第48話 非常食ではありません!
「ちょっと待った!何か役に立つかも知れないじゃないの」
私はキメラを抱き上げた。
ふむ。なかなか温かくて思った通り、抱き心地はいいわね。クッションとしては合格かな。
ちょっとだらしなく開けられた口が気持ち悪いけど。
「役に立つか?それが」
二人の男の冷たい視線がキメラにグサグサと突き刺さっていた。カーディナルの方は私が抱いているのが気に入らない様子。
知るか、そんなこと!
「まぁ、多少は何かの役に立つといいんだけどね。ほら、あんた何か技とかないの?炎吐くとか。一応ドラゴンなんでしょ?」
私に催促されてキメラは何か気合いを入れてプルプル震えていた。
よし、ヤれ。
何か一つぐらい特技があるでしょ。
白いキメラはひっくり返りそうなぐらい、息を吸った。
「ケフッ」
ん?咳?
「おお!?」
これから炎でも出すのかな?
「ゲフフッ……」
「へ?」
イヤ、違うね。何か嫌な予感がしてきた……。
「オェェェ……!!」
「うげぇ!」
ほらぁぁぁぁっ!やっぱし!
「ガバッゲヘッグボガッ……」(要:キラキラ加工)
「もうヤメロぉ~!」
全員のツッコミがきれいに入った。
「ダメだな、ミナミ。こいつは抹殺しよう」
「それがいいと思います」
黒いオーラを纏ったカーディナルとフォグルから魔力がMAXに迸る。特にカーディナル。一睨みでこんなキメラなんかは跡形もなく消し飛びそうだ。
「う~ん……。でも、何かこの子、喉に引っかかってる気がしない?」
何かさ。喉にゲヘゲヘ引っかかってるような音だったのよね~。
「そうか?」
二人とも全く気のない返事。
「ちょっと待って。そんなものこの狭い空間でぶちまかされたら洞窟が崩れちゃうわよ。ほら見て、透視!」
私はキメラに軽くレントゲン状態になるように透視をかけた。
「うわ、キモッ」
キメラの身体が半透明になり、内蔵までご開帳してしまったため、映像的にかなりグロいものが……。
でもほら。あったあった。
何となく、波動みたいなモノが出てたのよね。
「ほら、やっぱり。この子の食道の下の方を見てよ?」
「我々がさっきから散々探していた魔封じの指輪のように見えるな」
カーディナルが冷たく言う。
「キュキュ?」
白いキメラがバカ面で私を見上げた。
この子、餌と石との区別もつかなくて食べちゃったのかしら……?
雑食?石を食べさせとけばいいなら、飼っても食費は楽ね。
「よし、フォグル。手をコイツに突っ込め」
ゲロまみれのキメラを嫌そうに見ながら、カーディナルはフォグルに酷い命令を下した。
「そんなことをしなくても手っ取り早く、こいつの腹をかっさばけば宜しいのでは?」
フォグルが何処からか取り出したナイフを光らせる。
何処から出したのよ?フォグル。
「キッキュッ~!!」
めっちゃ怯えるキメラ。
まぁ、そりゃそうよね。
「とりあえず、出るまで待ってあげなよ」
「何をです?」
「だから糞が出るまで……」
フォグルが嫌そうな顔で質問する。
「誰がその役目を?」
「それは同じ獣同士、だな?」
とカーディナルが面白そうにフォグルを見た。
「……なぜ主の命令とはいえ、下等な合成獣のクソを俺がチェックせねばならんのだ……殺すか?殺すしかあるまい」
暗い顔でブツブツ呟くフォグル。
「カーディナル。あんまりフォグル苛めないでくれる?」
明らかに面白がってるし。
そんなのキメラに自分でやらせればいいじゃないの。
「あ、そうそう。連れていくならこの子、名前を決めてあげなきゃね」
「ナミで良かろう」
私がいうと瞬殺でカーディナルから返事がかえってきた。
「あぁ、主人がミナミだからですか?」
少し立ち直ったフォグルが感心したように言う。
あぁ、なるほどね。
「イヤ、生ゴミの略だ」
「……」
感心して損したわ。
でも、名前とか考えるのってめんどくさいし。
「ま、ナミでいいわ。シロでも、タロウでもポチでも良かったけど。この子、ラスカスの残り物な訳でしょう?結果的に魔封じの指輪も見つかったし、ラッキーだったじゃないの。残り物には福がある、って聞いたことない?意外に運を連れてきてくれるかもね」
「そんな話は聞いたことがないな」
「全くないですね」
カーディナルとフォグルが声を揃えて言った。
そういう時は息がバッチリね。あなたたち……。
「とにかく!指輪入ってるからこの子、連れて戻るわよ」
「まぁ、非常食ということか」
カーディナルが呟く。
「キュウウーン!」
「だから食べないってば」
暫く、アッシュとレドに鍋に突っ込まないようにしっかり言わなくちゃかしらん……。




