第30話 馬車をゲット!
「快適~!」
アイルが馬車の中ではしゃいだ。
「こら、暴れない」
皆のお兄さん的存在のレドグレイに優しく注意される。
「なに一人で食べてんだ?ウォル」フェズ。
「ダメ!それお昼ごはんだよ!」アッシュ。
「え?おやつじゃないのか?」ウォル。
「もうパンケーキ、空だぞ」オーカー。
「どうするのさ。責任もって何とかしなよ!」アイル。
「仕方ありませんね、次の町で何か食べましょう」レドグレイ。
飛び交う台詞たちが、日々増えていく……。
賑やか過ぎだけど、まぁいいか。
いつもなら、私は「うるさ~い!全員置いてくぞ!」と喚くところだが今日は機嫌がいい。
だって、馬車があるんだもん。
私たちは先週までの徒歩移動から解放され、馬車という移動手段を手に入れたのだった。
テラローザの馬たちは、レドの進言で飼料を別メーカーに差し変えた途端、落ち着きを取り戻した。
無事に品評会も済んだことにテラローザのブリーダー達から、私達一行(殆どレドグレイ)は大いに感謝され、御礼として立派な馬車を譲ってもらったのだ。
コーラルリーフの町でクエストの報酬や行き掛かり上、殺人犯を捕まえた報償金やらをゲットしたので多少は財布もあったかい。
これから北の山岳方面は道も険しくなる一方なので、徒歩から解放されたことは本当に助かった。
「そういえば、ロンサールって何処にいるんだろうね。兄さん達、どこまで一緒だったの?」
アッシュが兄に尋ねた。
「ティント村出て直ぐかなぁ?」
「そんなに早く?」
アッシュが目を丸くする。
「アイツ、無言で黙々と早歩きするから僕達ついていけなくてさ」
フェズが口を挟む。
「今頃何処に居るんでしょうねぇ」
レドが窓の外を眺めた。
「あっ居た!なんつって」ウォル。
「別人だろ、あれは」オーカー。
「もっとロンサールってデカいし、あれより若いぞ」フェズ。
「それより、まだ町に着かないの?」アイル。
「あの山の麓に見えてきたよ」アッシュ。
「町っていうか集落じゃね…?」ウォル。
「え~!お風呂入りたかったのにぃ」アイル。
こんな旅してて、風呂なんか諦めろよ、アイル…。
そして、そこにやっぱり絡みにいくのはウォル。
「その辺の池に浸かっとけ」
「やだよ、何か変な虫とかいそうだもん」
「本当に面倒くさいヤツだな、お前…」
「ウォルと違ってデリケートですから」
「どーいう意味だよ」
「口の回りにさっきのパンケーキのジャムついてても平気な人とは違うってこと」
「へーへー、悪かったな」
アイルの服にわざと口元を押しつけてグリグリと拭くウォル。
「ギャー、やめてよっ!」
ウォルを蹴りあげるようとするアイル。
アイルの足をよけたウォルが、椅子から床に転がり落ちて派手な音をたてる。
「いってぇ~!!」
「うるさ~いっ!いい加減にしろっ!あんたたち、暴れるなら外へ行きなっ!」
やっぱり、ぶちギレて私が叫ぶことになるのよね……。
馬車でも基本、旅のスタイルは変わりませんでした。




