むのは、アイルに着せられた街娘風のドレス、ハーフアップの髪にこの街での流行りだという派手な髪飾りを刺しまくった私。


せいぜい護衛と成金のお嬢様ぐらいにしか見えないことだろう。


「ま、なんとかするしかないでしょーよ」

私は、目の前のギルド本部の分厚い扉をヤケクソで気味にドンドンと叩いたのだった。

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