第43話 エンディングの隠しキャラ?
「あれが、ラスカス?」
アイルを追って、神殿の奥深くまで入り込む。
神殿の祭壇の前に引っ張りだされたアイルの前に立っているのは、長い黒髪、冷たさが滲み出ている白皙の美貌の青年。
黒い、冷気を纏った闇のような姿。只者ではないことは一目瞭然だ。
私の問いにフォグルは黙って頷いた。
「やっぱり……」
「え?」
「あいつ、人間じゃないわよ」
私には、ラスカスの背中に羽が見えた。
闇色が広がる、カラスを思わせる漆黒の羽。
「ヒトじゃない?じゃあ魔族か?」
「似たようなもんね、しっ……」
柱の陰で、人差し指をフォグルに押し当てた。
両脇の男に押さえつけられ、無理やり顔をあげさせられたアイルを冷たく一瞥するラスカス。
「どうやってここまで忍び込んだ?」
「だから、何度も申し上げてるように兄を追って山を登ってきたのです……兄を、兄を返してください」
アイルのヤケクソのクサい演技は続く。
「ふん、ネズミを二匹つれてか?」
「はい?」
言われた意味がわからなくて、アイルが一瞬、間抜け面をする。
「いや、ネズミじゃないな。駄犬か」
ラスカスは冷笑を浮かべると、私とフォグルが隠れている方向へ手を伸ばした。
「やばいっ!」
「闇の刃舞」
無数の暗黒の刃が私とフォグル目がけて降り注ぐ。
「ミナミっ!」
アイルの悲鳴があがる。
「風の封盾」
私は飛び退きながら、とっさに防御を張った。
くっ……こいつ。さすがに上級者。段違いに詠唱が早い……!
油断すると危ないかも。
「ほう、女。お前いったい何者だ?」
感嘆の声をあげるラスカス。どうやら、避けられるとは思わなかったようだ。
「それは私のセリフよ。堕天使がこんな下界で何の用事?」
私のセリフに、ラスカスは大きく目を見開いた。
そして、低い声で唸るようにフォグルを睨みつける。
「フォグル!お前、一体何を連れてきた?」
「……さぁ?」
フォグルは肩をすくめて答えた。
「俺の封印を解いてくれるらしいからな」
「なんと!こいつが聖女姫だと言うのか?」
「ご名答。こいつで悪かったわね。というわけで、さっさとあなたの魔石、よこしなさい」
私は定番のセリフを吐いて、片手をラスカスに差し出す。
「魔石狙い……そうか。私が簡単にカーディナル様の所にいかせるとでも?」
「イチイチ面倒くさい奴ね。私の邪魔しないでくれる?」
「全く、口の悪い聖女だ。カーディナル様もこんな女のどこがそんなにお気に召したのやら」
ラスカスが構えに入る。
来る!
「さてね。そんなこと、本人に聞きなさいよっ」
と私が答える間もなく、ラスカスが瞬時に私の後ろに回ってきた。
身体を捻って、私はその鋭い蹴りをかわす。
その瞬間、ビュッと空気が鳴って神殿の壁にヒビが入った。
そのまま、後ろに大きく飛びのいて、ラスカスを睨みつけ、
「フォグル!アイルをお願い」
床に突っ伏して動かないアイルのフォローをフォグルに託す。
「闇の弓矢」
その隙をついて、ラスカスはすかさず細かい針のようなものを大量に放ってきた。
「くっ……極光斬!」
光の剣で、私は闇の雨を凪ぎはらう。
雷鳴のような魔力がぶつかり合う爆音が轟き、空気が渦を巻く。
さすが、天使族。
いや、元天使族か。魔力が半端なく高い。
さっきの攻撃もあらかた跳ね返したが、殆どダメージを受けていないようだ。
堕天使。
魔王カーディナルに魅せられて魔界に落ちてきた、天使。彼は隠しキャラとして、エンディング後に出現する魔王の片腕。
それがラスカスの正体。
なぜ、こんな序盤から現れたのかは、わからないけど。
「あのねぇ、こんなパーティーメンバーも揃わない序盤から、隠しキャラが出てくるなんて、反則でしょーが」
「お前が何を言ってるのか、さっぱりわからんな」
「わからなくて良いわよ……」
私は一気に勝負をつけようと、魔力を集中させた。
次で、片づける!




