第42話 山頂の神殿!
「ラスカスって何者なの?どこから来たのかしら?」
山の斜面を登りながら、フォグルに話しかける。
「さぁな。別に俺はラスカスの仲間じゃないから出自などは知らん」
庭だというだけあって、軽快に斜面を登っていくフォグル。さすが獣人。私も浮遊の魔法をかけながら、軽くジャンプしてついていく。
「待ってよぉ……」
アイルはだいぶ下の方に置いていかれて、ひーひー言いながら登ってくる。破かれたメイド服が一層ボロボロになって、見た目に悲惨になってきた。
「ハイハイ」
「空中浮揚」
アイルも浮かせて引っ張りあげてやった。
「わ~い、楽チンだぁ」
「あんまり跳ねると落ちるわよ」
アイルに忠告して、私は先を行くフォグルに話しかけた。
「ねぇ、さっきあの男たちに『フォグル様』って言われてたわよね?仲間なの?」
「まさか。俺はラスカスに魔力を封じられて山を追放された。様呼びは、俺が勝手に教団のシンボルにされてるからだろう。ラスカスの奴が何を考えてるかは、俺にはさっぱりわからん。ただわかるのは、奴は魔石で俺の力を封じた上級者だってことだけだ」
振り返ってフォグルが真面目な顔で答える。
「魔石を使えるの…?ますます、正体が知りたいところよね」
「それがわかれば苦労しないな。ミナミ、お前の力は重々わかったが、油断するなよ。あいつ、ラスカスは多分、普通の人間ではないぞ」
「魔族ってこと?」
「ならば、魔石が使えるわけはないと思うが?」
「そうね。魔族なら魔石に触ることも出来ないでしょうしねぇ」
魔族ではない。
この世界で魔族でもなく、人外の存在……。
ってことは?
思い当たるものは、ないわけじゃない。
隠れキャラ、隠しボス的なものがあったもの……。
もし、私の予測が当たっていたら……。
また、要らないトラブルが増えるだけのような気がするなぁ。
はぁ。とりあえず、考えるのは止めることにしよう。
「いや~、枝が当たる~!虫がついてくるぅぅ~!」
「うるさい、アイル」
私は大騒ぎするアイルを山頂付近に一気に蹴りあげた。
「ミナミ、ひどい~!」
アイルの悲鳴が遠ざかっていく……。
まぁ、谷とかに落ちなきゃいいかな。
§§§
「ついたぞ」
頂上には神殿のような、柱がいくつも空にむかって立てられた、古代様式を思わせる建物が立っていた。
崖下にせりだすように建てられたその神殿は角度によっては空中に浮かんでるようにも見える。
柱や、所々に配置された彫像には金の装飾が施され、陽の光を浴びてキラキラと光っていた。
「悪趣味ね~」
「あぁ、同感だ」
広大な神殿の裏側はまだ建築途中の様子で、土台から剥き出しになっている。
麓か山中から運んできたと思われる大理石を運び、土台を組み上げる若い男たちや、高いところで溶接作業をする男など結構な人数が建設に携わっている様子が見てとれた。
木材を運んでいた男が転ぶと隣で一緒に運んでいた男もスッ転ぶ。作業している男達は足元を何か黒いものに繋がれているようだ。
「鎖?」
「あぁ、全員繋がれているな。あと、逃亡防止で監視も配置されてる」
獣人の視力でフォグルが瞬時に確認する。
「生け贄さんたちかな?」
「そのようだな」
「よし、確認。アイル、GO!」
「はぁ~?何?なに?ウソっ、やだぁ……!」
山道を結局、私に蹴りあげられて登ってきたアイルの背中を作業場の方へ私は勢いよく押し出した。
つんのめるように、アイルは木陰から整地された作業場に転がり出る。
「何者だっ!」
「そこで何をしているっ!」
あっという間に二人組の監視に取り囲まれるアイル。
痩せた細面の男と小太りのがっしりした男のでこぼこした二人組だ。
「えっとお……山を登ってきたんだけど。ここはどこですかぁ…?」
怯えた顔でアイルが破れたメイド服を抱きしめるようにしゃがみこむ。
う~ん。女子にしかみえないな、アイル。
「なんだ?なんで女がこんなところに?」
「下の洞窟から逃げ出してきたのか?そんな報告はなかったが……」
痩せた方の男は見るからに怪しい、メイド服をきたアイルの全身をジロジロと眺める。
「ふん、上玉だな」
好色そうな顔をした背の低い男は震えるアイルの顎を持ち上げて顔をのぞきこむ。
アイルは嫌そうに顔をそむけた。
「なかなか高く売れそうだ……おい、手を出すなよ。値が落ちる。とりあえず、ラスカス様のところへ連れていくか」
「おい、女。立て!」
「やだぁ、ちょっと痛い。何するのさ」
「うるさい、黙って歩け」
痩せた方の男は後ろ手にアイルを縛りあげると、神殿の奥に向かって歩きだした。
「行くわよ、フォグル」
「なんで俺も」
「戦力だからよ。魔力封じられても、その辺の冒険者なら簡単にひねりつぶせるでしょ?」
「後方支援か?」
「そう。私ならあなたの封印を解いてあげれるわよ。メリットもあるでしょ。手伝いなさい」
「やれやれ。俺の番は人使いが荒い……」
「だから番じゃないってば」
「そうか?番じゃないとしても、いい香りと味だった。手伝ったらご褒美にさっきみたいに回復かけてくれるか?今度は咬まない……」
「イヤよ。わざわざ何で襲われなくちゃいけないのよ?ほら、行くわよ。見失う」
「ちっ、了解。仰せのままに、お連れしますよ。我が姫君」
フォグルが私の腰に手を回して私を軽々と抱き上げた。
所謂お姫様抱っこの体勢で、フォグルは足音を消して前を進むアイル達を絶妙に追う。
うん。
私、ちょっと姫っぽいじゃないの。
引き締まった筋肉質の胸の中から、フォグルのアイスブルーの思わず吸い込まれてしまいそうなほど綺麗な瞳を見上げる。
銀色の狼王子、ってところかしら。どことなく野生の寂しそうな香りがマニア受けしそうよね。
私はプレイしていないけど、獣人エンドは一部に熱烈な支持者が居たことを思い出す。
レベルが低い、顔が取り柄だけの勇者たちより、よほど戦闘ではあてになるし……。
勇者ズはもう、モーベットさん家に置いて、このままフォグルと魔王城目指した方が効率いいかもしれないなぁ、と思ってしまったわ。




