第33話 麓の村ディケム
「そこの馬車止まれ!全員降りてこい」
スパを出てから北上し、シーモス山の麓の村ディケムに入ったところで突然馬車を止められた。
窓から覗くと、街道から村の入り口に入ったところでゴツい武装した戦士や雇われた傭兵に行く手を塞がれ、取り囲まれている。
ふうむ?こんなイベント、あったかな?
いきなり警棒を目の前に突き出され、動揺している馬達を御者台のレドが宥めて落ち着かせる。
「何でそんなこと、突然命令されないといけない訳?」
アイルが偉そうに馬車の入り口から戦士たちを見下ろす。
「邪魔だからお前らが退けよ」
ウォルテールも続いて中指を立てて挑発する。
あんたたち、弱いんだからやめなさいよね。
「何……?」
ギッ、と眼光鋭く一番前にいた気の荒そうな戦士に睨まれ、二人とも私の背中の後ろにあっという間に隠れる。
「ミナミ~、後は頼んだ!」
「遠慮なくやってやれ」
「なんだ、女。お前がこいつらの主人か?」
押し出された私に威圧的に戦士達が詰め寄る。
「火炎壁!」
私に手をかけようとする目の前の男に向かって、とりあえず一発。
「ぐわぁっ!」
あっという間に炎に巻かれて、後ろにいる男たちごと吹っ飛んでいく。
「ナニぃ?!」
「この女、上級の冒険者だと?!」
驚きに目を向いて、焦りながらも剣を抜いて打ちかかってくる男たち。
「音速の一閃」
瞬時に全員吹っ飛ばす。
「ぐぎゃあぁっ!」
あっという間に全員、白目を向いて地面にキスしていた。
うん、目の前スッキリしたね。さて、行きますか?
「うっひゃ、容赦ね~な~」
フェズが顔を出す。
「ちょっと、あんたたちも手伝いなさいよ!」
フェズとオーカーにも、気絶している男たちを馬車が踏まないように、街道の隅に蹴り転がすのを手伝わせる。
「しかし、何者でしょうね」
とレドが吹っ飛ばした男たちを器用に避けながら器用に馬車を進めていく。
「う~ん、せめて名乗らせてからにすれば良かったかも」
問答無用で吹っ飛ばしてしまった。
強制的に目覚めさせて尋問する手もあったけど、面倒くさくて……。
ま、村で情報収集してみましょ。
村の中心部へいつものごとく、食堂や宿屋を探して馬車を進めていった。
「……」
「休業中」
「本日の営業は終了いたしました」
行けども行けども全く、空いている店が見つからない。
おかしい。
だいたい日暮れ前だというのに、街道を歩く人っ子ひとりいない。そこそこ街道沿いに店舗や人家も建ち並んでいるのに、飲食店の入り口は閉ざされ、ゴーストタウンのように静まり返っている。
「廃墟?」
「いや、人は居るみたいだけど?」
アッシュが水路に人家から流れてくる水を指摘する。
「何か訳ありだね。ヤダヤダこの雰囲気」
アイルが村を見回して身震いする。
ガラガラと街道を進む私たちの馬車音が、やたらと大きく響き渡る。
あまりの静寂に、村全体からじっと息を潜めて見つめられているような錯覚に陥る。
「どうする?レド」
御者台の頼れる年長者に相談する。
「今夜は野宿にします?」
「そうねぇ、あの辺りはどう?」
私が示した場所にレドも同意し、遠目にも山肌に岩場の洞窟のようなものが見える村外れに進路を変更する。
「え~!ヤダヤダ。お外だと虫とか来るじゃんか!」アイル。
「腹減った!腹減った!腹減ったぁ~!!」ウォル。
「喚くと余計にお腹すくよ?」アッシュ。
「宿にいつから営業か聞いてみたらどうだ?」オーカー。
「そんなことするぐらいなら、脅して強制的に宿を開けさせたら良いだろう?」フェズ。
「今日は野宿します!脅したりとか、そういうことすると後々面倒だから、するならフェズ一人でやるように。多分、勘だけどこの村には居ない方がいいと思うの……」
「なにそれ、野生の勘?」
私の野宿宣言に反対派アイルが絡んでくる。
「嫌ならあんた一人でここに残りなさい」
「アイル、街道に旅人が居ないなんて異様過ぎるもん。ミナミの言うことは正しいと思うよ」
アッシュの言葉に渋々、馬車の奥に引っ込むアイル。
そうなのよ。アッシュの言う通り、異様過ぎるの。
この村を越えないと、シーモス山を越えて陸路で隣のヴェスタ王国に行くことはできない。
海路でも行けないことはないが、結構な船賃を取られてしまうから、金持ち以外は陸路を取らざるを得ない。私たちの他にも相当数の旅人が街道を北上して先に通行しているはずだと思うんだけど、一人も見当たらないなんて、本当に異常事態。
異常事態?
ちょっと待って。
ディケムのイベント……。
思い出したわ。
何か、この山にやたら強い魔物が巣食って通行止めになるのがあったような気がする。
初級者は迂回して、レベルアップしたら後日挑むようなヤツだったような……?
それかな……?
序盤過ぎて、あんまり覚えてない。最初の魔石を回収したヤツだ。
勇者を集める前に、私、ここのイベント攻略はあっさり主人公のチート姫一人でボス倒して、魔石を回収し、あっという間に山を一人で越えちゃったんだよね。
う~ん。勇者集めてからって、どうやって攻略するんだっけ……シナリオ、全く覚えてないなぁ。




