第36話 生け贄メイド?
「生け贄クジよ!さぁ引きなさいっ。赤い色のついた串をひいたら、ソイツがもれなくご当選!」
「なにこれ?」
夕飯で使った串焼きの串を珍しそうに眺めるアイル。
「え?クジって知らない?」
「知らな~い」
「これをひいて、先っぽが赤いのをひいたヤツが選ばれし生け贄ってわけ。わかった?」
「は~い」
「ミナミせんせ~へ質問!」
「ハイ、アッシュ君」
「交換はありですか?もしくは最初から全部赤にしとくとかはありですか?」
「不正はいけません!」
「ちぇっ」
「今、舌打ちをしたのはウォル?無条件で生け贄にするわよ」
「先生~、横暴!」
全員生け贄でも良かったんだけど、後が面倒くさくなる(助け出す手間が増える)と困るので、とりあえず私ともう一人で「生け贄って」来ようかと思う。
「ハイ、じゃあひいて」
一斉に串の入った紙袋に手を伸ばすイケメンへたれ勇者ズ。
「だぁれだ?」
「あっ、ヤダ~!僕じゃん!!」
騒ぎ出したのは、アイル。
「本当だ。アイルの串の先っぽ赤いや」感心するのはアッシュ。
「俺じゃなくて良かったぁ。食うのはまだしも、狼に喰われるのはちょっと……」ウォル。
「また餌にされるかと思った…」と見た目にほっとしているフェズ。
「ドキドキしましたねぇ」とニコニコしてるのはレド。
「これって赤か?」串に残る薄い模様に真剣に悩むオーカー。
「生け贄はアイルね……」
ちっ、やっぱり細工をしとけば良かったかも。
一番うるさいのがひいちゃったなぁ。
どうやって連れていこうかしらん。
……そうだ!
「モーベットさん、ちょっとお願いがあるんですが?」
「はい、なんでしょう」
ニコニコと私たちを眺めていた邸の主人に、私はあることをお願いした。
快く了解して頂けた。
ラッキー♪
偶然だけど、いいヒトに会えて良かったわ~。
§§§
「めちゃ似合う~!可愛い~」
大きな姿見の鏡の前で、アッシュが喜んで手をたたいた。
「うん、なかなかの出来映えじゃね?」
メイク道具を置いて、満足そうに眺めるフェズ。
「どうよ、ミナミ?」
「うん、まぁまぁじゃない?」
目の前に押し出された、フンワリとしたメイド服を着た金髪美少女をジロジロと無遠慮に私は眺めた。
「まぁまぁって…。ミナミより可愛いでしょ?」
目の前の美少女がピンク色のつやつやした唇を尖らせる。
「ハイハイ、ソウデスネ」
「心がこもってない!」
何故にか怒る美少女は、アイル。
モーベットさんに昔の使用人部屋から衣装とか借りたの。
分からないけど、向こうも生け贄は女二人の方が油断するかなって。別々に捕まっても厄介だしね。
「まぁまぁ、化けたんじゃね~の?俺やオーカーじゃ似合わね~わ」
また、台所からくすねてきたらしい果物を口に入れながら、ウォルが感心したように言った。
「僕がチビだって言いたいの?ウドの大木のクセに」
アイルは気にしてるのか、ウォルを睨む。
「まぁまぁ、アイルはまだ年齢的にこれから伸びますよ。私もアイルぐらいの時はそれぐらいの身長でしたよ」
みんなのお兄ちゃん、レドグレイが優しく慰める。
「レド~!」
アイルはレドの胸にノリノリで飛び込んでいった。
苦笑して受け止めるレドグレイ。
見た目は金髪美少女アイルを抱きしめる優しげなイケメンの図が出来上がった。
何やってんだか……。
「これからどうするんだ?」
アイルたちがキャッキャ、遊んでいるなか、真面目なオーカーが真っ当な質問をしてきた。
「そうねぇ、まずはフェンリスを拝みに行ってみようと思うんだけど」
腕組みをしながら答える私。
そんな大した作戦は考えてない。
まぁ、敢えていうならば、「生け贄美少女二人が志願したら勝手にフェンリスの前に連れてってくれないかな?」というユルーい作戦?
さてさて、上手くいくかしら。




