第52:話 ラブイベントの候補は？
……しーん……。
私とは、誰一人視線を合わせようとしない勇者ズ。
「……あんた達ねぇ！一人ぐらい名乗り出なさいよ。誰に飯を食わせてもらってると思うのよっ！」
「だってぇ、そんなの罰ゲームじゃん！」アイル。
「途中でボコられて置いていかれそう」フェズ。
「以下同文」オーカー。
「そんな大役、自信がありません……」レド。
「僕も～」アッシュ。
「絶対無理！」ウォル。
「……」ロンサール。
「「「ミナミと夫婦なんて、怖すぎる！」」」
……おやまぁ、勇者さん達。息のあった見事なハモりですこと！
これがハーレムゲームでヒロインの相手役をつとめるキャラ達のセリフなんだから、笑えるわ～。
ちっ、一人ぐらい、喜んで手を挙げてこいや！こらぁ！！
「まぁ夫役なら我で良いではないか、ミナミ」
半ギレの私に背後から抱きついてきたのは魔王カーディナル。
「あんたは勇者じゃないから無理……」
「そんなもの、適当に誤魔化せばよかろう？」
「あのね。勇者イベント起きないと魔王城へは行けないの！一応シナリオ制約は適当にあるみたいだから、邪魔しないでっ」
私に冷たく腕を外され、魔王は爽やかに物騒なことを呟いた。
「フン、面倒な。ならばこの街ごと消し飛ばしてやろうか……」
「だから、消したら進まないってばさ！」
私は手元の書き損じた書類を、勢いよくゴミ箱に投げ込んだ。
「ねぇねぇ、ミナミぃ。このダッサい、あなたの町の便利屋さん、っていう名称、何とかならないの？センスの欠片もないんだよねぇ……」
アイルが私が今、必死に書き上げた申請書を覗きこんで文句を垂れた。
なんでこんなものを私が書いているのかというと、テラローザで手に入れたこのデカい馬車の登録が商業用だったためである。
次の町に馬車で入るためには商売をしてることにしないと馬車ごと入れないらしく、私は必死で必要な書類をでっち上げ……もとい、作成していたのだった。
「うっさいわね。取り柄も特技もないあんた達にはピッタリでしょーが！」
「やっぱりコレ、僕らがやるの？」
アッシュが嫌な顔をしてこっちを向いた。
「そうよ！あんた達は客の言われた通り、床磨きでもシモの始末でもポチの散歩でも、とにかく何でもやればいいのよ！客の要望なら好きなだけ触って下さいでも、最終的には身体を売っても何でも良いわ！
ただし、取り分は10ゼロよ。もちろん、私が10！オーッホッホッホ……」
「これさぁ、本当にリアルに悪役のセリフだよな……」
ヤケクソで高笑いをする私を見て、ウォルがぼやく。
「……じゃあ、あんた達に何かできることあるの？言ってごらんなさいな？」
私は勇者ズを睨むように見回した。
私の迫力に押され、勇者達は一人ずつプレゼンタイム。
「僕は……料理かな」アッシュ。
「女の子と遊ぶことだね♪酒場で情報聞いてきてやるよ」フェズ。
「食う、寝る、そして腹が減ったら、また食いまくる。特技は名物食い倒れか？」ウォル。
「……特技って何だ？旨いのか？」オーカー。
「動物の世話ですかね」レド。
「買い物かなぁ。ミナミぃお金ちょーだい」アイル
「……」ロンサール。
「……そこのほんわか兄弟以外、あんたたち、役に立つことがあるんかい！！」
「まぁまぁ、社長。血圧あがりまっせ」
ウォルの宥め？に余計に頭に血がのぼる私。
「誰が社長よぉ！」
怒りでワナワナしている私に気づかず、言いたい放題の勇者ズ。
「うん、社長っていうより、ヤリ手ババ？」アイル。
「あ～、哀れな俺達を娼館で管理するみたいな？ある晴れた昼下がりに子牛のように……鬼畜なやり手ババァのミナミに俺達は売られて行くんだ……」ウォル。
「うう……哀れな」オーカー。
「「可哀想だな、俺達」」抱き合うウォルとオーカー。
なぜ、そこで他の勇者どもよ。涙ぐむ！？
「じゃ、俺。そこの娼館のカリスマホストね！」フェズ。
「便利屋辞めて、ホストクラブみなみでいいんじゃない？」アッシュ。
「自分は、お話したり酒飲んだりとか無理。真面目ですから」オーカー。
「それなら、私はフロアマネージャー的な感じで」なぜか参戦するレド兄さん。
「じゃ、ロンサールは用心棒。フォグルはペットね」アイル。
「は？」
他人事のようにボンヤリしていたフォグルが突然、名前を呼ばれて飛び上がる。
「よし、決まり。ねぇ、この書類。ホストクラブみなみに書き換えようか？」
アイルが申請書に手を伸ばした。
「却下よ。疾風弾！」
「うきゃあぁぁぁっ！」
「おぐへっ！」
勇者ズがまとめて吹っ飛ぶ。
ついでに安宿の壁も吹っ飛んだ。
「黙って聞いてりゃ、だぁれが誰がやり手ババだってぇ？」
怒りのオーラを背負って、両手の関節を鳴らす私を見て、勇者ズは床を這って一斉に逃げ出した。
逃がさへんわ！
「ほぉら、もう一回言ってごらん？」
「「ひぃっ……ごめんなさぁぁぁい……」」
私の靴の下で、アイルとウォルが悲鳴をあげる。
「あんた達に、いいこと教えてあげる。表だっての風俗営業は申請書に金がかかるのよっ！風俗やるなら、闇商売。オプションで法外にしっかりぶんどってきなさい！」
「やっぱり、俺達の身体を売るつもりだったみたいだな……」
「ミナミの考えてそうなことだ……」
コソコソと私に聞こえないように囁きあう、フェズとオーカー。
そこ、聞こえてるわよ！
「もう、しょうがないわね。じゃ、またクジよクジ！」
「「「え～っ！！」」」
「また、やるのぉ？生け贄クジ……やだなぁ」
前回大当たりのアイルは心底嫌そうだ。
私だって、やりたくてやってんじゃないのよ！
だいたい本来のゲームならこのイベント。今の地点で一番、ヒロインと好感度の高いキャラから相手が自然と選ばれるハズなの。
でも、ただいま勇者全員、聖女姫である私との好感度はすっからかんの、ゼロよ、ゼロ！
むしろ、あの怯え方はマイナスぐらいだわ……。
どうせ、一通り全員とラブイベントはやらなきゃいけないんだからこの際、誰でも良し！
早くさっさと決めて私の前に連れてきなさい……生け贄を！
じゃ、なかった。ラブイベントの夫役だったわね……アハハ……ハハ……。
