第31話 セラドンスパの夜!〈前半〉
「本当にお風呂入れたね~」
「ここらの山は火山だったみたいですね」
アッシュの濡れた髪をタオルで拭く面倒見のよい兄のレドグレイ。彼は生き物(人間含む)全般に優しい。
「スッキリした~!」
スパで一泊することを強硬に主張したアイルは、ご満悦でラウンジで寛いでいる。
結局、馬車から見えた集落のセラドン村でランチをとり、スパの看板につられて一泊することにした私達。
これも重くなった財布のなせる所以である。
「これ、うめーな~」
「ウォル何杯目だ、それ」
「あ?」
備え付けてあった、地元のミルクティー的な飲み物をガブガブイッキ飲みするウォル。
「腹壊すなよ」
オーカーは真面目に忠告するが、ウォルテールは聞いちゃいない。
風呂あがり、半裸でキラキラと色気を振りまいて、まったりと寛ぐ勇者達にチラチラ視線を送りながらスパの女性従業員たちが、うっとりしてムダに廊下を往復している。
こら、お前ら金払え!
思わず、おひねり箱でも設置しようかと本気で思ってしまった…。
う~ん、アイドルグループにして興行でもしたろか。クエスト受けるより、実入りがいいかも。
明らかに踊れないヤツ(オーカー)が居るから、バンド系かな……一日に4回ぐらい興行したらそこそこ、グッズ販売とかあわせて儲かるんじゃなかろうか。
年齢で二組ぐらいに分けて、握手会とかサイン会で稼いで……金持ち女にレンタル的に大金をふっかけて貸し出した方が、小金集めるより早いかな……。
「あっ、またミナミ姫が悪い顔してる~」
アッシュが私を見て、また要らんことを兄に報告する。
「そうですね、あれは多分お金系じゃないですか?」
本当に人間観察は鋭い兄弟だこと。
ま、こんな北の山の方じゃ無理ね。確か、シーモス山を降りた向こうに大きな町があったはず。資金が尽きたらやってみる価値はあるかも。
「フェズ、それ何?酒じゃない?」
アッシュがフェズのコップに顔を近づけて鼻をクンクンさせた。
「あ?そこのカウンターから拝借してきたんだけど、まぁまぁいけるかな?」
勝手に地酒をロックにして飲みに入るフェズ。
湯上がりもあって、もうほんのり薔薇色に出来上がってきてる。
ちょっと、アルコールは別料金で後で請求されちゃうんじゃない?
カウンターは無人だからセルフサービスなのかしら?
「なんだ、それ。美味いのか?」
「お前はやめとけ、ウォル」
近寄ってきたウォルを押しのけるフェズ。
「はぁ、子ども扱いかよ?」
「イヤ何となく勘だけど、お前アルコール弱いだろ?」
「果実酒ぐらいなら大丈夫だ」
「やめろって、わぁ~全部飲むな!」
フェズのコップをイッキに飲み干すウォルテール。
「これ、結構度数高いぞ?」
「大丈夫?」
レドグレイが酒瓶を取りあげ、アッシュがウォルを覗きこむ。
「ウォル?」
げ、何か目が据わってない?
「おい、こらテメー!」
ウォルが私に向かって指を突きつけた。
「へ?」
私かい?
「いつもいつも、俺のことをバカにしやがって…」
はぁ、その通りですがそれが何か?
「聖女姫か何か知らないが、今日こそは思い知らせてやる!泣いても許してやらないからな!」
「絡み酒か…」
「タチ悪いですね」
フェズとレドグレイが呟く。
「うぉーっ!」
赤い顔して私に突進してくるウォルテール。
「氷結弾」
お約束のように私に吹っ飛ばされ、床に叩きつけられる。
「それで頭を冷やしなさい」
「うわ~、やっぱりミナミは容赦ないな~」
アイルが動かなくなった赤い顔のウォルをツンツンした。
完全にウォルはのびてしまったようだ。
「もう、フェズ!アルコール禁止。それ返してきて」
「残念。結構色々あったから試したかったのに」
フェズの後ろからずらっと酒瓶が何本か出てきた。
「うわぁ、綺麗な瓶だねぇ」
「アイル、お前もやめとけ」
オーカーが止めに入る。
「何でよ。たまにはいいじゃん?」
「禁止って言ったでしょ。あんたも氷欲しいならあげるけど?」
酒瓶を抱えたアイルに私はニッコリと片手を差し出した。私の手の上には、巨大な氷の結晶が浮かび上がっている。
「アハハ…やめとこうかな~」
乾いた笑いを浮かべてフェズに瓶を返すアイル。
その時突然、グズグズとすすり泣く声が後ろから聞こえてきた。




