第34話 お化け屋敷?
「はぁ、こんなところに屋敷があって良かったね~」アッシュ。
「アッシュ、ちっとは人を疑ったら?こんなところに屋敷があるのは変じゃない?きっと変人だよ」アイル。
「ん?そうか?」オーカー。
「ここ、お化け屋敷みたいだよな」ウォル。
「ウォル、それは言い過ぎですよ」レドグレイ。
「旨いワインとかあるかな~。セキュリティ甘そうだからちょっとぐらい飲んでも大丈夫かも」フェズ。
「あんたたち!内緒話するならもうちょっと小さな声で喋りなさい!!」
野宿覚悟で馬車を走らせていたところ、村から大きく外れた岩山の前に寂れた洋館を発見。
廃屋でもいいから屋根のあるところに泊まりたい!とワガママをいうアイルに押しきられて、門扉をたたいたところ、快く主人が中にいれてくれたのだった。
「いいんです。まぁ、ここはお化け屋敷みたいなものですよ」
ここの主人、モーベットさんが私たちの会話に苦笑しながらお茶をすすった。
50代ぐらいだろうか。こんなところに独り暮らししているんだから、何らかの訳ありなんだろう。
「先代のここの主人が変わり者でしてね。世捨て人、というか偏屈な独り者で。最近、私が譲り受けたのですが、手を入れようにも人手がないのでどうしようもないですねぇ……」
「リフォーム業者が居ないってことですか?」
レドが愛想よく会話の相手をする。
いつの間にか、台所を借りたアッシュが軽食を用意していた。
うぅん。本当に生活力のある兄弟だこと……。
「ディケム村は結構大きい集落なので、以前は業者も居たんですけどね。今やどこも閉店か撤退してしまって……必要な物資も滞るぐらいの状態ですね」
「モーベットさん、今、ディケム村で何が起こってるんですか?」
私はアッシュの淹れたお茶を啜りながら一番気になっていた質問をした。
「何が、と言われると答えにくいですねぇ。端的に申し上げるとシーモス山の魔物の呪いですかね」
「魔物の呪い?」
アイルは面白そうな顔をして食いついたが、フェズは嫌な顔をした。
「毎月、魔物が山から降りてきて人間の生け贄を要求するのですよ」
「生け贄?イマドキ?」
「はい。生け贄に求められるのは若い男女」
モーベットさんの言葉に顔を見合わせる私達。
「そうですね。皆さんならピッタリです。ディケム自警団と称する怪しげな輩が居るのですが、奴らに捕まらずここまでおいでになったとは…本当に運がいい」
「それって、村の入り口に居た感じの悪いゴロツキ戦士のことか?」
「さっき、僕たちが吹っ飛ばしちゃった奴らじゃないの?」
アイルとウォルの言葉に驚くモーベットさん。
「何と!奴らを吹っ飛ばしたとおっしゃいましたかな?」
「はい(ミナミが)」
力強く頷くオーカー。
「一瞬で(ミナミが)」
カッコつけて親指を立てるウォル。
また、お前ら主語が抜けてるよ……。
「ほほ~っ。一瞬ですか。こりゃ、驚いた。奴らはかなりの数のC級冒険者を雇っているのに。見かけによらず、皆さんお若いのに腕の立つ冒険者パーティーなんですね……」
「ハハハ……」
C級かぁ。私以外は全員瞬殺だろうけどね。
「しかし、C級をそんなに雇えるなんて景気がいいですね。魔物討伐のためですか?」
「逆ですよ。魔物はどうやらB級以上らしく歯がたたないので、怒りを鎮めるための生け贄を連れていく役目です」
「なんだソレ」
とウォル。
「だから、ここの村の人たちは閉じこもってるんだね」
とアッシュ。
「そうです。特に月末、明日は生け贄が山に連れていかれる日ですからね。毎月、月末になるとゴーストタウンのようです。誰も村には出ようとはしませんよ」
「大きな街道なのに、旅人が一人も居ないのは何故です?」
レドがモーベットさんにお代わりのお茶をすすめる。
「あぁ、これはどうも。そうですねぇ、最近は情報社会ですから。イマドキ、ディケムの魔物の話を聞いてシーモス山越えを選ぶ旅人はいません。街道を上がってくるのはまぁ、海路を選びたくても金銭的に難しい方ぐらいでしょう。もしくは、皆さんのように、余程腕に自信のある冒険者か」
しまったなぁ。
私はなまじ攻略サイトの情報が頭に入っているから、情報収集なんてしてなかったわ。きちんと周辺の町で聞き込みするべきだったわね。
ま、どちらにしても海路をとるお金はないから、ディケムを強行突破は変わらなかったかな……。




