第39話 聖女姫は面倒くさいのはお嫌いです。
「何かお前ら、誤解してるな。俺は人間など喰ったことはない」
銀髪獣人のフォグルが嫌そうに答えた。
「じゃあ、今まで捕まった生け贄はどこへ?」
「さぁな。俺もラスカスが何処へ連れていってるかは知らん。ヤツが良からぬことを企んでいることは間違いないが…」
「さっきの奴らも言ってたけど、ラスカスって何者なの?」
「『フェンリス神魔の会』って邪教の教主だ。俺も何者かは知らん。あの洞窟やら、シーモス山中に怪しげな施設を建てて、人間を集めているようだ。生け贄とやらはそこかもな」
「新興宗教?アイル、知ってる?」
「全然知らな~い」
顔の前で手を振って否定するアイル。
「俺達の一族を勝手にシンボルにしているが、会の中核の奴らは俺は全く知らない。半年ぐらい前に突然、この辺りに現れたヨソ者達だ」
「ふ~ん、であんた、フォグルだっけ?ここに住んでるんでしょ?そのラスカスとかいう奴に好きにさせておいて、よく平気ねぇ」
「平気ではない」
吐き捨てるように言うフォグル。
「好きで俺が奴に屈してるとでも思うのか?」
「あら、屈してるの?上級のフェンリスならそんな怪しげな人間達、一瞬でここから追い出せるでしょ?何か訳あり?」
「女、お前ら冒険者か?」
「そうだよ~。僕は一応勇者ね」
アイルが嬉しそうに答える。
「お前!もしかして男……?」
フォグルは目を真ん丸にして驚いた。
あ、やっぱり?女子だと思っちゃうよね……。
「イヤ、別に人の趣味や性癖をどうこういうわけではないが……」
魔物なのに、フォグル、意外に真面目だな。
「あぁ、今回はたまたま生け贄ファッションなだけ」
メイド服で女子メイクして勇者だと名乗られても、普通どんな勇者だ!って思うわよね……。
「……とりあえず、冒険者なら魔石のことは知っているか?」
気を取り直して、質問してくるフォグル。
「魔王を封じている伝説の石のこと?」
「そうだ。ただし伝説ではない。実際に現存する」
そんな、大層な秘密を打ち明ける感じで言われなくても知ってるわ。それ目的で来てるんだし。
空気を読んで黙って聞いてあげる私。
「大きな声では言えないが、そのうちの一つがここ、シーモス山にあるんだが…」
「そんなの、知ってるに決まってるじゃん。そのために、僕達こんな山までわざわざ来てるんだし」
人が折角、気を使ったのにぶち壊しだな、アイル。フォグル、シュンとして耳がペタンと垂れてるじゃないの。
「ねぇねぇミナミ。魔石って、この大陸中の魔物ダンジョンの奥にある石でしょ?魔王の眷族が守ってるんだよね。何か魔力とか増幅してくれるレアアイテムなんだっけ?」
「魔石は魔王、魔族を封じるものだから、人間に魔力を与える訳じゃないわ。ただの人間が手に入れても魔除けになる程度ね。一般人にはそんなに役に立つものではないわよ」
「え~、そんなもんを僕ら必死に探してるの?」
「しょうがないでしょ、魔王城に行くために必要なんだから」
「やけに詳しいな。お前ら本当に何者だ?」
全身の毛を逆立てるようにして、私達に警戒心を剥き出しにするフォグル。
まぁ、一人は女装した自称勇者。しかもさっきまで男に襲われてたヤツだもんねぇ。確かに冒険者だとしても怪しさ満載。
「だから勇者だって。魔王退治に行くところなの(ミナミが)!」
「魔王退治……お前がか?何の冗談だ……?」
上から下まで無遠慮にじろじろ眺めて、アイルを小突くフォグル。
「イヤ~ン!ミナミ~ぃ、このワンちゃんヒドいよぉ~」
「まぁ、事実だから何にもヒドくはないんじゃない?」
「え~。ミナミはワンちゃんの味方?」
アイルに構ってると話が進まない。
「フォグル。では今度はこちらから質問いいかしら?例えば今、フォグルをぶち倒したら、魔石を譲って貰える?」
「こっちのお嬢さんも大した自信だな……意味分かってるのか?」
私正直、もうちょっと面倒くさくなってきちゃったのよね。
新興宗教だの、生け贄だの非常に厄介そうじゃない?目の前のこの子、ぶち倒して終われるなら、さっさと厄介事はスルーして、おしまいにしたい……。
「じゃ、戦闘開始する?」
そう宣戦布告すると同時に簡単な呪文を完成させる。
「地爆陣」
その辺の木陰を派手に吹っ飛ばす。
「やめてよ、ミナミ!埃まみれになっちゃうじゃん」
派手に巻き上げられた土埃を被って、アイルがキャンキャン喚く。
「自分で何とかできるでしょ」
「やだよ~、お風呂がない時にとっときたいもん。キレイキレイは寝る前にするって決めてるの!」
アイルの勇者初期スキルはクリーンだ。きれい好きなアイルは重宝してるみたい。ただし、1日一回しか使えない。やっぱり、基本は役立たずスキル……。
「魔導技?まさか、コイツら上級者……?」
フォグルが呆然として呟いた。
「聖魔斬!」
土埃を巻き上げ、注意を反らした隙に魔斬撃をフォグルに叩きつけた。




