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第44話 予想の斜め上を行く展開!

気合いを入れて魔力を集中させたはいいが、神殿の奥の崩れた壁の小部屋に身を寄せあって震えている女たちの姿を見てしまった。


さっきの魔力衝撃で、大分建物が傷んだようだ。パラパラと天井から小石や建材のかけらが彼女達の上に落ちてくる。



ちっ。


ここでもう一回、さっきと同じ事をしたら崩れるわね……仕方ない。



私はラスカスに向けて、指を立てて挑発すると壁から神殿の外に素早く移動した。


アイルはともかく、拉致された者達が下敷きになって潰されるのは防ぎたい。



「下品な挑発をするな。いつまで鬼ごっこを続けるつもりだ」

後ろから追いかけてきたラスカスを私は振り返った。

「それは当然、捕まるまででしょ?」


「ふん、人間どもに気を使ったのか。生意気に聖女っぽいことをする」

「あそこじゃ、狭くて思いっきり暴れられないからよ」

「可愛いげがないな」

ラスカスは皮肉げな笑いを浮かべ、虚空から剣を実体化させると私に斬りかかってきた。


防御盾(ディフェンスシールド)っ……!」

私も応戦しようと盾を実体化させた途端、



「……ぅうぁっ!!」

突如、閃光が走り、目の前に毒々しいほどの真っ赤な靄が出現した。



「楽しそうだな、我も混ぜてくれ」

赤い霧の中から現れたのは、銀色の髪を靡かせた長身の妖しい美丈夫。



「カーディナル!」

「我が君!」

ラスカスと私の声が重なった。



「久しいな、ミナミ…」

赤い瞳を細めて心底嬉しそうな顔で私に近寄ってくる、魔王カーディナル。


後退る私の腰にカーディナルは素早く手を回し、自分に深く抱き寄せた。


「ちょっと、何するのよっ!」

魔王の腕の中から逃れようともがいてみたが、強い力でがっちり捕まり、びくともしない。


「照れずともよいではないか、ミナミ」

「照れてないから!!」


いくら私でも、魔王と堕天使を相手にすることは無茶だ。


カーディナルをぶん殴って、振り払いたかったがここはグッと我慢。


魔石を集めきっていない今、この魔王を倒すことは物理的に不可能。ということは魔王と堕天使に囲まれてしまった今は、とりあえず隙を見て逃げるのが先決じゃない……。



「ラスカス、こいつに手を出すなと言ったはずだが?

ここで消えるか?」

私の下半身をイヤらしい手つきで撫で回しながら、サラッと怖い台詞を吐く魔王。


「貴方様に構っていただけるならば、それは全て私の喜び」

ラスカスは何を妄想してるのか、どこかイッてしまった目つきでカーディナルをうっとり見つめる。



げっ、変態だな。ラスカス。

ゲームのスチル通り、ラスカスは魔王に惚れまくってるみたい。


ヤダヤダ。

私の居ないところで勝手にやって欲しいわ。



「お前を喜ばせるだけなら止めておこう」

カーディナルを煽って、ラスカスを消すという手もあったわね……煽った後がタダじゃ済まなさそうで、実行する気になれないけど。


今も何故だか、頬擦りされてるし。


さっきまで下半身を撫で回してた右手は思いっきりつねってやったのに、性懲りもなく左手を上着の中に突っ込んできてる……。



そんな私たちをみて真っ赤になって悔しがるラスカス。


……おーい。そんなに悔しい?

代わってやるわよ、いつでも。



「どうでもいいけど、あんた本当は何しにきたわけ?」

私はモゾモゾと胸元を這い回っていた左手もつまみ出すと、魔王に尋ねた。


「お前がちっとも来ないので、退屈でな。仕方ないからこちらに出向いてきてやったのだ」

「誰も呼んでないわよ。魔石が揃うまで、大人しく魔王城で待ってればいいのに」

「いやぁ、我が飼い犬にミナミがマーキングされてるのをみたら、落ち着かなくてな~」

「飼い犬?フォグルのこと?」

「あぁ、あやつは我が城の番犬だ。お前の番ではないぞ」

カーディナルは私の首筋にフォグルと同じように顔を埋めた。


「……っ、ちょっ……!!やだぁ!」

カーディナルが私の首筋を舐め回していた。


ヌルッとする熱い舌の感覚が気持ち悪いけど、どこかゾクゾクする中から快感を拾ってしまいそうな自分が嫌だ。



「……カーディナル様は渡さない」

ラスカスが暗い目で呟くと、

闇烈槍(ダークネスランス)!」

身悶えする私の背中目がけて、突然闇の槍を投げつけた。



「邪魔をするな」

カーディナルは片手でそれを軽く払うと、赤黒い光を放つ、禍々しい光球をラスカスにぶつけた。



「……そんな!我が魔王……様ぁ!!」

ラスカスの姿はあっけなくその光球に呑み込まれて見えなくなった。



「カーディナル。彼は……?」

「次元の破れ目に棄てた。あやつのことだから、そのうち舞い戻ってくるやもしれんが、これで暫くは出てこれまい」

「……棄てたって……ゴミ?」

「そんなことより、やっと二人っきりだな。ミナミ、そろそろ我の城に来ぬか?」

カーディナルは改めて私の肩を掴んで、顔を覗き込んできた。


「全く。魔石集めるまで行く気なんかないわよ」

全力で首をぷるぷると振る私。


「そうか。では、ミナミについて行くことにしよう」

「……へ?」

「ぞろぞろと役立たず勇者どもと、大人数で旅をしているのであろう?我一人ぐらい増えたところで対して変わるまい」

「……はい?」

「決まりだ。では、さっさと村に戻るぞ。馬車があるのだろう?

その前にラスカスのヤツが隠した魔石を回収せねばな。フォグルの鼻があればすぐに見つかる」


魔王は、軽い足取りで悪趣味な神殿の方へ歩いて行った。



ええと……。


おかしくない?

魔王を倒すための魔石を、その張本人の魔王と探す旅って…?!



私は展開に全くついていけず、思わず頭を抱えてその場に座り込んだ。

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